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辺境の男爵家

 今、俺は取り押さえられたエッボの横にいる。エッボはクルトが自分の身体を重しに抑えている。壁際ではニクラスの手当て、といっても傷口をきつく縛るくらいしかできないが、をヴァルブルガがやっている。そして部屋の中央付近、男爵の死体の横でヤスミーンが彼自身の上着を使って長男を縛っている。

 何気にハーゲンに当てる戦力がない。クルトの力は凄いがハーゲンはニクラスと同等かそれ以上の戦士っぽい。出鱈目に殴りつけてくるゾンビやスケルトンの攻撃ならクルトの分厚い脂肪で防げるが、歴戦の戦士が鋭い剣で突き刺せば、流石のクルトも殺される可能性が高い。

 でも仕方ないか。いろいろ賭けになるが、運を天に任せるしかない。俺は入口から入って来たハーゲンを指さして言う。


「クルト、テーブルでソイツをぶっ叩き続けろ。

 ヤスミーンは裏から出て、ロッホス達を呼んで来い。


 おい、エッボ。

 ゆっくり立ち上がってこっちに来い。余計な事をすれば男爵の後を追う事になるぞ。


 ヴァルはそのままでいい」


 俺はマスケットピストルを拾ってエッボに向ける。連射はできないが、それは分かるまい。何か男爵を殺した恐ろしい魔法の武器だと思ってくれればいいな。俺がニクラス達のところに下がろうとしたところで、ハーゲンが笑い出した。トチ狂ったか。


「ははははっ、兄貴、死んじまったのか。

 これは傑作だぜ。


 それにライナルト、お前無様だな。

 商人くずれに負けてそのザマか」


「ハーゲン、貴様。

 馬鹿な事を言っていないで、さっさと俺を助けろ」


「おうおう、甥の分際で偉そうに。

 いいぜ、助けてやろうじゃないか


 このマヌケめ」


 何かハーゲンさん、絶好調だ。クルトの振り回すテーブルを剣で反らして、2歩で長男の前まで立つハーゲン。長男を助けられるのは痛手だが、戦力が足りないからしょうがない。くそ、もう作戦が崩れまくりだ。

 だが、ハーゲンは予想の斜め上の行動に出る。ハーゲンはもう死んでいるか、瀕死の男爵の胸に剣を突き刺したのだ。


「な、なにを、ぱぺ」

「男爵さま、ぼ、坊ちゃん」


 驚愕の声を上げる長男を続いて突き刺す。エッボも悲鳴のような声を上げる。


「念の為のダメ押しって奴だ。きっちり死んでもらわなきゃな。

 そして助けてやったぜ、お前のそのハエのような惨めな人生からな」


 そこでさらに乱入者だ。ヤスミーンが飛び出した、調理場と思われる扉から夫人が現れるて、こっちは明確な悲鳴を上げた。


「ハーゲン、あなた、ライナルトに何を。

 それに旦那様」


「ちっ、グレーテル。


 俺が男爵になって中古のお前を娶ってやろうと思ったが、見られちまったら仕様がない。

 お前らは野盗に襲われて皆殺しになったんだ。」


 ハーゲンはそう言い放って、剣を夫人に向ける。何この急展開。この貴族家、人間関係メチャメチャ過ぎるだろ。う~ん、技術のある戦士がまともぶつかってくれないならクルトはダメだな。


「クルト、こっちに戻ってコイツを押さえていろ。


 悪いがヴァル、お前がハーゲンを押さえてくれ。

 ヤスミーンが『疾風迅雷(テンペスト)』を呼んで来るまででいい」


「ご主人様、承知」


 ハーゲンとヴァルブルガでは体格も経験値も違う。クルトは連携が取れないから、下手に出せば足を引っ張りかねない。圧倒的不利だが頑張ってもらうしかない。ヴァルとハーゲンが剣を打ち合わせるが、ヴァルは一撃一撃を受け流すのでやっとだ。


「ははははっ、女ぁ。

 剣が軽い、軽すぎるぜぇ~」


「ここは、絶対に通さん」


 身長が2メートル近いハーゲンに対して、女性にしては身長が高いとはいえヴァルは170センチ程度。明らかにリーチもパワーも段違い。むしろ一瞬で吹き飛ばされないだけで、よくやっていると言える。逆に1秒1秒にガリガリと精神力を削られて、集中力が途切れた時に終わるだろう。

 ロッホス達が間に合いそうもないなら、ここで援軍を作るしかない。


「おい、エッボ。

 お前はハーゲンと夫人のどちらに付くんだ。」


「お、俺はもちろん男爵様だ。」


「だが、男爵は死んだ。長男もだ。

 ハーゲンは男爵家を乗っ取る為に、夫人や子供達を殺す気だ。


 お前はどっちだ」


「俺は男爵様に恩がある。

 奥様やお子様がたを守りたい」


「エッボ、あなたは」


 エッボの言葉に夫人が声を上げる。


「なら、俺に協力してハーゲンを倒せ」


「お前も男爵様の敵だろう」


「俺達は自分の身を守っただけで、夫人達を殺したいわけじゃない。

 放してくれるなら俺達はすぐに出て行くさ」


「…分かった」


 よし。俺はエッボに6体のスケルトンでハーゲンを包囲させた。スケルトンには腕をいっぱいに伸ばして剣を前に構えさせ、前後に踏み出しと戻りを繰り返させる。エッボはハーゲンならスケルトンをすぐに切り捨てられると考えていた様だが、これなら距離を保てるので簡単には切り捨てられない。

 どちらかに踏み込んで切ろうとすれば、他の方向から突かれるし、ヴァルブルガがスケルトン達よりももっと要領よく攻撃に回れるだろう。ハーゲンはスケルトンの突きに半分注意を割きながら、ヴァルの相手をするしかない。それでも隙を突いてスケルトンを切り捨てていくハーゲン。


 ばきん


 ヴァルブルガの剣が折れた。

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