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バルテン一族

 オイゲンの街の代官ヤーコブ達を拘束した翌日から、街に連れてきた文官長オスヴィンの元、ゴットホルト、ファビアン達文官に屋敷の捜索と住人への聞き取りを行わせ、代官や兵士長達の不正を調査させた。その際、念のため祭りに際して雇った冒険者達とは契約を延長し、文官を護衛させる。

 接収したヤーコブ屋敷を捜索すると代官の不正が次々発掘され、税を水増し請求して差額を横領、古い記録はもう残っていないが、少なくとも直近十年で金貨三千枚(約三億円)を懐に入れていた事が分かった。彼が代官として在職していたのは三十年以上らしいので横領額もその倍以上はあったのだろう。

 また兵士長の方は、主に住人への聞き取りによって兵士達と共に住人への暴行、商店への強請(ゆす)り、街を通る旅人や商人から収賄、そして1件の殺人が明らかになった。街を逃げたとされていたアロイスは、代官の不正の証拠を集めている事がバレて兵士長達に暴行され、死亡していた。




「ヤーコブ様を拘束するとは何事だーっ」

「小娘が子爵になった等と戯言を、この詐欺師めーっ」

「我らバルテン一族を愚弄するとは、この地で生きていられると思うなよーっ」


 ヤーコブを拘束して3日、どうやらヤーコブの親族とその手下達がオイゲンに殴り込みに来たようだ。オイゲンの街の城門はオスヴィンの指示で元々の兵士達が配されていたが、彼らでは20人もの男達を止められなかったのだろう。

 逆に言えば、バルテン一族は20人で俺に十分な圧力を与えられるだろうと思ったのだろうか。だが、彼らが街の広場まで進んで行くと、広場の彼らの目の前の2つの道からそれぞれ5~6人の武装した男達が入って来た。彼らが振り返ると彼らが広間に入って来た道からも同様だった。

 彼らは自分達と同じ20人近い男達に囲まれたが、街の城門をすんなりと通れた事で気を大きくしたのか、さらに激昂して威嚇を始める。剣呑な雰囲気に広場で露店を出していた者達は、店を畳んで広場から逃げ出していく。女子供も同様だが、逆に物見高い者達は広場の端や建物の陰からその様子を窺う。


「何だこの無頼ども」

「我らバルテン一族を敵に回す覚悟はあるのだろうな」

「ふざけた奴らめ、いたぶって!いたぶって!いたぶりぬいてー!

 ごめんなさいと言わせてやるぅ!」


 だがこの広場に4人の大男が入って来たところで、その勢いも一気に消沈して行く。その男達はいずれも2メートル前後の身長で、それぞれ手には武骨な大剣、大槍、大斧、長槍を握っている。一人一人が歴戦の戦士の風格を持ち、ぶっちゃけ武闘派とはいえ農夫達にはどうにもならないのは明らかだった。


「おい、プロを連れて来るなんてズルいぞ」

「そうだそうだ。子爵の代理とかいう奴、一人で俺達の前に出て来い」

「この卑怯者めーっ」


 罵倒は止めないが、ビビってもう足は一歩も前に出ない。俺はヴァルブルガにクルト、ニクラス、ヤスミーンと文官のオスヴィン、ゴットホルト、ファビアンを連れて前に出た。


「代官のヤーコブは子爵様の馬車を襲撃し、兵士長コンラートに人殺しをさせ、さらに子爵領の税を横領をしていた。だがお前達が揉み消しに来たという事は、ヤーコブ一人でやっていた事ではなくバルテン一族ぐるみの犯罪か」


 俺がそう言うと、ニクラスが広場中に聞こえるように繰り返す。すると暴徒達はまたがなり立てる。だが、その言葉は理屈にならない只の反抗だった。


「横領とか何言ってんだか、分かんねーよ」

「俺達はバルテン一族だぞーっ」

「後悔するぞ」


 だが俺はそれを無視して話し続ける。


「領主様の馬車を襲った件は、盗賊行為とみなし関係者全員の処刑。

 街の人間も見ている前で行われた事で、言い逃れはできん」


 そこで住民達から、そーだ、そーだ、見ていた人間がいるんだぞー、と声が上がる。


「そしてヤーコブは農作物の税を六割として子爵様へ報告していたが実際には七割を徴収し、その差額金貨三千枚以上を横領。対してバルテン一族の荘園だけは税を三割しか徴収していなかった。」


 これはまだ住人にも初めて聞かせた話だった。これを聞いた住人達は自分達を苦しめた高額の税が代官が勝手にやった事で、さらに自分達だけ半分以下の税しか払っていなかった事を知り、怒りを(あらわ)にする。


「さらに不正を子爵様へ訴えようとしたアロイスを、兵士長コンラートに命じて殺害。さらにアロイスが逃げたと吹聴した上で、ジーモンにも働けなくなるほどの障害が残る暴行を加えた」


 えっ、アロイスって裏切り者じゃなかったか、等と声が上がる。街の兵士や冒険者、アンスガー達に囲まれるだけじゃなく、住人達も殺気立って囲みに加わり始めた事で、暴徒達の表情には明確に恐怖と絶望が浮かんでいた。


「お前達もヤーコブに加担しているなら犯罪者として捕縛するが、それでいいのだな」


「そんなの無理だーっ」

「俺達は関係ねーっ」

「ごめんなさーい」


 俺がそう言うと、暴徒達は悲鳴を上げた。俺は暴徒達の中核メンバ3人を捕らえさせ、残りはバルテン一族の代表を出頭させろと命じて帰らせた。

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