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注意一秒、怪我一生

 男爵はニクラスと自分の間にヤスミーンを挟むように位置取りすると、ヤスミーンの足を払ってニクラスの方へと彼女を倒す。ニクラスは半歩足を引いてヤスミーンを躱すが、男爵はヤスミーンを踏みつけてニクラスに切り掛かる。

 そして互いに両手で剣を押し付け合いながら肉薄しする。


「貫け」


 男爵の腹から短剣が飛び出し、ニクラスを刺した。短剣は男爵の腹、服を破って飛び出した骨の手に握られていた。ニクラスが膝から崩れ落ちる。男爵は腹を押さえるニクラスを蹴り飛ばして足元から退けると、ヤスミーンを仰向けにして首に剣先を突き付ける。


「隠し腕だ。


 お前のようなベテランを相手にするとは。

 備えていて良かったぜ」


 なるほど、スケルトンの腕だけを服の下に忍ばせて、いざという時の一手として隠し持っていたのか。あまりに頭悪そうな事ばかり言っていたから、正直侮っていた。ニクラスもあの程度の言葉だけでは動じなかっただろうが、味方の転倒と踏みつけ、さらにありえない第3の腕で予想を超えて不意を突かれたか。

 男爵からはスケルトンのような邪法を使ってでも誰にも負けたくないという様な、執念のような物を感じる。さっきも他の貴族にコキ使われたなんて言っていたが、憎悪、劣等感、嫉妬、恨みといった負の感情がその原動力なのだろう。彼の戦闘勘と陰険さと執着は危険だ。


「さて、これはお前の女だろう。

 殺されたくなければ、武器を捨てろ」


 男爵は俺にそう言うが、武器を捨てれば全滅もありえるので従うわけにはいかない。


「彼女は俺の護衛だ。

 むろん無駄死させたくはないが、護衛を助ける為に主人が死んでは本末転倒だろう」


「そうよ。コーチ、私の事は気にしないで。

 私はあなたの為に死ぬ覚悟は出来ているわ」


 俺とヤスミーンの言葉に男爵は忌々しそうな顔をするが、未だテーブルを振り回しスケルトンとエッボを相手に奮戦しているクルトを見て言った。


「ふん、まずはアイツを止めろ」


「クルト、ニクラスを拾ってこっちに来い」


 クルトを止め、少し離れたところで腹から血を流しているニクラスを拾って来させる。これで壁際に俺とヴァルブルガ、クルト、戦闘不能で至急治療が必要なニクラス。逆に俺達を囲むように6体のスケルトン、そして大男エッボ、足元のヤスミーンに剣を突き付ける男爵。


「おいおい、冷たい男だな~。

 だったら俺が可愛がってやるぜ~」


 忘れられていた長男が、垂れた鼻血の後もそのままにヤスミーンの前にしゃがみ込み、その巨乳をまさぐる。安いエロ小説のように突然喘ぎ声を上げる事はなく、ヤスミーンは鋭い目付きで睨んでその腕を掴むが、男爵から剣を突き付けられて動くなと言われるとその手を放す。


「ふん、まだ乳離れ出来てないなんて、

 気持ち悪いわ」


「このアマーっ」


 ぱしん


 安い挑発に激昂した長男が、ヤスミーンの頬を打つ。ヤスミーンは口の端から一筋の血を流すが、それでもその目は長男を見据えている。


「おい、おふざけはいい加減にしろ」


「父上、この身の程知らず共に貴族の威光を示さねばなりません」


 長男の暴走に苛立ち始めた男爵が制止するも効果はないようだ。長男は腰の短剣を抜くと、ヤスミーンの胸元の紐を引き千切って、右の乳房を露出させる。コイツ、完全に発情して我を忘れているな。そして多分、自分を無視された怒りで男爵の注意が俺から長男に向いた。今だ。


 ばん


 俺の服に穴が空き、その穴から煙が昇る。音源である俺へと全員の注意が俺に向いた。だが、男爵だけは自分の異常に気付いて自分の腹にも空いた穴を見る。そこからは煙ではなく血が流れ始めた。あっちぃ。俺は自分の服の中、腹の上で高温に変わった銃を取り落とす。きっと火傷している。

 実戦に使ったのは初めてだが、マニンガーで買ってきたマスケットピストルがここで役に立ったな。それにしても、今日は注意をそらすと腹に仕込んだ隠し武器で、腹に穴を空けられる日だろうか。俺もこれから気をつけよう。

 男爵は手についた血を見て、そのまま倒れた。


「ぷぺ」


 生乳を揉んでいた長男は、体を折るように回したヤスミーンの蹴りを後頭部受けて倒れる。


「クルト、その男に跳び乗れ」


「ブゴッ」「ゲハッ」


 クルトが言葉通りエッボに跳び乗ると、エッボはあっさり押し倒されて二人の体格からマットに抑えつけられたプロレスラーのようになっている。今はスケルトンが止まったタイミング、エッボから新たな指示が出ない限り動かないハズ。再び形勢逆転だ。

 ヤスミーンは右乳を出したまま、隠す事も無く平然と立ち上がる。まあ、この人わりと気にしないからな。俺はヤスミーンに長男を縛り上げさせ、ヴァルブルガにニクラスの手当てをさせ、俺自身はエッボに余計な事をすれば本人だけでなく、長男も殺すと脅して大人しくさせた。

 それにしてもこれだけの物音がしても、離れに下がったらしい夫人たちが来ないのは助かる。俺は一息ついて探知スキルを見ると、件のグランスロースは追い払われたのか森へと戻って行き、そしてハーゲンがこのタイミングで戻って来やがった。

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