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ダンゴムシを侮ってはいけない

「ゴー、ゴー、ゴー、ゴー」


 俺はどこかの特殊部隊の突入時のように、こっち来いと後ろに手を振りながら空洞の端を進んで行く。そんな恰好をつけても、俺の岩場の移動速度は遅い。ヴァルブルガやヤスミーンは勿論、足の悪いニクラスも俺から遅れる事なく、というか俺の速さに合わせてすぐ近くを進んで来る。

 若騎士アルノー君も似たようなもので、山羊を牽く人夫達が少し遅れて、命じたわけでもないがクルトが最後尾だ。あっ、ヤバイ。ゾウムシがこっちに迫って来る。別に俺達を狙っている雰囲気ではないが、ただ振り回された電柱のような足が後ろからここを通り過ぎようとしている。


「後ろ、足だ! ()けろ」


 そう言って、俺は足元の岩場に伏せるようにして、手をつきながら急いで逃げる。同じようにヴァル達も慌てて虫の足から逃げていく。何とか全員が退避した後、恐ろしい電柱が通り過ぎた。そのタイミングで俺達が出て来た横穴からダンゴムシが溢れ出して来た。

 必死で進んだ俺達だったが、足場が悪いので実は20メートルしか進めていない。日本で一般道路の徒歩の速度はおよそ分速80メートルと言われているが、足場の悪いこの場所で、巨大怪獣に踏み潰されないよう這うようにしていては、1分以上を掛けてそれしか進めなかったのだ。




「うわーっ、また来たー」

「た、助けてくれー」

「てめぇら、邪魔だーっ」


 その後、俺達は行きつ戻りつ必死に逃げ回った。体長40メートルの巨大ゾウムシが暴れ、それとマッチョな6人の大男達が長柄の武器を振り回して戦い、さらに100体前後の体長2メートルのダンゴムシが動き回り、襲って来るのだから大パニックだ。

 ダンゴムシは人間だけを狙うのではなく、7割はゾウムシの足元をウロウロして踏み潰されるという謎の行動をしているが、それがダンゴムシと戦う戦士たちを大いに邪魔していた。彼らにすればダンゴムシなど一刀で切り伏せられるが、それでゾウムシに集中できない。

 俺のそばにはヴァルブルガがいるが、それ以外は広くバラけてしまっている。ヤスミーンは既に最初に目指した横穴の前まで行って、どうすればいいか戸惑っているようだ。ニクラスは人夫達に声を掛け、クルトを誘導している。


 ガキン


「クソ、なって硬さだ」


 ふと気づくと、ジルヴェスターの大斧の刃が折れてしまっていた。ジルヴェスターの狙っていたであろう足も、随分傷だらけになっていたが、まだ叩き折るまではいっていない。そこへ近くで他の者を誘導していたニクラスが、ジルヴェスターに自分の斧槍(ハルバード)を差し出した。


「ジルベスター、これを使ってくれ」


「へへっ、ありがとよ」


 ジルヴェスターは受け取った斧槍を遠心力たっぷりに1回転させると、自分が傷つけたゾウムシの足に叩き付けた。


 …


 その一撃で、足を叩き折られたゾウムシは体勢を崩す。


 ドン


「ぐぉ」


 空を掻くように振られたゾウムシの足の一本が、運悪くジルヴェスターの背に衝突すると、彼の大きな体が軽々と5メートルは吹き飛ばされた。地面に突っ伏すジルヴェスターにダンゴムシが迫ると、斧槍を拾ったニクラスがそれを叩き潰した。


「ヤスミーン、ニクラスを支援してジルヴェスターを退避させろ」


「分かったわ、コーチ」


 だが、俺がそちらに気を取られた瞬間、真横からゾウムシの別の足が薙ぎ払わられた。探知スキルが視界外のそれを捉えて警鐘を鳴らすが、俺の反応速度ではどうしようもなかった。


「ご主人様、危なーい」


 その時、ヴァルブルガが盾に剣を添えてその衝突を阻もうとする。


 ズサ


 ヴァルブルガのさらに前、ヴァルの兄のディーデリヒが手に持つ槍の石突を地面に当てて、穂先を振り回されるゾウムシの足へ構える。脚はそれ自体の勢いで槍に突き刺さった。


「フンハー」


 さらにその足の後ろからヴァルの父アンスガーが大剣を叩き付けると、押し込まれた槍の穂先が電柱のような硬質なゾウムシの足を貫いた。これで3本の足が力を失うと、もともと地面から約10メートルの高さにあったゾウムシの腹の底が、一気に落ちて2メートル程度まで近付く。

 すると長剣使いザンと、“瞬足”の騎士フリッツの剣がゾウムシの横腹を斬り付け、体液が噴き出す。ついに地上をうろつくダンゴムシを圧し潰して、ゾウムシの腹が地面に着いた。ゾウムシの残った足が最後の足掻きのように出鱈目に振り回される。

 ブンブン振り回される足を避け、みんながゾウムシから離れようとするが、ジルヴェスターを助け起こそうとしていたニクラスとヤスミーンが間に合いそうもない。


「クルトぉ、その足を止めろ」


 ニクラスとヤスミーンの近くでぼうっとそれを見ていたクルトが、俺の声に前に出る。


 ドン


「ブゴォ」


 ジルヴェスターを弾き飛ばしたゾウムシの足を、クルトは体全体を使って受け止めていた。それからゾウムシから避難して動きが衰えるのを待つ俺達。その前でブルブルと小さく震えるゾウムシ。よく見ると生き残ったダンゴムシ達がゾウムシの腹に群がり、食い付いているように見える。




 横穴に退避して様子を見ていた俺達の目の前で、巨大ゾウムシはダンゴムシ達の餌になっていった。

 

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