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逆バンジー

「ほ~い、ほ~い、コォ…、商人よぉ~。

 遂に捕まっちまったなぁ~」


 くそ、完全に囲まれている。エルフ達も、なんで後退を援護してくれなかったんだ。周囲のゾンビの、さらの外側の森に潜んでいるエルフ達の一部に動きがある。きっと救出の為の何かをしているのだろう。そう期待して時間を稼ぐしかないか。こんな時になんだが、ゾンビに囲まれると超臭い。おえ。


「降参で~す、殺さないで下さ~い。

 俺をどうしようって言うんですか~?」


「武器を、コォ…、捨てろ~」


 何か前より声が掠れて聞きづらい気がする。ゾンビ達の後ろにいるからよく見えないが、距離は15メートルといったところか。ゾンビ達との距離はその半分、5~10メートルくらい。


「どうせ殺すっていうなら最後まで抵抗しますよ~。

 どうするつもりか聞かせて下さ~い」


「ふざけやがって!

 お前を、コォ…、生け捕りにしたら、金をくれるって奴がいる。

 引き渡すまでは、生かしてやるぞぉ~、コォ…」


 ミスリルの件か。そんな話とは思ったけど、まあ理由なんてどうでもいい。エルフ達の救出策?はまだか。


「俺を捕まえたいって言うのは誰ですか~」


「んな事は、コォ…、どうでもいいだろ~。

 サッサと武器を捨てろ、ウスノロが~」


 まあ、そうだよね。だいぶ苛立ってるけど、もうちょっと引っ張れないか。


「誰かは聞かせて下さいよぉ~。

 俺の知ってる、恨んでる奴ならどうせ殺されますから~」


「くそっ、このウスノロどもじゃ、コォ…、殺しちまう。

 抱き付けとか、押し倒せって言えばいいか」


 良く聞こえない、もう限界か。そう思った時、耳元で囁くような声が聞こえる。咄嗟に横を向くが誰もいない。


「今から吊り上げるから、しっかり掴まれ」


 くそっ、ビリエルさんかよ。こういう時は、最低でもアンブリットさんにしてくれよ。ヴァルブルガ、ヤスミーンを見ると彼女達にも聞こえたようで、周りを見回している。吊り上げるって、どうするつもりだよ。分からんが、もう少し時間を稼ぐか。


「死体を操ってますが、アナタは魔術師ですか~」


「カカカカッ、コォ…、俺が魔術師か。

 いいな、それ。俺は」


 気になっていた事を聞いてみたが、答えてくれそうなところで上から何かが降って来た。うおっ。ガッチリ胴を掴まれて、一瞬後に俺は空に飛びあがった。俺を掴んでいるのはビリエルさんか。ロープ、蔦か。ビリエルさんはそれに掴まって、森の上へと吊り上げられている。

 ロープは木の先、30メートルはありそうな、に繋がっているのか。野原の反対に木をしならせてから放し、振り戻しを利用してビリエルさんを飛ばし、さらに戻る力を利用して俺を吊り上げたのか。ゾンビの輪の外に出たところで空中に放された俺は、地面に落ちるとゴロゴロと転がる。

 超怖い。やった事ないけど、バンジーより怖い。なんでこんな事ができるんだ。エルフ、怖い。ナンデ、ナンデ、エルフ。こんな事をやろうとしてたのか。周りを見ると、ヴァルとヤスミーンも無事、吊り上げられたようで近くに着地している。


 まだ何が起きたか混乱して頭が回らないでいる俺の耳に、今度は女の声が聞こえて来る。


「遥かなるいと暗き森ダールベックの奥、

 怨嗟の声とすすり泣き絶えぬ永遠の苦痛に苛まれた亡霊バリエンダールと、


 無間の飢餓に喰らい合うおぞましき地虫エーケロートども潜む、

 ふつふつと万病と猛毒の瘴気沸く暗黒の沼グランルンドに住まいし、


 めしいた白い目の老いさらばえた醜く恐ろしき魔女ダグマルイルヴァよ」


 やたらと恐ろしい文句が並ぶが、この声はアンブリットさん。横を見ると、彼女が両手の指を鉤爪のように曲げて、沼に向かって歌うように詠唱している。小男が遠くで何か怒鳴っているようだが、良く聞こえない。

 そしてゾンビ達がこちらに向かって進み始めたところで、アンブリットさんの詠唱が終わったようだ。


「その恨みと憎しみと絶え間なき渇きを持って、

 彷徨いそぞろ歩く愚かなる贄ショルンスバリどもを、


 地の底、暗黒の地ノルドクヴィストへと掴み縛り引き摺り込め」


 するとゾンビ達の足元、森の中の野原が黒い沼に変わった。それはまるでタールのように真っ黒で、変わった瞬間からゾンビ達がゆっくりと沈んでいく。水のように一気に沈み込むわけではないが、こちらへと向かうゾンビ達が足首、ふくらはぎ、膝、腰へと沼へと身体を埋めていった。

 それでも一番こちら側にいたゾンビ達は、沈む前に沼の外へと出そうになっていた。しかし、それらも野原の外の森の中から放たれた無数の矢に射られて、姿勢を崩し、転倒して沼の中へと沈んでいく。探知スキルに小さいながらそれなりに速さで近付く物もあったが、それらもすぐに失速した。

 沈みゆくゾンビ達の上に何かが落ちていくのが見える。鳥や虫のゾンビが、沼から立ちのぼる毒だか酸に侵されて落ちたのだろうか。それでも何とか沼から出たゾンビが俺の前まで辿り着いたが、ヤスミーンの槍を胸に突き立てられるとその一突きで崩れ落ちた。


 どうやら俺のターンのようだな。…俺、見てるだけだけど。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ジョジョ第一部でポコがしたみたいなやり方で救助された訳ね。
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