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オルフ大森林

 包囲を抜けた俺は、ヴァルブルガ、ヤスミーンを連れて森の中を歩いていた。えっ、走ってじゃないのかって? いや俺、体力ないし。夜の森の中、松明だけで走ったりしたら、転んで大怪我しそうだし。もちろん、ゾンビが追って来るので余裕はない。

 ゾンビの足は遅いが疲労が無いのか歩き続ける。こちらは一時ゾンビを離しても、歩き続ける事は出来ないので、休んでいる内にまた距離を詰められる。寝ている時間なんて無いので、ゾンビとの距離を測りながら休み休みオルフ大森林へと歩き続けた。

 囲みを破る際に探知スキルのエネルギー的な物を使い過ぎたのか、探知範囲が半径100メートルほどしか届かなくなったのも怖い。







 気付くと俺は左右からヴァルブルガ、ヤスミーンに肩を貸されて歩いて、というか引き摺られていた。何でも俺は森の中で急に倒れたそうだ。大した怪我は無かったので、疲労のせいだと思った二人は俺を木に寄りかからせて休んでいたが、ゾンビが近付いて来たので逃げているという。

 まじかーっ。まだ全然窮地だ。探知スキルでゾンビの気配を見ると、100体以上が追って来ている。俺は二人の肩を離して、自分で歩き始めた。俺は一度寝て、気絶したのだが、目を覚ましたので気力は少し回復している。対して二人は疲労困憊だ。

 その歩みはかなり遅くなっており、ゾンビを引き離せないどころかジリジリと詰められてきている。探知スキルも本調子ではないし、特に奇策も無い。もう終わりか。そう思った時、急に探知スキルにこれまで捉えていなかった敵が映る。しかも前方にほぼ横一列に並んでいる。つまり、


「伏せろっ!」


ビュン、ビュン、ビュン


 俺の言葉と同時に3人が伏せる。もっとも二人は伏せたというよりも、力尽きた感があるが。その瞬間俺達の頭上を多数の矢が通り過ぎて行く。それが一射では終わらない。俺達が地に伏せていると、矢の風切り音が続き、さらに前方の藪がガサガサと揺れ何かが近づいて来る。

 探知スキルでは後方のゾンビの数が減って行っている。味方だったら嬉しいが、反応は(てき)だ。そして俺のそばに誰かが立った。そっと見上げると能面の様な顔が松明の明かりに映し出される。おや、耳が尖っている?そう思ったところで、探知スキルに反応する間もなく俺は殴り倒され意識を手放した。







 う~ん、何だか暖かくて柔らかい。体の前と後ろが何か柔らかくて暖かい何かに包まれている。特に俺の胸と背中に、何か丸いフワフワが2つずつ押し付けられている気がする。俺が目を開けると、赤茶けた毛が映る。そしてその毛が動くと下にヤスミーンの顔があった。


「コーチ、気が付きましたか」


「あ、ああ。

 って、えーっ、どうなってんだ」


 ヤスミーンの問いかけに答えた俺だが、自分の身体を見てみると裸でヤスミーンにしがみ付かれていた。ヤスミーンも裸だし、後ろから手を回しているのは裸のヴァルブルガだ。森の中で頭上の木の枝の隙間から()す陽の光は、もう日の出からだいぶ経っているようだ。う~ん、でも変な天井だ。


「おい、人間のオスが起きたようだぞ」


 不穏な言葉に意識が急速に冷め、周りを見回す。俺達、檻に入れられてるのか。檻は木製だが、頑丈な柵で作られている。そして、檻の外には3人の男と3人の女がいる。そいつらは緑を主とした衣服、なんというかフワっとした袖とか、先の尖がった靴とか、絵本の妖精のような物を着ている。


「ど、どういう状況なんだ」


「私達はオルフ大森林のエルフに捕まり、持ち物を全て取られて檻に入れられました。

 気を失ったご主人様の体が冷えている様だったので、私とヤスミーンで温めていました」


「そ、そうか。ありがとう。

 も、もう大丈夫だ」


 焦った俺の問いに後ろに抱き付いたヴァルブルガが、怖い顔、平常運転だが、で淡々と説明してくれた。俺が礼を言って離れるように手振りで示すと、ヴァルブルガは俺から離れてその場で体育座りをして膝を抱き込み顔を伏せる。

 まあ、ヴァルブルガも裸は恥ずかしいだろうから、そういう姿勢を取るのは分かる。俺もその場で周りの様子を窺いながら胡坐を組んで座る。ちなみに手でそっと股間を隠している。横を見ると腕を組んだヤスミーンが堂々と仁王立ちしていた。


「おい、あの人間のメス、何だあの脂肪の山は」

「あんなデブ、弓が引けるのか」

「毛深い?」


 エルフの男達が立ち上がったヤスミーンを見てワイワイ言っている。


「ちょっと失礼ね。

 太ってなんかないわ、ちゃんと見なさい」


「おおっ」


 ヤスミーンが組んだ腕を解いて腰に当て、胸を張ると男達がどよめいた。中学生男子か。


「人間のオスって、もっと大きいって聞いてたけど、

 あんまりエルフと変わらないわね」

「え~っ、デブよ~」

「いっちょ前に手で隠してるけど、きっと小さいのね」


 こっちではエルフ女子が俺を見てワイワイ言っている。きっと人間のイメージがガタイのいい戦士か何かなのだろう。いや、一般人はこんなもんスよ。デブってほどじゃないと思うんだけどな。あと最後、ガン見するな。ちっちゃないわ。

 それにしてもエルフの男達がワイワイ騒がしい。アホか、それ俺んだからあんまり見るな。ヤスミーンもそんなにプルンプルンするな。こんな状況なのにプルンを見ていると俺も。と、そんな時、エルフ女が棒を持って檻の外から俺を突こうとしてきた。


「おい、止めろ、あっ」


 俺は無意識に手で棒を払う。


「きゃーっ、棒が動いてるーっ」

「ちょっと、大きい?」

「ん、ふつう?」


 初エルフ遭遇はもっと穏便に迎えたかった。

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