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裏切り者

 酒場の主人グンター、大工のホラーツが俺に聞いて来た事は、簡単に言えば税が高いから下げられないかとか、商店に無体を働く兵士を止められないかとかだった。そういう実態は推測できたが、現地の人間の証言が取れたのは僥倖だ。

 この二人、代官の目を気にしているとはいえ、代官と対立する覚悟があるから来たのだろう。だったら証人として確保しておきたい。俺は二人にこちらの護衛の目の届くところで、祭りを楽しみながら待っているように言っておいた。


「ヤスミーン、広場の南入口辺り。

 おそらくこの街の兵士と思われる3人組が何かしようとしている。


 アンスガー親子を向かわせろ」


「はい、コーチ。承知しました」


 俺の指示に駆け出すヤスミーン。折角の祭りを邪魔されたくはない。食べ物に異物を仕込んだり、おかしなイチャモンをつけて来そうな相手、敵意をもって広場に入ろうとした者は俺の探知スキルで発見次第排除している。そう、俺も偉そうにスピーチするだけでなく、探知スキルで見張りをして働いているのだ。

 どうやら代官は、祭りは代官の私財から出しているという事にしたかったらしい。これが俺が手配した冒険者のせいで、子爵が出資しているという噂が混じって住人が混乱する。さらに俺達が街に着いた時、食材だけ街に入れて俺達は蚊帳の外にするつもりだったらしいがこれも失敗。

 最後は俺達の祭りに因縁を付けたくて、兵士達や兵士達に脅された住人によって荒らされかけたが、まあ全部俺の探知スキルで発見して潰してやった。こうして代官達の手出しを完全シャットアウトし、日暮れにまで続いた祭りは終わりを迎えた。


「アロイスは裏切り者だーっ」


 二人は大事な証人なので俺と同じ馬車に乗せ確保し、一旦街を出ようとしたところで怒鳴り声が聞こえた。以前、オイゲンの街を通った時も聞いた気がする。俺は馬車に乗る二人に聞いてみた。


「あれはジーモンという男です。

 代官の不正をアロイスと共に集めていたのですが、アロイスが情報を売り逃げたのです。


 ジーモンはその後、街の兵士に半殺しにされました。生きているのは街の人間への見せしめでしょう。ただ体をボロボロにされ働けなくなったので、そう長くは持たないでしょう。俺達はその時は思いきれなくて、手伝ってやれなかったし、ジーモンも見て見ぬふりしてきたんだ」


 グンターと名乗ったビール腹の男が答えてくれたが、話している間に段々感情が籠って来たのか半泣きになり、言葉もきっと普段の物に戻ったのだろう。街の住人も諾々代官に従っていたわけじゃないが、まとまる事なくバラバラに動いて代官に潰されたか。

 それが分かったところでここで出来る事はないので、そのまま街の城門を抜けて外へ出る。食料を載せて来た馬車はアンスガー達に護衛させて既に街の外に出しているので、今は俺の乗る豪華な子爵屋敷の馬車とそれを護衛するヴァルブルガとクルト、ニクラス、ヤスミーンだけだ。

 今ならアンスガー達がいないから、街の兵士だけでも組みし易いように見えるだろう。こちらの作戦は俺達が囮となって街の外で兵士たちに襲わせ、周囲を囲むアンスガー達と雇った冒険者達で制圧。それを街の住人、グンターとホラーツに見せてこちらの正当性を示す。まあ、街の住人なら誰でもよかったが。




 それから30分。そんな見え透いた作戦に引っ掛かるかと思ったが、引っ掛かった。後ろから街の兵士達がやって来た。40人くらいだろうか。頑張って集めたのだろう。しかも先頭には代官のヤーコブがいる。もうこの世界でなら老齢といっていい歳だろうに頑張るな~。


「きちゃまらぁ、よくも儂の顔に泥を塗ってくれたなーっ。

 儂を馬鹿にした者は、ぶぅっ殺してやるじょぉ」


 いや、お前噛み過ぎだろう。じじいが顔を真っ赤にして口から泡を飛ばして怒鳴っている。


「お前ら周りが見えなさすぎだろう」


「何じゃとぉーっ」


 街道の周囲からアンスガー達と冒険者達が出て来る。人数的には20対40だが、こっちはプロばかりで相手は農夫や職人との兼業兵士なのだろう。数人の骨が折れたところであっさり制圧され、ヤーコブ、コンラートほか兵士達もあっさり捕まった。


「こらーっ、儂は代官じゃぞーっ。

 儂が一番偉いんじゃーっ」


「放しやがれーっ、俺は街の兵士長だぞ。

 こんな事をしていいと思ってるのかーっ」


 うるさいので猿ぐつわを噛ませ、馬車を回して街へと戻る。そして広場に戻ると、縛った代官と兵士長を連れて昼間にスピーチをした台に上がった。そして、二人が街の兵士を連れて子爵の馬車を襲った事を話す。昼間の様子やグンター、ホラーツの証言もあって街の住人もそれを信じたようだ。

 広場に残った住人は昼間ほどにはいなかったが、明日には街中に知れ渡るだろう。もう日も暮れたので、代官ヤーコブの屋敷を徴発して宿泊する事にする。オイゲンの街には代官屋敷という物はなく、街で一番大きいヤーコブの屋敷が代官屋敷の機能を果たしていた。

 翌日から接収したヤーコブ屋敷で犯罪の証拠を探し始めた。兵士は全員拘束していてもしょうがないので、特に反抗的だった5人を残し、残りは今後は子爵の代理である俺の指示に従うよう言い聞かせて解放した。代官と兵士達はヤーコブ屋敷で軟禁する。

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