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文官達

 この人も20歳ぐらいだろうか。唯一の女性で男性ほどでは無いが背は高めか、金髪で気の強そうな女性だ。最初から喧嘩腰なのは、ゴットホルト同様ちょっと注意が必要かも。彼女もオスヴィンに任せて近寄らないようにしよう。


「なるほど、気を付けましょう。

 ありがとうございます。それでは次の方、お願いします」


「…マインラートで、す。

 父、が、クスター男爵の、文官でひゅ、

 スイませェん」


 最後は中背でいかにも文官らしいひょろっとした男だ。緊張してるのか、あがり症なのか声が上ずったり、噛んだりしていた。仕事さえしてくれれば、しゃべるのが苦手でも全然かまわないが。彼も平民らしいから、気軽で良いな。

 実は自己紹介は、何から手を付けるか考える時間稼ぎにさせていただけだ。やっぱり子爵家の金がどれぐらいあるか、後は借金がどれくらいあるかを最初に確認する必要があるだろう。


「自己紹介ありがとうございます。これから子爵家を掌握する必要がありますが、まずは資産と借金を皆さんを中心に調べてもらいたいと思います。オスヴィンさん、子爵家の出身と言う事で仮に文官の長をお願いします。他の皆さんはオスヴィンさんの指示で動いて下さい。

 これから館の人々を呼ぶので、彼らの協力も得てまずは館にある書類を確認して下さい」


 これにゴットホルトが年齢を盾に文句を言ってきたが、親の爵位を前面に押し出し、仮の処置で後で見直しもあるという事で黙らせた。そこまで話して館の使用人を全員呼び出した。全員で20人くらいだろうか。

 彼らに俺が新しく子爵位を得たコジマの婚約者である事、彼女が自分の仕えるゴルドベルガー伯爵の元を離れられない為、自分が彼女の代わりに子爵家の管理をする為にここを来た事を説明する。すると、この館の執事だという人物が声を上げた。




「ここは子爵様の元、我々が一生を掛けて守って来た我々の場所だ。伯爵だろうが他家の人間に口を出される筋合いわない。ましてや、お前のような貧相な商人が主人の様な顔をするなどおこがましい。身の程を弁えてさっさと出て行け」


「そうよ、そうよ。お前のような平民が恥を知りなさい。

 私達は子爵様の家臣、お前達とは立場が違うのよ。


 だいたいあの妾の子が子爵なんて何かの間違いだわ」


 さらにメイド長だろうか、老婆に近い女が甲高い声を上げる。数少ない年配の使用人達はこの二人に同調する雰囲気で、逆に数の多い若い使用人達はそれを冷ややかに見ている。俺はここでガツンとやる事にした。


「ニクラス、オグウェノ。その2人を拘束して縛り上げろ。」


「な、やめろ。こんな事をしていいと思っているのか」

「無礼でしょ、放しなさい、こら、止めなさい」


 俺はその場の者を全員そのまま立たせたまま、窓が小さく逃げ出せない小部屋を一つ、中の家具等を全て出して監禁部屋として二人を放り込ませた。それが終わってから、館の使用人達を見て俺は言った。


「他に異論がある者がいれば言ってくれ。

 無理に俺の下で働いて貰おうとは思わない」


「あの二人をどうするつもりだ。殺すのか」


 庭師だろうか、ガタイのいい年配の男が半分ビビりながらそう聞いて来た。


「乱暴な事はしない。ただ俺には、この館の者に新しい子爵の邪魔をさせない責任がある。あの二人には別室で大人しくしてもらう。俺の仕事に協力的なら悪いようにはしない。さてオスヴィンさん、元執事が職務を遂行出来なくなったので、臨時で執事も兼任して下さい。


 これから数日はオスヴィンさんを中心に子爵家の財務調査をする。君達は彼に従って調査に協力して欲しい。それ以外は以前の職務をそのままに。そう、最初の仕事は俺達と彼らに客室を用意してくれ」




 それから1週間、王都のエスレーベン子爵の財産や活動の様子が大まかに分かった。つまり、館には変な美術品や宝飾類、華美な服等はあるが現金がほどんどない事、財務などの書類は抜けや矛盾が多くあまり当てにならない事、領地からの報告も同様である事などだ。

 そこで俺は元子爵や夫人、息子の私物を中心に館内の財産のリストを作り、その中で売らずに残すべき物と不要な物の優先順位を付ける事をオスヴィンさんに頼んだ。金が必要になった場合、何から売ればいいか分かるようにする為だ。


 またあの悪名高いオイゲンの街の代官にも手紙を送った。子爵が代替わりした事、街の状況も分からないので代官は継続して欲しい事、ただ最初に街の状況が知りたいので一度王都に来て説明して欲しい事などを書いた。

 たぶん代官は汚職まみれだろうが、いきなり首にしても統治の手が足りない。だから王都屋敷が落ち着くまで時間稼ぎする為、継続を通達したのだ。きっと代官を罷免しようとすれば、街の兵士もあちらに回って反抗しそうなので、やる時には武力を集めてから対処したい。


 ちなみにペルレまで俺を呼びに来たメイド、アデリナの妹は無事だったが、本人はペルレまでの道中で足の裏の皮が剥がれたり、飢えや疲労困憊で1週間寝込んでいた。そして彼女が起きれるようになって職場復帰した頃、子爵邸に来客があった。


「ワタクシ、ボーレンダー商会のジーモンといいますが、子爵様には金貨百枚をお貸ししてまして」


 応接室で会ってみると頭頂部の禿げた老人一歩手前のチビが丁寧にそう言った。彼の後ろには二人の人相の悪いプロレスラーの様な男が立っている。借金取りかぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素晴らしい展開でわくわくが止まりませんな。成り上がっていく様は実に面白い。
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