またまた襲撃
「クルトぉ、そいつらを全部叩き潰せ」
「フガァーッ」
取り合えず、まだ距離があるうちに倒そう。何故襲って来たか、の理由は生き残りがいれば聞けばいいだろう。まずは、自分達の身の安全が最優先だ。クルトの前進に手練れ3人は身を引くが、下っ端と思われる4人は思考がついていかないのか、動きが止まる。
ブン
「げぴゃ」
クルトの一閃を胴に受けた下っ端2人は体が二つに折れて吹き飛ばされる。たぶん即死だろう。残りの下っ端は一人が腰を抜かして座り込み、もう一人は背中を向けて逃げ出した。それと同時に馬車の裏から左右にニクラス、ヤスミーンが飛び出しそれぞれ弓とクロスボウの矢を放つ。
「イテッ」
ニクラスの矢がボスっぽい野盗の腹に刺さり、ヤスミーンの矢は別の手練れっぽい男に躱された。と、その瞬間に馬車の上から飛びあがったオグウェノが、最後の手練れと思われる男に大槍を振り下ろし地面に引き倒す。その男は頭が半ば割れているので死んだだろう。
一瞬で勝負はついた。ボスは腹に刺さった矢に膝を付き、手下は一人が逃亡、3人が即死。無事なのは1人で、もう一人は戦意を喪失している。あとは森に隠れてる3人の出方次第か。
「そんな、こんな手練れが大勢いるなんて聞いて無いぜ。
なあ、旦那。俺たちゃ、あそこにいる貴族のボンボン達に命令されて仕方なくやっただけなんだ。
アンタ、アイツらと揉めてるんなら直接話を付けてくれよ。俺たちゃ関係ないんだ。なあ」
矢を受けた男が、顔を青くして厚かましく懇願する。それにしても貴族のボンボンか。面倒だな。
「お前らは武器を捨てうつ伏せに寝転がれ、森の中にいる奴らは出て来い。
出て来ないなら容赦なく皆殺しにするぞ」
俺がそう言うと、野盗たちは武器を捨てて街道に寝転がる。オグウェノにはコイツ等を見張らせ、ニクラスとヤスミーンに武器を回収させて馬車に放り込ませる。そしてガサゴソと森の中から藪を掻き分ける音がして、3人の男達が出て来る。
「しょ、商人。ボクチンに命令するなんて無礼なんだな。
おい、下衆共。さっさと商人を始末するんだな」
「いや、もう俺達はアンタ達の仕事からは抜ける。
あとは勝手にやってくれ」
3人の内1人が転がされた野盗に命令するが、野盗の方はそれを聞く気はないようだ。その男は20歳くらいに見えるが、この状況でもぼうっとして頭が悪そうだ。そう、悪名高いエスレーベン子爵の息子だ。
さらに中背で痩せ型、キツネ顔で細目の、エスレーベン子爵の息子ほどでは無いが、庶民が着れないような上等の上着を着た青年、そして似たような服装のまん丸のタヌキ顔でチビデブ青年がそれに続いて出て来る。
「そ、そうザンス。こちらはエスレーベン子爵のご子息バッカンボン様。
バッカンボン様の私兵に手を出すとは、お前らの死刑はザンス。
さあ、大人しく首を差し出すザンス」
「ンだ、ンだ。
死刑執行でゴワス」
野盗たちは俺と子爵の息子たちの話を聞きながら大人しくしている。ここはもう少し話をしてもいいだろう。
「それでバッカンボン様は、何故俺を殺そうとしたんですか」
「お前、ボクチンに偉そうに言うなよーっ、
跪いて頭を地面に付けるんだぞぉー」
コイツ等が俺達を襲って来たから返り討ちにしたわけだが、生きて返せばある事ない事言って俺達に罪を擦り付けるだろう。貴族と平民が揉めれば、余程の証人、揉めている貴族より上位の貴族など、がいなければ、この国では貴族が正しいとされる。
「なるほど、そうしますか。
オグウェノ、そいつを俺の前に引き摺って来て、
地面に倒し、頭を踏みつけろ」
俺がそういうと、すぐさまオグウェノはバッカンボンを引き摺って来て、つまらなそうに踏みつけた。もう和解は無理だろうし、腹を括るしかない。
「イタっ、イタぃよ。やめてよーっ」
「ま、待て、レン。
ソイツはそれでも貴族の子弟だ。平民のお前が傷つけていい相手ではないぞ」
バッカンボンが喚いたところで、馬車からゴルドベルガー伯爵家の若騎士アルノー君が出て来て制止する。それに二人のバッカンボンの連れが声を挙げる。
「そうザンス、許されないザンスよ」
「ンだ、ンだ。許されないでゴワス」
「アルノー様、騙されてはいけません。コイツらはただの盗賊です。
立派な貴族様がこんな街道で野盗のようなマネをするハズがありません。
おそらく、貴族の様な服を着ていれば、平民相手なら騙せると思ったのでしょう。
これは立派な貴族籍の詐称、重罪ですよ。すぐに斬首しましょう」
馬鹿二人を無視してアルノー君が俺を黙って睨む。だが、俺はそれに構わず馬鹿二人問う。バッカンボンがまともに話せそうもないからだ。
「そこの二人、何で俺を襲った」
「そ、それは庶子とはいえ、バッカンボン様の妹を小金持ちの商人が婚約すると聞いて。
ソイツを殺せばソイツの財産は全てエスレーベン子爵家の物、
きっとバッカンボン様の物になるだろうって策略を練ったザンス」
「ンだ、ンだ。
賢い上流階級の投資でゴワス。
サスティナブルなニューノーマルのインクルーシブでゴワス」
なんとも理論の破綻した場当たり的な行動だ。しばらくしてアルノー君がため息をついて口を開いた。ただし、俺に向けてではなく三馬鹿トリオにだ。
「そうだな。
貴殿らは貴族ではない」
それを聞いた俺はすぐにニクラス達に命令した。
「全員殺せ」




