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借金取りが片付いたら

「儂がオイゲンの代官ヤーコブじゃ。

 新子爵の代理というのはお前か。儂をわざわざ呼び出すとは無礼な奴め」


 王都屋敷の借金取りが片付いたところで訪問して来たのはオイゲンの代官だった。まあ、呼んだのは俺だが。儂、と言っているように頭頂部が禿げ上がり、頭の側面から肩まで白髪を伸ばした老人だ。皺くちゃの顔が歳を感じさせるが、鼻は高く眼つきは鋭い。

 この老人は先々代のエスレーベン子爵の時代から代官をやっていたようで、貴族ではないがオイゲンの街近くに荘園を持つ大地主で、いわゆる地元の名士という奴である。老人とは言ったが現代日本よりもこの世界の人間はずっと早く老化して見えるので、実は50代くらいかもしれない。

 代官の地位は領主の子爵から与えられた物だから、子爵の婚約者で代理の俺の方が立場が上だと思うのだが、この老人は長年代官として君臨していた事で子爵以外は自分より下という認識なのかもしれない。いや、自分より偉いのは先々代子爵だけで、先代子爵でさえ小僧、新子爵などは眼中に無いのかもしれない。


 そしてヤーコブの隣にはもう一人、レンを見下すように睨む男が座っている。ここはエスレーベン子爵の王都屋敷、応接室である。俺は部屋の奥側、上座に座り、俺の後ろにはヴァルブルガとニクラスが立つ。部屋の扉側、俺の前にはヤーコブとその男が座っていた。アルノー君は部屋の隅に勝手に座っている。

 老人と言うほどでは無いが、年輩と言っていいだろう。長身で体格の良い体に、年相応の脂肪を纏わせている。このごま塩頭の男はオイゲンの街の兵士長であり、またヤーコブの甥に当たり、名をコンラートという。コイツの態度はヤーコブに合わせたものか、単に粗暴なだけか。

 コイツ等はこちらが代官を続投させてやるという温情を、温情とも思っていないのだろう。


「手紙にも書きましたが、私がトルクヴァル商会の会長レン。エスレーベン子爵を就爵したコジマ様の婚約者であり、ゴルドベルガー伯爵家に出仕している子爵様に代わりエスレーベン子爵領の管理を任された者です。

 ヤーコブ殿には代官を続投して頂こうと考えているのですが、新たに就爵された子爵様に代わり、エスレーベン子爵領最大の街であるオイゲンの様子を把握しておきたいのです。お願したオイゲンの街の帳簿は持って来て頂けましたか」


「馬鹿を申せ。ふん、コジマなんていう小娘の事など知らん。お前に言われるまでもなく儂は30年以上前から代官であり、これからもずっとずっと儂が代官である事に変わりはないんじゃ。


 帳簿などお前に見せる必要はない。子爵様がいないというなら儂は帰るぞ。オイゲンの街はお前には口は出させん。儂が、儂が、儂が代官じゃーっ。」


 ぷふっ。老人の熱の籠った感情の発露に圧倒される事も無く、その横柄な態度に怒りが沸いて来る事も無く、俺は日本で見た人気ロボットアニメシリーズの1つ『軌道戦士ワンダムOO』のセリフを思い出して吹きそうになる。『俺がワンダムだ』という奴だ。いや、笑うだろこれは。

 俺は下を向いて笑いを堪えながら、両手を打ち合わせて音を立てた。部屋から出て行こうとして足を止め、怪訝な顔で振り返るヤーコブとコンラート。そして扉が開き、カッシシナートの大剣を背負ったヴァルの父アンスガーと、大槍を持ったオグウェノが入って来た。

 武装したアンスガーとオグウェノ、俺の両隣のヴァルブルガ、ニクラスを見て、ヤーコブとコンラートが表情を硬くする。


「何じゃ、まさか儂らを殺すつもりか。そんな事をしてみろ。オイゲンを支配する儂のバルテン一族が黙っていない。つまりオイゲンとその周囲に住む全ての住人を敵に回すという事だぞ」


「俺は新子爵様からエスレーベン子爵領全体の管理を委任されている。お前が代官にして貰った子爵家への恩を忘れて反旗を翻すというなら、俺も厳しい対応をせざるを得ない。子爵様の命令通り仕事をする気があるなら、席に戻れ」


 ヤーコブとコンラートは顔を真っ赤にしながらも席へと戻り、それからオイゲンの現状について話し始めた。もっとも、帳簿などを持って来ていないので正確な数値は分からなかったが、それでも税収の概要や街の兵士のおおよその数などは分かった。

 俺は2週間後にオイゲンの街の中央広場で新子爵の就爵祝いの祭りを開くので通達しておく事、祭りの物資などは全て俺が持って行くがオイゲンの街からも手伝いの人手を出す事、オイゲンの街の周囲の村にも知らせて可能な限り参加させる事を二人に命じて帰らせた。

 代官達を帰らせた応接室でそのままひと息入れてお茶を飲んでいると、部屋の隅で黙ってみていたアルノー君が声を掛けて来た。


「レン、帰らせて良かったのか?

 お前は子爵に全権を与えられた代理なのだから、あの二人は子爵に反抗した事になる。


 不敬罪で殺しても問題無かったのだぞ」


 どうやらアルノー君には、俺が二人を逃がした事が不思議に思えたようだ。


「彼はオイゲンの街の名士でもあります。私はオイゲンでは全くの無名なので、私が子爵様の婚約者だとか代理だと言っても、代官と私の間でオイゲンの街が割れる可能性があります。なのであの二人にはオイゲンの住人達の前で屈服させる必要があるのですよ」

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