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森の中の野原

「分かった。

 そのゾンビの群れは村の戦士で退治しよう」


 エルフの村と和解できて出られるとしても、そもそもここに来る原因となったゾンビの群れには別途対処する必要がある。そこで売った恩と引き換えに、ゾンビの群れから助けてくれと頼んだら快く承知してくれた。そもそも前回森に侵入したゾンビは、半分を取り逃がしたものの残りは討伐していた。

 あれからほぼ一週間。俺の予測では、あのゾンビを率いていたらしい小男は、あの不思議な力で俺が森を出る地点を予測してゾンビで包囲しているだろう。あの男の予知は中途半端で、俺がどこに来るかは分かったとしても、その後の俺の行動やエルフの出現は分からないようだった。

 だとすると、森のそんなに深くない場所であればこちらの好きな場所に呼び出してエルフ達にボコってもらう事も出来るハズだ。俺達はエルフの長老や戦士長と相談し、前回の襲撃地点よりはもっとザックス男爵の住む村の近く、森の浅層でさらに見通しの良い木々の(まば)らな野原のような場所に(おび)き出す事にした。




 俺達は昨日話した野原を抜け、街道に出ようとしていた。浅層とはいえ、野原を抜けると木々が生い茂る森の中であり、その陰にゾンビ達がいる事は俺の探知スキルで分かる。ゾンビは多少の損傷をものともしないせいか、耐久力は並みの人間を上回るし、ロッホスやニクラスとの戦いをみれば力も人間以上だろう。

 しかし動作は鈍重であり、その移動速度は並みの人間よりも遅い。俺は気付いていないフリをしながら、探知スキルで隠蔽されたゾンビの位置と自分の位置を計り、十分逃げられる距離を見極めながらその包囲網に入り込んでいった。

 俺は包囲の中心よりも少し手前で足を止めた。これ以上進めば、包囲が閉じようとした時に引き返せない。俺は探知スキルでゾンビ達の動き出しに注意する。動く前に引き返せば、そのまま隠れてしまって野原まで引きつけられないかもしれない。逆に逃げるのが遅れれば、自分の身が危ない。


「ご主人様、どうかしたのか」


 ヴァルブルガが空々しいセリフを言う。このダイコンめ。


「何か潜んでいる気がする。引き返すか」


 すいません、俺もダイコンでした。でも、その一言でヴァルブルガが剣と盾を構えて俺の傍に寄り、ヤスミーンが槍を構えて前に出る。セリフはワザとらしいが、見えなくてもゾンビに囲まれてるのが分かっているので、二人とも本気で構えている。

 すると、俺達を囲むゾンビの集団の一番外側の左右が、俺達の退路を断つべく後ろへと回ろうとする。


「マズイ、下がるぞ」


 そう言って、俺達はゆっくりと後退を始める。すると周囲のゾンビ達の全てが、俺達に向けて移動を開始した。俺はもう完全に後ろを向いて走り出した。ヴァルとヤスミーンも俺の左右について走る。するとまた、あの不気味な声が聞こえて来た。


「ほ~い、ほ~い、商人ようぉ~。

 逃げようとしても無駄だぞ~。


 もうお前の逃げ道は無~い」


 探知スキルに反応するゾンビの中心当たりに、止まっている反応がある。たぶん、それが声の主、あのゾンビ馬に乗った小男だろう。だが、ここで立ち止まるわけにいかない。俺達はその声を無視して走る。しかし、急に高速で近付く敵反応が1つ。

 振り返ると、サギのような鳥が飛んで来る。首が長く、広げた翼は1.5メートルはありそうだ。その羽は茶色と言うかグレーというか、汚い色をしておりさらにボロボロ。首や翼、足も歪に曲がっていて、どうしてそれで飛べているのか不思議なほどだ。


「後ろ、飛んで来るぞ」


 俺の注意に二人も振り返る。その時にはもう2~3メートルまで近づかれていた。その軌道は前後左右にフラついているが、俺に向かって飛んできている。そこでヴァルブルガが俺と鳥の間に入って足を止め、飛行する鳥を盾で受け止める。ゴン、という音がして鳥が地面に落下、そこでヴァルの剣が振り下ろされる。

 俺とヤスミーンは何度か振り返りつつも、足を止めずに走った。ヴァルもすぐに再び体の向きを変えて走り出す。しかし、俺は急に足元に危険を感じて横に飛ぶ。同じタイミングでヤスミーンが転んだ。ヤスミーンを見ると、黒とグレーで森の地面に同化して見づらいが、足に3匹のイタチのような何かが噛みついていた。

 くそ。俺の足元にも4匹はいる。ゾンビ、特に小型は探知しづらい。槍では間合いが広すぎるのだろう、ヤスミーンは短剣を抜いてイタチどもに斬りつける。俺は槍の柄を振ってイタチを追い払う。追いついたヴァルも手伝ってくれた。


 所詮、イタチだ。あっさり振り解いて俺もヴァル、ヤスミーンも走り出す。しかし何度か同じ様な足止めをされて、ゾンビとの距離の計算が狂う。作戦では野原の真ん中に誘き出されたゾンビ達をエルフが囲んで射かける事になっていた。だが野原の真ん中でゾンビに囲まれてるのは俺達だった。

 背後のゾンビの層も厚くなっており、俺達はまるでゾンビの群れのドーナツの中心にいるようだ。俺達が立ち止まったからか、ゾンビ達も一旦そこで足を止めている。そして、あのゾンビ馬に乗った小男がゾンビの群れの中から声を掛けてきた。

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