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剣呑な奴ら

 奴隷商会を出た俺達は、遅い昼食を食べた。アンスガーとオグウェノは奴隷商にいる間、質素な食事だったのだろう。好きなだけ食べさせると、大喜びして山のように食べた。アンスガーが見た目通り肉をモリモリ食べたのに対して、オグウェノが芋や粥など炭水化物を良く食べたのが面白かった。

 昼食後、俺達は武器鍛冶師や武器商人を回った。王都は商品の種類も量も豊富なのでいい武器があれば買っておきたいという思惑があった。ただ、買った奴隷を全員を合わせると17人の大所帯になってしまい、それを武装させて王都を歩けば衛兵に捕まりかねない。

 そこで王都で武装させるのはアンスガーとオグウェノだけにしようと考えた。王都ほどでは無いが、大迷宮を抱えるペルレもそれなりに武具は手に入るのだろう。エスレーベン子爵の件もあるし、あまり長居してもトラブルが起きそうだから、明日は残りのメンバーと共に早々に王都を出よう。




「レン殿、まだ働いてもいない内からこんな業物をかたじけない」


 そう言ったアンスガーが両手で掲げるように持っているのは、名工カッシシナートの大剣。これはある武器商でアルノー君がゴルドベルガー伯爵家の名前を出して、店の奥から出して貰った物だ。


「それで、その恰好は」


 アンスガーが身に着けているのは、金属の手甲、脛当て、腹だけを覆う胴鎧、ヘルメット。ラノベやアニメのイラストにあるような顔剥き出しで肩鎧(ショルダーアーマー)胸鎧(ブレストプレート)といった見栄えの良いスタイルと違って、どちらかといえば山賊や歩兵に見える。


「傷を負いやすいのは手足だ。それと骨の無い腹と頭は致命傷になりやすい。胸への攻撃は大剣を構えていれば弾きやすいし、そもそも巨大な魔物相手なら鎧は最低限にして身軽にした方がいいだろう」


「なるほど、それでオグウェノは鎧はいいのか」


 アンスガーの説明に納得した俺は、今度は鎧を着ていないオグウェノに声を掛ける。彼が着ているのは黄色く染められた貫頭衣に近い麻の服だけだ。


「鎧に隠れていては、獅子を殺せない」


「そうッスか」


 当たらなければどうという事はない、か。きっと彼の戦闘スタイルは回避極振りなのだろう。そして彼の手には大槍が握られている。それは2メートルを超える彼の身長よりさらに長い2メートル50センチはあり、装飾の無い質素な造りながら、穂先が幅広で頑丈な総鉄製の槍だ。

 他にも巨大象虫の甲殻にも対抗できそうな頑健な造りの、リーチの長い長槍(ロングスピア)斧槍(ハルバード)を手に入れた。いずれも名工カッシシナートほどではないにしろ、現在の王都にいる著名な武器鍛冶師達による品や、外国から輸入された銘品である。

 これで王都で出来る戦力増強策は、ほぼやり尽くしただろう。あとは、ペルレに帰ってからだ。




 翌日、俺達は貸馬車屋で馬車をもう1台借りてヴァルの弟達や母、そして魔術師たちを乗せて王都を出た。王都を出る時、馬車の外で武装していたクルトにアンスガー、オグウェノも結構目立ったが、その後は大虎(ジルヴェスター)が斧槍を、長槍をヴァルの兄ディーデリヒが持った事でより剣呑さが増した。

 この集団を襲って来る盗賊や魔物はそうはいないだろうと思っていたが、予想通りペルレまで無事に辿り着いた。増えた人員分はとりあえず、安めの宿に泊まってもらう事にしたが、近いうちに一棟丸ごとアパートを借りた方がいいだろう。

 トルクヴァル商会の事務所に寄ってみると、レオナからゴルドベルガー伯爵家の騎士が訪ねて来てペルレの宿に泊まっていると聞いた。なんとジークリンデお嬢様、今は女伯爵か、の護衛にいた“瞬足”のフリッツさんが巨大象虫討伐に協力しに来てくれたようだ。


 フリッツさんは確かあの時のお嬢様の護衛の中で、隊長のバルナバルさんと同等かそれ以上の手練れで、敵の射手に対して信じられない速力で接近し切り伏せていた。彼が協力してくれるなら、とても心強い。




 そしてその夜、ちょっと苦手な人物の訪問を受けた。


「おいおい、お前なかなか街にいねぇじゃねえか。

 もちっと酒代を増やして欲しいんだが、あのベルントとかいう青瓢箪は話が通じないしよ」


 この男はザンといい、マニンガー公国では敵対していたエトガルという商人に雇われていた用心棒で、俺も殺されかけた経験があるので正直怖い。しかし彼はエトガルがマニンガーで失墜すると、ほとぼりが冷めるまでと無理やり俺の食客となってペルレまで付いて来てしまった。

 もっともその時の俺は、彼が望むような報酬を継続して払うのは不可能なので、取り合えず食費と宿代、少々の酒代だけ渡して、何か仕事を頼む時だけまとまった報酬を支払う事になっていた。

 俺がビビって近寄りたくなかったので、魔族討伐軍の時も声を掛けなかったが、彼には一人でヴァルブルガ、ニクラス、クルトの三人を圧倒するだけの力量がある。今はそれなりの資金もあるし、いい機会だから巨大象虫の討伐には声をかけてみるか。


「実は…」


 俺が巨大象虫の話をすると、金貨三十枚(約三百万円)で討伐に参加してくれる事になった。これでヴァルの父アンスガーに兄ディーデリヒ、大虎ジルヴェスター、手足の長い男オグウェノ、“瞬足”の騎士フリッツ、長剣使いのザン、それにクルトとニクラスを加えて中々の戦力が揃ったじゃないか。

 巨大象虫討伐、やれるかもしれない。

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― 新着の感想 ―
そうそうザン出ないなと思っていたら避けてたのねw
強制力がないのに奴隷が逃亡や反逆しないのはなんでだろう 奴隷の立場もそんなに悪くなく、逃亡罪とか強いペナルティがあったりする?
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