いとも軽く告げられる、えげつない状況
俺はミスリル採掘クラン『銀蟻群』の拠点から、トルクヴァル商会の事務所まで戻って来た。そこで俺のお目付け役らしいゴルドベルガー伯爵家の若手騎士アルノー君を俺の執務室に案内し、今回の件について色々聞こうとしたが、俺は知らん、と言われて困ってしまった。
だが、そこに中年騎士ギードさんが訪ねて来た。
「それで、俺がコジマさんと婚約ってどういうことですか」
「うんうん、自分の事だから知りたいよね。
でも、これは口外したら命が無いから気を付けてね」
なんですと。俺が息を呑む飲む無視してギードさんはしゃべり続けた。
「彼女はエスレーベン子爵の庶子でね。家族には邪魔者扱いされていて、当時伯爵家を継ぐ可能性が低いと思われていたお嬢様に侍女として差し出されていたんだ。
それでエスレーベン子爵は消極的中立っていうのかな。お嬢様が伯爵家を継ぐ前、他のご兄弟に表向き協力はしなかったからすぐには粛清はされなかったけどね。
信用出来ない上に無能だから、敵対していた家を全部潰し終わったところで次にそういった家を潰す事になって。それで彼女以外の子爵家は全滅させて彼女に有能な夫を宛がって子爵家を継がせる事になったんだ」
過激だけど、この国の貴族の習慣的にどうなのか分からないので、そこに俺から言う事はない。そんな物騒な話とは関わりたくないとは思うが。でも、もう無理なんだろうな。
「それで以前君はお嬢様の役に立って、金貨百枚を受け取って手を付けられたわけだけど、
その後も商会を作ってミスリルまで発見して有能さを見せたからね」
丁度いいからと呼び戻す事になって。あ、でも、コジマちゃんは伯爵領でお嬢様の侍女をしてるから当分会えないし、会っても結婚するまで手を出しちゃダメだよ」
あの金貨百枚は報酬だったよね。確かに最初十枚と言われてたのに最後に増えたとは思ったけど。貴族は太っ腹だな~、とか思って受け取ったのが罠だった?これもう、きっと断れないんだろうな。俺の婚約が俺の知らない間に決まっちゃったよ。とほほ。
しかも婚約しても会う予定なし。あの子、顔は知ってるけど旅の間もほとんど話す事も無かったし、どんな子なのか全然分からないんだけど、互いの性格とか関係ないんだろうな。貴族の婚約ってそんなものかもしれないけど、婚約状態でずっと引き伸ばされて、こき使われる流れか?
あっ、これってバックハウス男爵に横入した事になるのか。あの人、じっくり親交を温める感じでハッキリ言わなかったけど。怒るかな。怒りはしないけど、気まずくなりそうだよな。
「エスレーベン子爵が何か言ってくるかもだけど、上手くやっといてね。あと君が頑張ってミスリルを見付けてくれたのは、お嬢様も喜んでいたよ。それで君に任せる事になったんだ」
絶対子爵が絡んで来るよね。クズらしいから金を要求される事はほぼ確定か。早く潰して下さい。俺が情報量の多さにフリーズしていると、言うだけ言ってギードさんは帰り始めた。俺はとりあえず呼び止めようとしたけど、彼はそれより前に振り返って軽い言った。
「そうそう君も不死者に遭ったみたいだけど、不死者を作り出してた山羊頭の魔族は伯爵家が討伐したんだ。凄いでしょ。じゃ、頑張ってね」
え、山羊頭の男って魔族だったの? っていうか、そのうち俺の前に現れて決着をつける流れかと思ったけど、もう俺の知らない所で討伐されたの。ま、まあ、俺は主人公の勇者でもないからそんなもんか。俺がそんな事を考えている内に、ギードさんは立ち去ってしまうのだった。
後で調べてみたが、エスレーベン子爵領ってあのザックス男爵領に行く時に通った、あの陰鬱なオイゲンの街じゃん。うん、自分の街を荒れるまま放置して王都で贅沢三昧をしているらしいから、間違いなくダメ貴族だね。俺、そんなところに婿入りさせられるの?
3日後、俺はペルレ大迷宮に入る事になった。採掘の素人の俺が見に行っても増産策が見つかるとも思えないが、迷宮の外で論じる事も無くなったので仕方がない。ミスリル採掘クラン『銀蟻群』は毎日鉱夫の班を大迷宮に送り出し、別の班が鉱石を持って戻って来ている。
今回はその班に、俺とヴァルブルガ、クルト、ニクラス、ヤスミーン、そしてアルノー君の5人が加わる。俺は突入した大迷宮に、懐かしさとかワクワクする気持ちなんて一欠けらも感じる事は無く、唯々心許ない明かりに照らし出される暗闇に陰鬱な気持ちとなっていた。
この大迷宮、迷宮と言いつつ巨大な自然洞窟のようで水平な通路なんて無く、ひたすらアップダウンの激しい岩山を進んでいくようになる。しかも入口の1区から離れて2区に入れば大型犬くらいの昆虫が襲って来たり、8区まで行けば馬大から大型トレーラーサイズの昆虫型の魔物に遭遇したりする。
俺達はそれらに遭遇しないよう、迂回し、隠れ、逃げて進んだ。曲がりなりにも戦えるのは2区までで、8区は見つかればほぼ終わるのでとにかく怖い。2区、8区のキャンプでそれぞれ同行する鉱夫の班が入れ替わりながら、丸一日の後に第8区の奥、採掘の最前線に到着した。




