金の延べ板
王都に向かう俺だが、同行者は俺の奴隷であり護衛のヴァルブルガ、クルト、ニクラス、ヤスミーンの4人とゴルドベルガー伯爵家から俺に付けられたお目付け役の若い騎士アルノー君だ。結構、俺の商会も大きくなって来たのに、身軽さ重視で自分で馬車の御者をして旅をしている。
クルトは2mを超えるやや肥満気味の巨躯で馬車には乗せられず、そのせいで馬車は彼の歩行速度に合わせてあまり速度は出せない。とはいえサスペンションもない馬車では乗り心地も悪く、速度を出せば尻が痛くなるのでそこにはそこまで不満はない。
むしろ街道でも街中でも彼を連れて歩けば盗賊避けや、変に絡まれる事が減るので護衛として最適である。彼が一人で馬車の後ろを歩いているが、今回残りは馬車の上、ヴァルブルガが俺の横の御者席に座り、ニクラス、ヤスミーン、アルノー君は後ろの荷台載ってもらっている。
積み荷はペルレ大迷宮産の魔物の皮革や牙、骨、そしてアントナイトは飽和しているし、ミスリルはルートを選ぶのでそれ以外の鉱石等。これらは重量に対する価値の高い物で、売りやすいモノを選んだ。そして、何より戦力となる奴隷を買うための金の延べ板を運んで来ている。
ゴルドベルガー伯爵家から預かった資金は金貨1万枚(約10億円)、そのうち金貨3千枚相当の金の延べ板を運んで来ている。ヴァルブルガとクルトが二人で金貨40枚、ニクラスやヤスミーンが金貨70枚である事を考えれば、金貨200枚も出せば一級戦力が買えそうな気もする。
ただ今回は可能なら一級戦力を10人揃えても良いと思っているので、これだけ持って来た。とはいえ、それはクズ貴族と思われるエスレーベン子爵にバレてはいけないし、そうでなくても盗賊に盗られるような事は絶対に防がないといけない。同行者を絞って戦力を集中したのはその為でもある。
ペルレを出て3日後の夕方、俺達は王都に到着した。今回はエスレーベン子爵への面会もあるが、貴重品も多いので、行商人が良く使う街門近くの『幸運のブーツ亭』ではなく、貴族街近くの『気高きグリフィン亭』という高級宿に投宿した。
ここは王都を訪れる子爵、男爵級の貴族や大商人等が泊るそれなりに格式の高い宿なので、盗難などのリスクは比較的少ないハズだ。まあ、本当の貴重品は常に誰かの手元に置いておくし、今回はクルト以外が馬車に乗ったので積み荷はそう多くない。部屋に運び込んでも問題無いだろう。クルトは毎度ながら馬小屋である。すまぬ。
部屋割については俺とヴァルブルガ、ヤスミーンが二人部屋1つで、ニクラスとアルノー君は別々の部屋となった。アルノー君は、監視だから俺と同室にするべきだが平民と同じ部屋は嫌とか、ヤスミーンを仕方ないから自分の部屋で寝かせてもいいとか言っていたが、全て流した。
アルノー君は俺達の隣の部屋だったので、嫌がらせに行為中にヤスミーンのちょっと大きめの声を出してもらったが、夜中に怒鳴り込んで来る事はなかった。翌朝、怒られるかもと思ったが、高級宿の上質な朝食をみんなで頂いている中、アルノー君は恨めし気に俺を睨むだけで眠そうなまま声を発しなかった。
「これで良しっと、
それで何を私に買って欲しいというんだね」
執務室でこちらに目もくれず台帳とにらめっこをしていた商人が、やっと顔を上げてこう言った。こちらは彼の目の前に10分以上も立たされていたのにだ。というか、アルノー君が小声で伯爵家とか騎士とか不穏な事を言わなければ、もっと待たされていたかもしれない。
彼には連れて来るに当たって散々商談は退屈だから止めた方がいい、着いて来るなら黙っていてくれと頼んだのだが、それで小声でしか文句を言わなかったのは彼にしては快挙と言っていい。彼の服は庶民が着るには上質なので普通は貴族と気付かれるだろうが、洞窟での探索でそうさせないだけ汚れていた。
「どうやら洞窟狼の毛皮のようだが、王都にはそんな物は溢れていてね。
大した額にはならないだろうさ」
「それが本当なら今日は帰らせてもらいますよ。時間を取らせても申し訳ない。
それとこれは洞窟狼ではなく洞窟銀狼なのですが、あまり専門ではないようですね」
そう言って俺が部屋の出口へと踵を返すと、商人はもったりとした口調でそれを止めた。
「ふむ、分かっていたとも。
だがあまり保存状態が良くないようなので、洞窟狼級と言いたかったのだ。
とはいえ、私はペルレから来る商人には親切にしてる事が評判でね。
どのくらいになるか値を付けてみようじゃないか」
「ご親切にどうも。でも、貴方のような立派な方に無理をさせたくありません。
王都には知り合いもいるので訪ねてみます。
彼は最近、儲かり過ぎているみたいですが、
手元の現金不足を嘆いていたようなので、こちらを試してみただけですから」
俺がこう言うも商人は無視して毛皮を掴み、品を確かめ始める。まあ、商人とはこういうものだ。
早めの朝食を終えた俺達はまず全員で、ペルレから運び込んで来た素材を売りに3軒の商会を回って、それほど粘らず商材を売り切った。続いて最低限貴族街を走っても怒られないくらいの馬車を借り、俺とアルノー君、ニクラスの3人でエスレーベン子爵邸に向かった。
ヴァルブルガ、ヤスミーンは変に子爵に見せてちょっかいを掛けられても嫌だし、クルトは外見も悪いのでそれをネタに嫌味を言われるかもしれず、無難なメンバーだけで行く事にした。




