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角笛

「おっす、人間。戻って来たの。ウケるんだけど」

「それでどんなやらしい事して来たのよ」

「さいてーぇ、アンタなにやってんのよ」


 ウケてくれて何よりです、アンブリットさん。そして他二人は捏造を暴走させないで下さい。迷いの森を出て翌日の日暮れ前には元の村に戻る事ができた。妖精の都に辿り着いてハイエルフの助けを得られた事が知れると、村は喝采で沸き上がった。

 俺に声を掛けて来たアンブリットさんもニコニコだし、長老を始め何人かのエルフには気まずげに礼を言われた。そうして日の入りに例の角笛を吹く事になった。村の中心の広場に幾つもの篝火が焚かれ、村中のエルフが集まる。




 日が沈む時、長老が角笛を吹いた。低い音が村中に響く。すると沈み込む夕日の赤い光の中、村の上に巨大な獣の姿が浮かび上がった。形はテレビか何かで見たバクに似ているようだが、首周りに鬣のような巻き毛が生えており、体にブチ模様が浮かんでいた。

 驚くべきはその大きさだが、その体高はエルフの村の2階建ての山小屋の家の屋根の1.5倍ほど高く、10メートルはありそうだ。そして、その足元はまるで日本の幽霊のように段々と色を消して空気に溶け込んでいる。どうやら物理的な体を持つ獣では無いようだ。

 その獣は現れた後、怒ったように足踏みを始め、足先は無いのに、それでエルフ達がまるで地震にでもあっているかのように体を揺らしたり、何かに掴まったりして悲鳴を上げる。ちなみに俺やヴァルブルガ、ヤスミーンは何ともなかった。


 その衝撃を受けて長老が角笛を吹くのを止めると、獣は足踏みを止め空気に溶けていった。その後、エルフ達は少し話し合い、村の戦士長のような男が角笛を吹く事になった。今度はエルフ達は最初から何かに掴まっていた。

 戦士長が吹き始めると、また獣が現れ、エルフだけが感じる地震が発生したようで、長老よりも長い時間吹いたものの、また途中で止めてしまった。俺達は何ともないのに、エルフ達はぐったりしている。これは上手くいけば、また恩を売るチャンスか。


「あの、俺達人間は何とも無いようなので、俺達が吹いてみましょうか」


 俺がそう言うと、また少し相談した後、エルフの長老は頷いた。俺は角笛を受け取った後、誰が最適か考えた。角笛といえば肺活量だろう。俺はヤスミーンに渡して吹くように命じた。ヤスミーンが吹き始めると、また獣が現れて足を踏み鳴らし、エルフ達が震える。

 今回はエルフ達は最初から座っている。それでも揺れが酷いのか、女子供とあの檻を見に来た3人のエルフの若者は悲鳴を上げている。相変わらず俺達は何ともないので、何とも変な感じだ。エルフの悲鳴が上がっても、俺に命じられるままヤスミーンは角笛を吹き続ける。


 獣は足を踏み鳴らすだけでなく、跳ね上がったり、転がったりし始めて、口や目を大きく開いている。エルフ達は耳を覆ったりしているので、ひょっとしたら大声を出したり吠えたりしているのかもしれない。俺達には何も聞こえないが。

 エルフ達は阿鼻叫喚の様相だが、それでも角笛を吹く続けていると遂に獣は力尽きたように倒れて動かなくなり、空気に溶けるように消えた。これで倒したのだろうか。エルフ達も戸惑っていたが、今夜の夢で妖精の都に行けるかどうかで分かるので、この場はお開きとなった。




 その夜、俺が眠ると、夢の中にアンブリットが現れて手を引かれた。何か話しているようだが、何を言っているか分からない。彼女に引かれるまま付いて行くと、現実感のない変なところ通らされる。海の底のようなところ、雲のうえのようなところ、深い森の中のようなところ。

 しかし、現実のそれと色合いが違い、何でもパステルカラーに彩られ、暗くもなく眩しくもないところを通って行った。そして、それらを通り抜けるとあの妖精の都エインズワースに辿り着いた。だが、昼間に行った都と何か違う。

 そこで俺達は他にもいるエルフ達と歌って踊った。冷静に考えればおかしな事ばかりだが、とにかく俺は夢の中と分かるそんな中で、それらをやり通す。そして最後に俺に近付いて来たアンブリットと、夢の中で、あくまで夢の中で







 パンパンしました。不思議な話だが、夢の中だからしょうがない。夢の中で妖精の都に行けたという事は、たぶんこれで村の問題は解決したのだろう。




 目が覚めてヴァルブルガやヤスミーンに何か夢を見なかったか聞くと、ヤスミーンは俺と同じような夢を見たようだった。もっともヤスミーンの相手はアンブリットではなく、あのエルフの若者3人衆のようで、最後は3人掛かりで鼻息荒く近寄って来たので、ぶん殴ったり蹴ったりして熨したようだ。

 ちなみにヴァルブルガは、夢など見ていませんが何か?という事だった。誰か構ってやれよ。朝になって外に出てみると、村の雰囲気は随分明るくなっていた。それにエルフ達の俺達に向ける視線が柔らかくなっている。

 迷いの森の道案内と違い、大勢の前で角笛を吹いて恩を売った効果もあるのだろう。アンブリットを見つけて夢について聞いてみたが、彼氏面しないでよね、と言葉を濁された。ツンデレ風に赤面してではなく、素の顔だった。ちなみに若者エルフ3人衆は意気消沈していた。

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