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就爵の祭り

「俺達は街の兵士だぞ。この街では俺達に従え」


「こちらの方は子爵様の代理である。お前達こそ、この街の兵士ならこの方に従え」


 予想通り、兵士長コンラートと街の兵士達がちょっかいを掛けて来たわけだが、ヴァルの父アンスガーと大男ジルヴェスターに2、3人が骨を折られて分からせられると、それ以上の邪魔はしなくなる。その後、俺達の馬車は遠巻きに見ている住人達の中を、街の広場まで進んで行った。

 広場で馬車を止めると、そこで遠巻きに見ていた住人達を呼んで強引に手伝わせ、荷解きをして祭りの準備に入る。その時も、ニクラス、アンスガー、ディーデリヒ、ジルヴェスターの声の大きい4人には、子爵様の就爵祝いだとか、祭りの食料は全て子爵様から提供されていると声高に繰り返させる。

 そうしていると、代官のヤーコブがカンカン怒って怒鳴り込んで来た。いい歳してそんなに興奮すると、血圧が上がって脳の血管が切れるんじゃないかとも思ったが、別に切れてもいいと思い直す。


「街の兵士を傷つけるとはどういう事だ。

 小娘の代理かなんだか知らんが、許されん事だぞ」


「子爵様の馬車に手を掛けようとする不埒者がいたが、

 まさかお前の差し金じゃないだろうな。


 もし、子爵様を侮辱するつもりなら、王国への反逆罪が適用されるが覚悟はあるんだろうな」


 貴族への侮辱と反逆罪はまた別かもしれないが、ここは勢いだ。もちろん、俺の声じゃ広場に通らないので、ニクラスには俺の横で人間スピーカーとなって俺の言葉を代官だけでなく、広場にいる住人達に聞こえるように怒鳴ってもらう。特に王国への反逆罪を強調して。


「ぐぬぬっ、祭りをするのは許してやるが、

 オイゲンの街での祭りは代官である儂が取り仕切る。


 この街は儂が何十年も苦労して守って来たんだ。

 勝手な事したり、勝手な事を言ったりするな」


「お前はあくまで代官で、この街は子爵様の街だ。

 子爵様の意向で行う祭りを邪魔するなら、代官の任を解く事だってあり得るぞ」


 本当にヤーコブはキレ散らかしているようで、こんな住人の前で大声で領主と揉めている事を明かしてしまっている。こちらとしては好都合だが、自分の信用がマッハで落ちて行ってる事に気づかないのだろうか。

 散々、突っかかって来たが、こちらが代官の主張を全面否定していると、憶えておれよ、と捨て台詞を残して帰っていった。街に潜り込ませていた冒険者もこちらに合流し、街の兵士を集めても暴力では絶対に勝てないと分かっているのかもしれない。

 それから祭りの準備を手伝う住民も増えて行き、午前中から始めた祭りの設営も昼過ぎにはほぼ完成した。まあ、祭りといっても俺が演説する舞台と、その周りに住人に無料で振舞われる食べ物が並べられるだけの簡単な物だ。


 貧しい街で十分に食べれていない住人も多そうだから、量を嵩増しする為のシチューの鍋を沢山並べ、さらにその場で豚や山羊を幾つか丸焼きにして少しづつ切り分けながら配らせる。あとは芋を蒸かした物だとか、パイのような物を作らせた。あとは程々の質のエールも行き渡るほど用意している。

 これらの調理は街の住人にさせており、こちらの人員は主に監督と余計な事をする者が出ないように威圧しながら警備している。そうして料理のほとんどが完成し、広場に住人が十分集まったと思われるところで俺は舞台に乗って演説を始めた。まあ、俺の声が届く範囲は狭いのでニクラススピーカーに頼るが。


「オイゲンの住人達よ聞け。俺は新たにエスレーベン子爵を就爵されたコジマ様の婚約者レンだ」


 ひと呼吸ごとにニクラスに大声で繰り返して貰っているので、スピーチは2倍の時間が掛かるがそれぐらいでいいだろう。

 まずは先代子爵がちょっとばかり領地経営を疎かにしていた事、次の子爵は母親が平民だから苦労していた事、平民の苦労が分かるから平民の味方である事、これからは領地に目を光らせるのでこれまでよりも住みやすい街になる事などを説明する。


「オイゲンの住人達よ。新子爵コジマ様を讃え、祝福せよ。

 新たなエスレーベン子爵様、万歳」


「「「新たなエスレーベン子爵様、万歳」」」


 こうして祭りは始まり、特に貧しそうな住人達は目の色を変えて飲み食いし出した。その間も声の大きい4人衆には、この祭りは子爵様のお陰だ、全部子爵様が用意して下さった、等と宣伝してもらっている。まあ、彼らも大いに飲み食いしながらではあるが。

 オグウェノ? うん、彼は別のところで活躍してくれればいいんだ。不向きな事を無理にする必要はない。向かない事をするより、向いた事をする方がパフォーマンスが上がる。誰だってそうだろう。俺だってそうだ。

 最初はおっかなびっくりだった住人達が段々盛り上がり、俺達が用意した物を遠慮なく食べ、賑やかに騒ぎ出した時、二人の人物が周りを気にしながら俺に近付いて来た。周りと言うか代官派だろうか。ちょうど彼らが近くいないタイミングを狙って来たように思える。


「レン様。俺、いや私は『白いトロールの渓谷亭』の主人グンターだ、です」

「ワシ、いや私は大工のホラーツですだ」


 そう言ったのはビール腹の男と、ガチムチの男だ。二人とも現代日本でなら大柄だろうが、アンスガーやジルヴェスターと比べると普通というか、小さく見えるから不思議だ。まあ、俺よりはデカいけど。


「実はお願い、いやお聞きしたい事がありまして」


 どうやら話があるようだ。

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