表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/234

借金取り

 今、この部屋には借金取り達以外では俺とオスヴィン、ヴァルブルガとヤスミーンだけだ。武装しているとはいえ護衛が女二人では、もし荒事になれば借金取りが有利に見えるだろう。様子を見たかったのでワザとそうしているが、外では完全武装のニクラスとオグウェノが控えている。

 俺は子爵の代替わりと、現子爵の婚約者として屋敷を管理している事を説明した。


「先代の子爵様とは懇意にして頂いていましたが、お嬢様とは面識が無いもので。

 一旦、借金を清算して頂いて、そこから新たな関係を結びたいと考えております」


 借用書を見ると子爵のサインがあるが、実は書類によって3種類くらいの異なるサインの筆跡があるので子爵本人のサインか分からない。むしろこの手の契約は子爵を通さず執事達がやっていた可能性があるので、サインのタイプを控えてから借金取りに借用書を返す。


「要件は分かったが、俺もここに来たばかりでその借金というのも把握していない。

 元々屋敷にいた者に確認してから返事をしよう。今日は帰ってくれ」


 俺がそう言うと、急に借金取りは態度を変えて激昂する。


「ふざけんなよ、てめぇ!

 この女っ垂らしが、さっさと耳を揃えて金を返しやがれ。


 どうせ口先だけで女子爵を誑かして潜り込んだんだろうが、

 ボーレンダー商会を舐めてると川に沈めるぞ。


 金が無いなら、女子爵を売って金を作りやがれ。

 おい、おまえらこのボンボンに分からせてやれ」


 借金取りの言葉に、手下と思われる男が俺に近付こうとする。それに反応してヴァルとヤスミーンが前に出た。貴族の屋敷でこんな乱暴を働いて良いと思っているのだろうか。俺がまだ婚約者の立場だから平民相手と侮っているのかもしれないし、碌な家人もいない貧乏貴族を狙っていつもやっているのかもしれない。

 俺が手を打ち合わせて合図をすると、部屋の扉が開いて完全武装し大槍を持ったオグウェノと、斧槍を持ったニクラスが入って来た。どうでもいいが、流石貴族の屋敷というべきか。天井が高くて大槍や斧槍が天井に引っ掛からない。

 二人にギョッとした借金取りと手下達は、一目で劣勢と見たのか大人しくなる。おい、こんな貧乏貴族になんであんな私兵がいるんだ、とか小声で言いながらビクつき、急に媚びた様な笑顔を向けて口を開いた。


「へへっ、旦那様。ちょっとした行き違いがあった様なので、

 アッシらは出直させて頂きます。


 いや、お手数をお掛けしてすいませんネ、ミスター。

 ははは」


 借金取りと手下達は張り付いた笑顔を向けて部屋から出ていこうとするが、オグウェノの大槍が目の前に突き付けられて足を止めた。


「おい、さっき分からせるとか聞こえたが」


「い、いえ、聞き違いですよ。

 旦那様が出直せとおっしゃったので、分かりました、とお返事しただけで」


「そうか。ところでこのオグウェノは大槍の名手でな、その技を見てみたいとは思わないか。

 もちろん、ただの余興だが」


 借金取りの下手な言い訳に俺がそう言うと、体は細めとはいえ2メートル近い長身の、異国の者と分かる黒い肌の男が、感情の伺えない表情で彼らを上から見下ろす。借金取りとその手下達は、ブルブルと体を震わせる。


「いえいえ、いえいえ、アッシの様な、しがない町民には、槍の技なんて高尚過ぎてトント分からないもんで、アッシらお暇するので旦那様がたでごゆっくりお楽しみくだせぇ、ゲヘゲヘゲヘ」


「そうか、なら仕方が無い。

 だが、こういった雑事は俺もさっさと済ませたいからな。


 お前達、3日後に子爵家の債権を持つ者に全員この屋敷に集まるよう伝えておけ。

 そこで一度に話を付けよう」


 死に物狂いで逃げ出そうとしていた借金取りは、俺の言葉を聞いて驚く。


「えっ、アッシらが集めるので」


「同業人だ、知り合いも多いだろう。異存はあるか」


 俺の確認にニクラスとオグウェノが槍の石突で床を叩いて音を上げると、借金取りはブルリと青ざめる。


「わ、分っかりやしたーっ」


「行け」


「へいーっ」


 それで借金取り達はダッシュで逃げていった。




 3日後、20人くらいの金貸し業者が王都のエスレーベン子爵邸に集まった。そこまで俺達の方も屋敷にあった書類や元執事達への聞き取りから、おおよそ金貨千枚(約一億円)の借金がある事が分かっていた。俺は応接テーブルの後ろに座り、ヴァル、ニクラス、オグウェノを従え、彼らと対している。

 あれだけの浪費をしていた子爵家の借金にしては安いようにも思えるが、既に多くのまともな商人は貸金を回収するか、別の中小の業者に擦り付けた後だったようだ。現在の債権者はまだ一部の債権を手元に残した大手商会の1つと、小規模の金貸しやボーレンダー商会のような怪しい業者だけとなってた。


「エスレーベン子爵代理殿、本日は我々の貸金についてお話があると伺い参上したのですが」


 そう言ったのは、唯一の大手商会マッテゾンの会長だった。マッテゾンはエスレーベン子爵家の最大の債権者だが、貸し金額は金貨三百枚(約三千万円)に過ぎない。つまりかなり債権はバラけている事になる。文官の一人マインラートの見立てでは、この商会は回収をほぼ諦めているという事だった。

 俺は目の前のテーブルに2つの提案書を置き、彼らに見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ