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いろいろ足りない

 エッボと言うのは大男の事だろう。男爵の言葉にクルトと力比べをしているエッボが声を張る。


「ガイコツども、出て来い」


 すると、入り口横の床板がパカリと開く。基本この部屋は土間で、そこだけ板があるのは納戸だと思っていたが。そして床板の下からガイコツが次々と現れた。くそ、まだ全部出ていないが10体はいる。不死者(アンデッド)はアクティブにならないと探知スキルに反応しないのか。

 俺は調理場と思われる扉に移動しようとする。調理場なら勝手口というか、別の出口があると思ったからだ。だが、剣を持った男爵がそちらに回り込み、塞がれる。くそ、俺はニクラスやクルトも呼び寄せ、壁を背にして半円陣を組ませる。

 ニクラスの前にハーゲン、クルトの前にはエッボ、領主と俺の間にはヴァルブルガとヤスミーンが武器を構える。地下納戸からはスケルトンが10体現れ、明らかに手数で負けている。しかもスケルトン達は、それぞれが剣を手にしていた。男爵は余裕の表情なので、少しでも時間を稼ぐか。


「男爵様、その骨達は。

 あなたが死霊使いだったのですか」


「愚かな。これは運命が俺にくれた魔法の道具の力よ。

 この力で領地を広げ、邪魔者は始末し、俺は大領主となるのだ。


 さあ、サッサとミスリルの鉱床がどこにあるか教えろ。

 お前のような能無しには手に負えなくても、俺が有効利用してやる」


「仮にそんなものがあるとして、

 ここから誰かに遠方の鉱床を発掘させるのも難しいとは思いますが」


「俺が命じれば、喜んで俺の為に働くに決まっておる。

 お前のように俺に反抗するなどあってはならん事なのだ。


 それにミスリルが金になるなら、スケルトンでその土地を奪い、

 こんな貧乏な土地、捨ててやるわ」


 う~ん、やっぱりこの人、色々足りないよな。寧ろ話しちゃっても何も出来ない気がする。それに自分の領地にも関心がないどころか嫌ってさえいる。コイツにあるのは虚栄心だけなのか。俺は何か起死回生の策は無いかと、館の中だけなく村全体を探知スキルで探る。

 すると、オルフ大森林から村へと何か大きなモノが近付いて来ているのに気付く。たぶん、魔物か何かだろう。村にとっては災難だが、今の俺の状況を好転させる可能性もある。例えば、村の防衛の為にスケルトンを全部出してくれるとか。

 そう思っていると、館の外から村人の声が聞こえた。


「ハーゲンさん、男爵さま~、グランスロースです。

 グランスロースが出ました~」


 それを聞いて、男爵とハーゲンがピクリと反応する。どうやらスケルトンさえいれば、俺達の制圧は十分と思ったようでハーゲンが一人で外へと出て行く。ただ、男爵達の中で完全な武闘派はハーゲンだけに見えるので、一番強い駒が消えるのはありがたい。

 それにしてもグランスロースって何だ。スロースって7つの大罪の怠惰か。いや、動物ならナマケモノか。そういえば先史時代のナマケモノは熊のように大きく、肉食で地上を歩いたと聞いた事がある。確か手足の長い熊のような奴。ファンタジー世界ならそんな奴が出て来ても不思議は無いか。

 何にしろ手数はともかく、戦況に的確な判断できそうな奴が男爵だけになった今なら、不測の事態と混乱は俺達の味方になるだろう。俺は余裕をこいている男爵に目を向けること無く、背嚢から林檎を放ってクルトに命じた。


「クルト、あのテーブルを振り回せ」


 クルトは林檎を1個まるまるボリボリと噛みしめながら、目の前のスケルトン達も無視してテーブルへと歩み寄りそれを掴む。咄嗟に男爵と大男エッボは身を引いたが、スケルトンは近付いて来るクルトに向けて剣を振るう。

 10本もの剣で斬り付けられれば即死に思えるかもしれないが、この辺の国々では鉄の加工技術が未熟でそれほど鋭い刃は作れず、強度を保つためにも肉厚になる。さらにスケルトンの剣はあまり手入れの行き届いていないようで、ほとんど鉄の棒も同然だった。

 クルトの体には10本の痣と裂傷が出来るが、2メートルを超える筋肉と脂肪の塊の体には深刻な傷は与えられないようで、クルトは10人は席につけそうな大きく頑丈そうなテーブルを掴んで振り回す。それに巻き込まれたスケルトンの2体が砕け、4体は吹き飛んだ。


「ニクラス、ヤスミーン、男爵を押さえろ」


 クルトの作った混乱の中、俺は2人に男爵を押さえに行かせる。エッボと長男、数体のスケルトンがフリーになるが、短い間ならヴァルだけでも俺を守れるだろう。俺の目の前でニクラスとヤスミーンの二人に男爵は追い込まれているように見える。

 エッボと長男は男爵と俺達のどちらに向かうか迷っているようだし、スケルトンは10体がかりでテーブルを振り回すクルトに未だに切り掛かっている。男爵を手一杯にすれば敵の動きは限られるし、男爵の剣の腕はニクラスに及ばない。これならもうすぐ決着が付くか。

 そう思っていると、男爵がニクラスに語り掛け始める。


「お前は俺より強いが、勝負を焦っているな。


 そういう奴はあの偉そうな、オーフェルヴェック伯の下でコキ使われてる時に何人も見た。

 お前、足をいや、膝を壊しているんだろう。


 それでまた痛みがぶり返して、動きが止まるのをビビっているな」

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