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横領の代償

 バルテン一族が街に乗り込んで来てから4日後、年配で線の細い老人3人がオイゲンの街のヤーコブ屋敷、仮の代官屋敷に出頭して来た。今回は若い武闘派と思われる農夫達はいない。恐らく力尽くでは勝てないと諦め、会話路線に切り替えたのだろう。

 俺は一応、3人の老人達を応接室に通し、俺と文官の長オスヴィンと文官家系のファビアンで応対する。一応ヴァルブルガ、ニクラスには部屋の中で俺の後ろに立たせ、警備させている。監視者のアルノー君は相変わらず、部屋の隅に椅子を置いて勝手に座っている。


「ヤーコブは長年オイゲンの街を守って来た功労者じゃ、少々の小銭を掠めたからといって処刑なぞ無体であろう」

「それに儂らバルテン一族の働き盛りの男どもを拘束されて、農作業にも支障が出ておる。その責任をどう取るつもりじゃ」

「儂らだって穏やかに暮らしただけなのじゃ。お主がこの地を納めるに相応しい度量を見せるなら、子爵の代理として認めてやろうて。余所者には分からんかもしれないが、この地はバルテン一族の元に繁栄して来た土地じゃ。儂らバルテン一族なしでは決してやっていけぬのよ」


 それでも下手に出るつもりはないのだろう。あくまで上から話してくる老人どもだ。よし、容赦する必要はないな。まあ、最初から容赦するつもりはないが。


「ヤーコブが横領した金が小銭とは恐れ入る。だったらその小銭を返してもらおうか。証拠のある分だけで金貨約三千枚。それに罰金を加えて金貨一万枚を支払って貰おう」


 俺がそう言うと、老人達へ目を剥いた。さっきまでの落ち着きはかなぐり捨てて、大声で(わめ)き始める。


「馬鹿な、そんな金があるか」

「それに金貨三千枚を横領したから、金貨一万枚を払えなんて無法だろうが」

「やはりお主にオイゲンの街の統治は無理じゃ」


「ファビアン」


 俺がひとこと言うと、このハイテンション男が喋り出す。


「はーい、はーい、はーい、

 横領金額に対してその2~3倍の罰金はカウマンス王国の刑法では合法なのですよ。


 はーい、はーい、これはベアクマイスター事件、キュプカー事件という前例がありますですよ。ベアクマイスター事件は横領の最も有名な事件として判例集にも出てますですし、私はキュプカー事件の裁判を傍聴したので間違いないですよ。


 寧ろ、はーい、はーい、横領の金貨三千枚という額も十年前までの物証のあるものだけで、ヤーコブさんは三十年の在任期間があるので、その期間も住人の証言を元に直近実績の三割を横領額とみなし、横領額は合計金貨五千枚としても問題なしですよ。


 その場合、はーい、はーい、罰金も含めて最大金貨二万枚(約二十億円)になる可能性もあるのですよ」


 それを聞いて老人達は青い顔になる。


「き、金貨二万枚なんて荘園全てを売っても」


「はーい、はーい、金額が大きすぎるので罰金を払えないなら一族郎党死罪ですよ」


「ぴぎゃ」


 老人の一人が気絶して倒れた。他二人も息が詰まったように胸に手を当て、苦しそうに息をしている。


「まあ、俺も鬼じゃない。条件を呑むなら一族郎党皆殺しは見逃してやろうじゃないか」


「ほぇ、そ、それは何ですじゃ」


 まだ意識のある老人二人は、蜘蛛の糸のような僅かな光明に縋るようにこちらを見る。俺は条件を告げた。罰金はバルテン一族の持つ資産の七割、金貨三千枚(約三億円)とする。全額没収すると破れかぶれになって何をするか分からないので、そこまでは追い詰めない。

 死刑はヤーコブ、コンラートの二人だけとし、街の兵士でコンラートと共にアロイス殺しに関わった者達は犯罪奴隷に落とす。後から街に武装して抗議しに来た農夫達は、今後とも畑を耕し納税してもらう為にも見逃す事にした。

 ただし、バルテン一族の荘園は今後十年間農作物の七割を納税する事、今後この件に一切の異議申し立てをしない事、俺が人手が欲しい時には率先して手伝う事を約束させた。老人達は悲壮な顔をしていたが、結局受け入れるしかなかった。




「儂が、儂が、儂が、代官じゃーっ」


 角度を変えて3カメ連続切り替えカットで映されそうなセリフを吐いて、ヤーコブは広場の真ん中で処刑された。その瞬間、広場に集まっていた住人達から歓声が上がった。代官が税を上げ着服していた事は領中に知れ渡っていたので、近隣の村からも見物人が来ていたかもしれない。

 バルテン一族との話し合いから一週間後の事だ。続いてコンラートも処刑される。代官ほどではないが、ここでも歓声が上がる。ひょっとすると、コンラート達に暴行されたり強請られたりした人達かもしれない。




 その後、コンラートと一緒にアロイスを殺した兵士達は、他にも暴行や強請り等の余罪があり犯罪奴隷として売られた。犯罪奴隷の売却も祭りの食料も王都屋敷の借金の件で協力してくれたマッテゾン商会の口利きで集めたので、商会にもそれなりの手数料が入っただろう。商会には今後も色々協力してもらいたい。


「えっ、いいんですか?

 ありがとうございます。これで王都の兄弟達にも胸を張れます。


 いえ、子爵家の文官というだけでも十分だったのですが。

 レン様とコジマ様に忠誠を誓い、粉骨砕身の気持ちで頑張ります」


 代官だったヤーコブを処刑したので、新しい代官にはアードルング子爵の三男オスヴィンを正式に任命した。ゴットホルトが文句を言っていたが、ファビアンと3人でオイゲンの街を正常に運営していってもらおう。そういえば、コジマちゃんにはいつ会えるのだろうか。

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オスヴィンは妥当な人選だけど手元はどうすんだ
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