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オイゲンの支配者

「えっと、それで就爵祝いの祭りですか。オイゲンの街に行って演説するだけでもいいと思うですが」


 代官との面会の後、俺はオイゲンでの祭りを思いついて、ゴルドベルガー伯爵から派遣された文官の一人、アードルング子爵の三男オスヴィンに話してみた。


「住人にはただ知ってもらうだけでなく、俺や新子爵様を好きになってもらって今後も街で頑張ってもらいたい」


 あの代官はオイゲンの支配者のつもりでいるようだから、俺が代官より上の子爵代理だと言って街に入ろうとすれば邪魔するかもしれない。少数で街に入ろうとすれば拘束、逆に大勢で押し掛けたら街の外で止められる、といったことも考えられる。

 だが事前に街の住人に祭りをやると知らせておけば、祭りで出す食材を載せた馬車を街の外に留め置く事はできないだろう。やはり祭りの通達は代官任せにするのではなく、人をやって住人達に十分知らせておく必要があるだろう。

 詳細は後で詰めるとして、そんな事をオスヴィンに話してから俺は気になっていた事を彼に聞いてみた。ゴルドベルガー伯爵からは武官は送られず文官だけが5人も送られてきたが、子爵領でも武官は必要だし、逆にその規模で5人も文官がいるのはリッチな配置な気もする。


「確かに普通は文官も武官も同じくらい求職者はいるものですが、武官についてはゴルドベルガー伯爵がいるだけ引き取ってる感じです。まあ、ご兄弟の派閥にいた武官の忠誠心に不安があるのかもしれませんが、それだと文官も同じでしょうしね。

 ただこのエスレーベン子爵領の評判が他より悪いと言うか、立て直しにより人手が要りそうだと思われていたのも事実だと思いますよ。あとは大きな声では言えないですが」


 男爵家のゴットホルト、カサンドラは能力はあるが、貴族の間では敬遠され気味の為、これまで貴族と縁がなかったであろう俺のところに送られたらしい。いや、性格的に問題のある貴族の関係者を部下に送られても、俺も困るのですが。まあ、だからソフトなオスヴィンもセットで送られてきたのか。




 その後、俺は執務室に場所を移して5人の文官達を呼び、祭りの準備について話し合った。祭りの食材は前日入りして代官にちょっかいを出されないよう、当日の朝にまとめて広場に乗り入れた方がいいだろう。馬車の護衛も十分つける必要がある。

 それと住民に祭りを知らせる方法だが、代官とは別に文官を送るという手もあるが、多少の護衛を付けても街の兵士全てが敵に回れば拘束される可能性がある。なら、冒険者を数グループ雇って前乗りさせ、街の酒場や周囲の村で祭りを噂を流してもらえばいいか。

 当日は最初から街にいてもらえば、馬車と一緒に入る人員を見掛け上減らして代官の抵抗感を減らせるかもしれない。馬車が街に入ってからは広場で警備に加わってもらう。こちらの人員が増えれば、代官も手出しし辛くなるだろう。


 あとは祭りの後、馬車を1台ずつ護衛を付けて時間差を付けて帰らせて、街の外に伏せさせておく。最後に俺達が少数の護衛と共に街を出れば、祭りが自分の思った通りに行かず怒り心頭の代官が後をつけて襲ってくるかもしれない。

 そうなれば押し包んで拘束、出来れば襲って来た場面を街の住人にも見せれば、その後代官を処罰しても抵抗が少ないだろう。そんな計画を立てて、後はオスヴィンに他の文官達に仕事を割り振ってもらって準備を始めてもらった。




 2週間後、俺達は予定通りオイゲンの街の前に来ていた。先頭を子爵屋敷にあった豪華な馬車に乗った俺。ゴルドベルガー伯爵から派遣されているアルノー君も同乗している。その後ろには荷馬車3台に満載された食料。護衛はいつものヴァルブルガとクルト、ニクラス、ヤスミーン。

 それに加えてヴァルの父のアンスガー、兄のディーデリヒ、肌の黒い異国人オグウェノ、虎の様な大男ジルヴェスター達にはゾウムシ戦の装備を付けさせて連れて来ている。本当はペルレのミスリル採掘にアンスガー達の内2人は必要なのだが、そこはお金で一時的に『赤い守護熊(レッドベアガーディアン)』にお願いして来た。

 あとは文官の長オスヴィンに、横柄なゴットホルト、テンションの高いファビアンも街の視察として連れて来ている。口の悪いカサンドラとあがり症のマインラートは王都屋敷の管理を任せて来た。また、3組の冒険者が周辺の村を回って街に先に入っているはずである。


「荷馬車はこちらで運ぶから引き渡せ。

 お前達は後で他の者が案内するから街の前で待ってろ」


 早速来たか。あれは代官のヤーコブと一緒に来た兵士長コンラート。アイツの後ろの武装した男達が荷馬車に取り付こうとする。


「これは子爵様の馬車である。

 勝手な手出しは子爵様への反意とみなし処罰する」


 そう言ってやったら、手前の荷馬車に近付こうとしていた男達が足を止めた。ちなみに言ってやったのは俺ではなく、ニクラスだ。俺そんなに声、張れないからね。そう思っていると、後ろの馬車の方から大きな音がした。まるで巨大な斧で足元の地面を粉砕し、土砂が巻き上がった様な音だ。


「グヒヒヒヒッ。

 子爵様の積み荷に手を出すなんていけねーな、いけねーよ」


 あれはジルヴェスターか。まあ、殺したわけじゃないならいいだろう。

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大手を振って暴力をふるえるの嬉しそうw
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