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引っ越し

 ペルレに戻って翌日から、トルクヴァル商会の引っ越しとなった。これはダーミッシュ商会のユリウスさんとブリギッテさんで進めていた事で、ミスリルのセキュリティを上げる為にも元の建物は採掘クラン『銀蟻群(シルバーアンツ)』専用とし、うちの商会は建物を分ける事となった。

 トルクヴァル商会の人員が増えて来た事も原因だが、人員を増やしたのはブリギッテさんである。元の建物が商店街と職人街の間だった事に対して、次は商店街と市民街の間で南方の街ライマンに抜ける門の側だ。これはブリギッテさんがマニンガー公国への門の近くを選んだという事情がある。

 新しい建物も前とほとんど作りは一緒で、1階が土間の倉庫、2階に食堂やキッチン、3~5階がベッドルームだ。3階は4階以上より部屋の作りが大きいので、俺やブリギッテさん、そしてこれから来るベルントの執務室になる。


 4階以上の部屋割は、俺は一応一人部屋だが、ヴァルブルガには護衛として同室で寝泊まりしてもらう事になるだろう。愛人でも無いし、普通に考えれば護衛としても隣部屋で十分と思うかもしれないが、俺は万一泥棒とか暗殺者が入って来たらとビビっているのでいつも近くにいてもらっている。

 ヴァルブルガの本当の部屋で私物置き場は、元マニンガー公国の徒競走女王で俺の愛人の奴隷ヤスミーンと同室とした。そして元ベテラン傭兵の俺の奴隷ニクラスとマニンガー公国から来た農夫ハイモが同室。ザックス男爵夫人から預かった7歳の娘ヘロイーゼが同室と合法ロリ商人見習いのレオナが同室。

 ベルントには部屋を用意するつもりだが、ブリギッテさん達はもともとペルレに住んでいたのでここには住まない。そしてクルトは1階の土間で休んでもらう。申し訳ないが彼は体が大き過ぎて、床が抜けそうなので我慢してもらう。倉庫番代わりにもなるしね。




「やあやあ、レン会長。これからお世話になります。

 父の店は居心地が悪かったので助かりました」


 俺がペルレに戻って2日、ベルントがやって来た。彼は王都で俺がお世話になっている、布問屋のヴィルマーさんの紹介で採用した。革製品の商店の三男だが、やや気弱でグイグイ客に商品を売り付ける店主の父親や兄達と相性が悪く、代わりに仕事が丁寧で裏方として契約書作りや経理をしていたそうだ。

 父親も兄達と相性の悪い彼を他の商会に移そうとヴィルマーに相談していたらしい。不在時の運営を任せようと思っていたブリギッテさんが大人しく留守番をするタイプではなかったので、代わりの人材を探してたところ彼と巡り合った。俺はやってきた彼をブリギッテさんに会わせて引き継ぎを頼んだ。




 さらに数日後、ペルレに来ていたバックハウス男爵と娘のゲアリンデに偶然会って夕食をご一緒させてもらった。男爵は領地は無いがペルレ近くで荘園を堅実に経営し、それでいて平民や使用人にも優しい。

 ただ荒事は苦手で、軍を招集された時に知己であった俺に頼み込んで来たので、請け負った過去がある。それで随分信用された様でどうも娘婿にと考えている節があった。娘はデブではないが、ちょっとふっくらしていて可愛い感じである。

 まあ、貴族なのに人柄も良く、しっかり利益の出る荘園もついてくるので俺もまんざらでもないと思っていた。ただ、直接言われたわけではないので様子見しながら、悪くない付き合いをしている。彼らは近くであったわけではないが、最近の不死者騒動を怖がっていた。




「もういいでしょう、ベルント君。

 私は早くマニンガーに行きたいのよ」


「いえいえ、ちょっと待って下さい、ブリギッテさん。

 ここ、ここをもうちょっと教えて下さいよ」


「ベルントさん、凄い。

 あの商売に出たがっているブリギッテさんを引き留める事が出来るなんて」


 ブリギッテさんからベルントへの引継ぎが始まると、そんなやり取りが続いた。さっさとマニンガー公国に行きたいブリギッテさんに対して、キッチリ引継ぎが終わるまで逃がさない構えのベルント。ブリギッテさんに逆らえないハーラルトはそれを見て感心していた。

 俺達主に商人組が引継ぎやら引っ越しやらをしている間、ヤスミーンはペルレの外でニクラスに訓練をしてもらっていた。一度見に行くと彼女の脚力を活かそうというのか、突進からの槍の突き刺し、つまり突撃(チャージ)の練習をしていた。これを習得できれば、彼女の武器の1つとなるだろう。

 簡単な様に思えてこれは実は結構難しい。何故なら槍を直線上に突き出そうとしても、槍と両腕の関節の距離が槍の位置に従って微妙に変わっていくので、それに合わせて腕の位置や関節の曲がり具合を変えていかないと、穂先がブレて真っ直ぐ突き出せないからだ。




 引っ越してから1週間、ベルントの引継ぎが続いた。その間はブリギッテさんのマニンガー公国行とハーラルトのザックス男爵領行きの準備も並行して行わる。さらに俺は『銀蟻群』の投資家陣からミスリル増産策について考えるよう宿題を出されて頭を捻っていたが、何も出ないまま時間が過ぎて行った。

 またこの1週間、うちの商会にミスリルの情報を聞き出そうと色々な立場の人間が訪れていたが、俺は居留守を決め込み、ブリギッテさんとベルントで対応してもらっていた。後半はベルントを中心にダーミッシュ商会やクラン『赤い守護熊(レッドベア・ガーディアン)』と連携して上手くこなしていた。

 これならミスリル絡みは、ブリギッテさんがマニンガー公国に行ってからもベルントに任せておけば大丈夫だろう。そうして1週間後、ブリギッテさんがマニンガー公国に、同時にハーラルトがザックス男爵領へと旅立った。




 そんな日常を過ごしていた俺だが、ブリギッテさんが旅立って翌日、『銀蟻群』の定例会の場で、そこにいるハズの無い人物を見つける。ジークリンデお嬢様と一緒にいた執事のクリストフさん、若い騎士アルノー君、そして。


「やあやあ、久しぶり。そして、おめでとう。君の婚約が決まったよ」


 中年騎士ギードさんが、軽い調子でそう言った。

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