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ミスリル鉱脈

「おい、本当にこんなところで寝るのか」


 文句を言っているのは、俺のお目付け役としてゴルドベルガー伯爵家から付けられた若い騎士アルノー君だ。彼は迷宮に入るなり勇敢に進んで行ったので、1区の凹凸激しい岩の上で足を滑らせ頭から血を流し、2区の中型犬サイズの甲虫に突撃して切り捨ていい気になっていたが、流石に8区の大型魔物には肝を冷やしていた。

 彼は8区にはかなりビビっているようだったが、怖くて帰りたいとは言えないようで、そのぶん俺のやる事なす事に文句を付けウンザリさせた。それでもゴルドベルガー伯爵との繋ぎ役なので無下には出来ず、俺は内心イライラしながら彼を宥める。

 ちなみにいつも勇ましい俺の奴隷達、ヴァルブルガ、ニクラス、ヤスミーンも貴族であるアルノー君に及び腰で、間に入って来る事はなかった。まあ、下手に入って来ると余計に面倒な事になりそうなので、それでいいのだが。


 なお、クルトに対して彼は早々に頭が悪そうだの、でくの坊だの言っていたが、クルトの方は何の反応も示さないので彼も何も言わなくなった。そういえばヤスミーンに対しては下品だの、胸が大きくてみっともないだの言っていたが、興味深々だったのだろう。

 そこはまあ、そうなるだろうと特に何とも思わなかったが、ヴァルの顔の傷を醜い女だの言った事は内心腹が立った。それでもどこかの主人公のようにぶん殴るような事はせず、ただ話を逸らして話題を変えただけでやり過ごした。

 彼の事は人間ではなく、質の悪い笑い袋か何かと思う事にした。人間相手ではなく、ただの袋に腹を立てる人間はいないだろう。




 そうして大迷宮で最初の夜を過ごした俺達は、朝食を取ってから鉱夫達がガンガン岩を砕いている幾つかの採掘場を回った。青く僅かに光るミスリル鉱石は、よく似た青い金属であるアントナイトの中に僅かに混じって採掘される。

 見て回ると言っても、僅かに周囲1メートルかそこらしか見えないランタンしかないので、それで壁を照らしながら鉱床を眺める事になる。うん、青い岩壁だな~としか分からない。結局、人海戦術であちこち試掘し、その結果からしか鉱脈は発見できないのだ。

 とにかく、それらしく半日ほど鉱床を見て回ったのだが、何の発見も無かった。


「おい、こんな事をして何か意味があるのか」


 そう言ったのはやっぱりアルノー君だった。いや、何の意味も無いけど。そう言ってやりたいが、そんな事を言っても明るい未来は見えないので俺は黙した。愚痴りたいのは俺の方だ。そもそもコイツらのせいで、ミスリルの採掘量を急拡大しなければいけないのに。

 すう、はあ。笑い袋に怒ってもしょうがない。しかし困った。鉱脈を見つけるなんて、鉱山技師や交渉学者とか山師の仕事だろう。あとは預言者(オラクル)的な予知能力とか占いの領分か。ん、ひょっとして俺の探知スキルで見つけられないか。

 俺の探知スキルは最初、危険を避けたいという思いからか、敵意を持つ人や魔物、危険な場所をパッシブで知らせてきた。それからエルフの森では結界を見つけようと能動的に使用して、それに成功した。さらにゾンビに囲まれた時は、ゾンビの位置だけでなくそこを通り抜けるルートを知る事が出来た。


 だったら、俺の探知スキルでミスリルの鉱床も見付けられるハズ。俺はランプを足元に置き、青いアントナイトの岩壁に手をついた。俺の探知スキルよ、俺にミスリルがどこにあるか教えてくれ。




 1分経った。何も分からん。




 3分経った。何も分からん。アルノー君が文句を言っているが、無視だ。




 10分経った。何も分からん。みんな俺の近くの床に座り込んで休んでいるようだ。




 30分経った。何も分からん。でも、他にミスリルを見つける方法が無いんだ。これに掛けるしかない。




 2時間経った。ん、今ふれているアントナイトの岩壁の中に、ブツブツともっと何かパワーのある様な何かがある気がする。俺は目をつぶり、壁に手をついたまま周囲に意識を向ける。すると、そのブツブツと似た、しかしもっと研ぎ澄まされたような何かがある。

 俺が目を開けてそちらを見ると、ヤスミーンがミスリルの槍を持っていた。これはイケるんじゃないか。俺は再び目をつぶり壁の中に意識を向ける。そのパワーあるブツブツが段々見えてくる気がした。そのブツブツは広い範囲で疎な部分と密な部分があり、まるで肉のサシ状にアントナイトに混じっているようだ。

 だがやっぱり近くでは疎な部分が多いので、きっとそれだけで採掘の効率は上がらないだろう。もっと遠くにグッと密に固まっているところはないだろうか。俺は意識を拡大していく。半径50メートル。あまり密な部分は見つからない。


 半径100メートル、そこまで意識を浸透させるのに時間が掛かる。しかし見つからない。半径300メートル。かなり集中力がいるが、それでもあまり濃い反応はない。半径1キロメートル、ずっと奥にパワーある塊があるように感じる。でもヤバイ。メチャメチャ頭が痛い。

 そして半径3キロ。あった、ここだ。だが、俺はそこで体が崩れてもう探知出来なくなった。そして俺はひっくり返ったまま周りを見回すと、近くで全長10メートル近いムカデが死んでいた。俺が岩壁に集中してる間に戦闘があったようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変今回も面白い。主人公はまだ力に関しては脆弱であり人間関係は非常に複雑になってきた。これは胃薬が必要ですな。 探知スキルが徐々に成長を遂げている点はわくわくしてきますね。 [一言] 人物…
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