幼女誘拐犯ではありません
「ふぁっ、パンがこんなに。スープにもお肉が入ってる。
今日はお祭りなのですか」
俺達はザックス男爵夫人と支援の約束をして村を出た。向かうはペルレ、俺達のホームタウンだ。ニクラスはエルフの薬で一命を取り止め、翌日には動けるようになった。そして俺は男爵の娘ヘロイーゼを預かって、連れて来ている。俺は決してロリコンではなく、夫人に裏切られない為だ。
もっともあの夫人は、領地の為なら自分の娘でも切り捨てそうだが。そうして連れてきたヘロイーゼだが、俺達の普段の食事に上の反応である。よく見れば彼女は同年代の子と比べても痩せ気味だし、年齢の割には小柄な気もする。流石の俺も可哀そうになって、いっぱい食べさせてやりたくなった。
最初は俺達の誰に対してもビクついていたヘロイーゼだが、村を出て1週間、あの陰鬱な街オイゲンまで戻って来る頃には、だいぶ馴染んで来たようだった。特に歳の近いクヌート少年とは、喋っているところをよく見かけるようになる。
「こんなご飯が毎日食べられるなんて、
レン様は伯爵様なのですか」
それでもこんな事を言われると、俺にそんな物があったのかと思われる庇護欲をそそられ、扱いが甘くなってしまう。それでまあ、大喜びしてご飯を食べる姿を見て自分のパンを少し千切って与えたり、屋台で売っている焼き串を買ってやったりしてしまった。
日本を始め儒教の影響の大きい東、もしくは東南アジアでは子供大事に育てる習慣があるが、欧米などでは子供は大人の成り損ないで厳しく躾けて大人にしなければならないという思想がある。この国でも子供に対する姿勢はいわゆる欧米と同じようなモノなので、俺のヘロイーゼに対する態度は行き過ぎだったらしい。
そこで勘違いされたのだろう、オイゲンの宿では同じ部屋で俺とヤスミーン、ヴァルブルガとヘロイーゼの組でベッドに寝ていたのだが、夜中にヘロイーゼ7歳が俺のベッドに入り込んで来た。彼女の手前、ヤスミーンとも何もしていなかったのだが。
「レン様、お母様に聞きました。
旦那様にはペロペロってするとお喜び頂けるって。
レン様はいずれわたしの旦那様になるお方ですから、
ペロペロってさせて下さい」
俺はこれを聞いて、俺の股の間に入って来る幼女にゾッとした。夫人~、娘に何教えてるの~。俺は彼女を抱きしめて言った。
「そんな事をしなくても、ちゃんと面倒を見るから。
まだ、先の事はどうなるか分からないし、
そういうのは本当の結婚相手に取っておくんだ。
君はこれから街に行って俺の商売をしっかり勉強してくれ。
それがいつか領地に戻った時に役に立つから」
俺はそこまで言うと彼女をヤスミーンに押し付けて、ヴァルのベッドに逃げ込んだ。
「ご主人様、いいのですか。
男爵夫人も最初からそのつもりでご主人様に預けたと思いますが。
あ、いて」
俺はそんな事をいうヴァルの頭を叩いた。この世界、ロリコンの人権は現代日本より低い。何しろバレれば神官が押し入って来て、火あぶりにされるほどだ。それに何度も言うが俺はロリコンではない。
「では、今夜は私がお相手を。
あの、初めてなので優しくして頂けると。
あ、いて」
「お前もそんな事しなくていいんだよ。
お前の仕事は俺の護衛なの。
今回だってそれで助かってるし、
他の事は気にすんな」
こんな事を言っているが、暗闇の中でヴァルとはいえ、抱き枕にしてしまうと体の一部が元気になってしまう可能性は否定できないので、俺はヴァルに背中を向けて寝るのだった。
ペルレを出て1月半、俺達はやっとペルレに戻って来た。帰り道は不死者に遭遇する事はなかったが、王都周辺を含む王国西部ではあちこちで不死者の発生騒ぎは起きているようだった。
帰路は不死者が暴れていたせいか、ほとんど狼だのゴブリン、盗賊などには遭わずに済んだ。王都ではお世話になっている布問屋のヴィルマーさんにベルントさんという30代の男性を紹介してもらった。商店の事務経験と真面目そうな人柄から採用して、後日ペルレに来てもらう約束をして帰ってきた。
「申し訳ありませんでした。
今後、このような事がないよう十分注意し、誠心誠意努めさせて頂きます」
トルクヴァル商会に戻って来て、男爵家であった事を説明するとブリギッテさんは腰を90度に折る深いお辞儀をする。いわゆる企業不祥事の謝罪会見で社長や役員達のするアレだ。
まあ、今回の事は男爵夫人の偽装工作が上手だっただけでもあるし、俺達の行っている間にマニンガー公国への隊商を一往復成功させていたし、普通に考えてウチのような小商会には勿体ないくらいの優秀な人材である事には間違いないのだ。
とはいえ、彼女がガセを掴まされたせいで、死に掛けるような大冒険をさせられたわけだし、ザックス男爵夫人とは余計な約束をさせられたので、面倒な男爵家への支援はブリギッテさんに一任した。もちろん、金を出して終わりじゃなくて3年以内に収益の出る領地にするよう条件をつけてだ。
いつも熱血、イケイケのブリギッテさんが涙目になったが、まあ彼女なら何とかするだろう。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ゾンビ戦がグダグダしたので、男爵家はさらっと済ませるつもりでしたが、またグダグダになってしまいました。申し訳ありません。




