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ザックス男爵の村

「ゴブリンが出たぞ~。

 ハーゲン様を呼べ~」


 ゾンビに追われたり、エルフ村に行ったりしてやっと人里に戻って来たところなのに、そんなホットスタートいらないんだけど。俺は村から聞こえた声にウンザリした。はあ、探知スキルによれば、それらしい反応は5つだけ。他に敵の反応はないから、地元の印象を良くするためにちょっぴり手助けするか。

 馬車まで辿り着いた俺は、軽く残ったメンバの様子を聞いてから言った。


「ロッホス達『疾風迅雷(テンペスト)』はゴブリン撃退に協力してやってくれないか。

 とはいえポーズを見せたいだけなので、無理はせずに矢玉も控えめで」


「がーはっはっはっ、暇つぶしにちょっと運動して来るぜ」

「分かったよ、レンさん」

「あ、私は弓なので今回はパス~」


 まあ、二人行けば義理は果たした感じになるか。それからニクラスに分かれてからの様子を聞いてみた。やっぱり、ゾンビ達は俺達を追って来たみたいで、ニクラス達は囲みを破るともう追われなかったという。それから馬車へ戻り、馬を探してこの村まで来たという。

 村には宿も無かったので、村の外で野営。村では食料がひっ迫しているようで、食料の調達は出来ず。幸い食料も含めて積み荷にはほとんど被害が無かったので、これを消費して過ごして来たという。それはいいが、仕事を取って来たブリギッテさんの話と違い過ぎる。

 ザックス男爵領は小領ながらも堅実な経営をしていてお金はあるはずだが、農作地は狭く懐具合もよさそうに見えない。あの人、微妙にポンコツなところがあるから、ガセを掴まされた。これじゃアントナイトを買うどころじゃないと思うんだが。




「ふん、余所者が余計な事しやがって。

 金目当てか? 勝手にやったんだから、知らねえーよ」


 ゴブリン退治から帰って来たロッホスは、そう言われたといって肩をすくめた。相手は村人を指揮して戦っていたハーゲンという男。領主の弟で村一番の戦士で、森から狼やゴブリンが出て来た時などに、村人を率いて対処しているらしい。

 とりあえず、領主の一族にはあまり話が通じそうもない奴がいるらしい。全部がそうじゃない事を祈るが、もう領主に会わずに帰りたくなって来た。まあ、ここまでの経費もあるし、エルフとのコネもできたから、また来るときに地元の貴族と気まずくなるのも何だし、仕方ない。

 はあ、気が滅入る。とにかく今日はゆっくり休んで、明日元気溌剌になってから訪ねるとするか。今日中にアポを取るという手もあるが、今来いとか言われたら困るので明日アポなしで行く事にしよう。




 バプティスト・ザックス、ザックス男爵領領主、40歳くらい。平民に厳しい貴族らしい。長男のライナルトは20歳くらいでまだ妻はおらず、村で遊び歩いている。次男カルステンは10代で根暗な引き籠り。夫人のグレーテルは30歳くらいで、王都に頻繁に遊びに行っている。

 そして娘のヘロイーゼはまだ幼女。男爵の屋敷に住んでいるのは、これにハーゲンを加えた6人だという。魔族討伐に参加したリントナー男爵は100人の兵士を揃えていたが、同じ男爵でもザックス男爵は親族以外にほとんど戦力を持っていないようだ。まあ、ヴァルの実家も同じような物らしいが。

 俺は村についた翌日の昼前に、領主の館に向かう事にした。馬車には御者と『疾風迅雷』を残し、俺とヴァルブルガ、ニクラスとヤスミーン、そしてクルトにはアントナイトの装飾品の入った木箱を担がせて行く。




 丘の上に辿り着くと、そこには塀の無い平屋の母屋と離れがあり、様式が違うとはいえ日本の田舎の農家が思い出された。母屋と離れの間で金髪の女の子が遊んでいたようだが、俺達が近付くと急いで離れに逃げて行った。ちょっとショックだけど、知らない人が5人も来たら怖いよね。

 訪ねるなら母屋だろうと、俺達はそっち行く。


「ごめん下さい。

 トルクヴァル商会のレンです。お呼びにより参上しました」


 俺がそう声を掛けると、まず身長2メートル近い男が出て来た。村で聞いた館の住人にはいなかったハズなので、通いの使用人だろうか。要件を伝えると引っ込み、次に20代の軽薄そうな男が出て来た。これが長男のライナルトだろう。

 偉く高圧的で嫌味な男だが、俺達の人数が多すぎると文句を言ってきた。ヴァルを護衛、ニクラス、ヤスミーンとクルトを荷物持ちと紹介し、男爵様のご希望の商品を運ぶのにこの人員が必要だと言うとまた引っ込んだ。

 そして長男と思われる男が再び出て来て、3人しか入らせないと言う。ヤスミーンとクルトを外に残して、木箱から幾つかの商品をニクラスに持たせてヴァルと3人で入る事にした。男はヤスミーンを入れろと言ったが、適当に誤魔化して外に残す。ヤスミーンには何かあれば馬車まで逃げろと言っておいた。


 母屋に入ると玄関のすぐ内側が40畳、70平方メートルくらいのリビングのようになっている。土間だから日本とは違うが、家族用なのか大きなテーブルとソファセットがあり、奥には暖炉もあった。それからおそらく調理場へと続くだろう扉が1つと、各自の寝室に続くであろう扉が1つか。

 ソファの中央には男爵本人、右手に長男、左手に夫人。長男の右手前に立っているのがハーゲン、夫人の後ろから覗き見ているのが次男だろう。何だろう。呼ばれて来たというのに、煩わしそうというか、こっちが悪いかのような雰囲気を出している。ええーっ、何これ。

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