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何があってもためらっちゃいけない

 ここから西、オルフ大森林に入れば助かる。だが、通り抜けられるのは3人。何故かは分からないが、そんな気がする。ならば他の者はどうする、見捨てるか。いや、敵の目的が俺なら、俺が逃げれば追って来るハズ。俺と逆に逃げれば、運が良ければ助かる可能性もある。


「何があってもためらっちゃいけない」


 神官さんが最後に言った言葉を思い出した。ハッキリ言って何の事だか分からなかったし、この状況で俺がためらう事を予知したモノでも無いだろう。だが、ほとんど詰んでいて、他にやりようが思いつかないなら、もう思い切ってやるしかないだろう。あえて言おう、ええい、ままよ。


「俺はオルフ大森林に逃げる。

 ゾンビ共は俺を追うだろうから、ロッホス達は逆方向に御者達と逃げてくれ。


 ニクラスもクルトを連れて、ロッホスと一緒に行ってくれ。

 可能なら馬車を回収して先にザックス男爵領で待っていて欲しい」


 俺はそう言って財布をニクラスに投げ渡した。オルフ大森林で金は使え無さそうだし、ザックス男爵領はオルフ大森林に一番近い領だから、逃げた後にニクラスと合流できれば問題無いだろう。ニクラスは悔しそうな顔をしている。あれ、ニクラス達を逃がす為に自己犠牲しようとしている様に見えてる?


「ご主人、くっ。どうかご無事で」


「がーはっはっはっ、

 そう言ってくれなきゃ、そろそろ敵に差し出すところだったぜ」


「まあ、僕もそろそろ逃げようとは思っていたケドね」


「レン様、生きてまた会えたら結婚しましょう」


 やっぱり、ニクラスは思った通りっぽいが、ロッホスやクヌートはそんな事を考えていたのか。危なかった。あと、ミリヤムと結婚する気は無いから。


「ヴァルブルガとヤスミーンは俺と来てくれ」


「ご主人様、承知した。これまでのご恩情に感謝を」


「わかったわ、コーチ。貴方(あなた)だけを寂しく逝かせはしない」


 ヴァルブルガとヤスミーンを連れていくのは、別に女の子だからじゃないぞ。ヴァルブルガは俺と一緒にゾンビとの戦闘をしていないので、これからの逃走に体力を残しているだろうからで、ヤスミーンは徒競走の選手だったので他より持久力があると思ったからだ。


「俺は生きるのを諦めてはいないぞ」


「もちろんだ。一命に掛けてもお守りする」


「ええ、私も貴方の盾になる覚悟はできているわ」


 心中しようとしていると誤解されている様だったので、違うよと二人に声を掛けたが無駄な様だ。


「がーはっはっはっ、じゃあ行くぜ」


「「「おう!」」」


 ロッホスの締めの言葉で全員走り出した。アレ、その掛け声って俺の役じゃね?ま、まあ、いいか。俺は視界と探知スキルの両方を意識して、僅かなムラの隙間を通ってゾンビの直近の囲みをすり抜ける。とはいえ、その先にもゾンビの囲みはあるのだが。


「ほ~い、ほ~い、商人ようぉ~。

 逃げようとしても無駄だぞ~。


 俺はお前を捕まえる道に、もう辿り着いているんだ~」


 森の中からあの幽霊の様な声が聞こえる。走りながらそちらを見ると、森の奥に痩せこけた馬のような何かに乗った小男がいた。その小男は見た事ない男、というよりも目だけ大きく皺くちゃの顔をした凄く不気味な奴だった。何だか半ミイラというか、本当に生きているのか自信がない。

 あの幽霊のような小男の言う通り、ゾンビに囲まれていてほとんど脱出不可能に見える。だが探知スキルでよく見ると、ゾンビは一塊のように見えて9つの群れに分かれている。そしてその群れと群れの間には僅かな隙間があり、そこが俺が生き残る最後の逃走経路だ。

 直近の1つ目の群れの端を通り過ぎ、2つ目と3つ目の群れの隙間を通り過ぎる。


「タラ、ディアッ!タラディアーッ!(戦神タランディンよ、照覧あれ)」


 叫ぶヴァルブルガ。俺の指示通りの方向に先頭を進み、時に左腕の前腕に固定された小型の丸盾や右手の小剣でゾンビを押し返す。俺の後ろからヤスミーンが走っているが、彼女が通り過ぎるとすぐにその隙間がゾンビで埋まった。


 そして、4つ目と5つ目の群れの間を通り過ぎた頃、3度目の幽霊小男の声がした。


「おい、商人。

 何をやってるだ~。


 お前の道は既に切れているのに、

 何でまだ進んでるんだ~」


 アイツのスキルでは俺の道は既に閉じているらしいが、俺の探知スキルにはまだ僅かな道が示されている。


「アンタと、俺のスキルはとても似ている。何かを知るという点で。

 アンタがくれたヒントと、死ぬほどまでに追いつめてくれたおかげで、

 ほんのちょっぽり、成長できたようなんだ」


 俺達は6つ目、7つ目の群れの間を通り過ぎる。


「どういうことだ、

 な、なめてんじゃあねえぞ」


 俺達が8つ目と9つ目の群れの間を通り過ぎようとした時、ゾンビ馬に乗った小男が自分の肋骨に噛み付いていたカボチャを投げる。だが、その直前、俺は警告していた。


「ヴァル、ヤスミーン、頭を下げろ」


 闇の中を飛ぶカボチャは誰にも見えなかったが、山羊の様に縦に開いた瞳の2つの目玉を剥き出し、その開いた口の中にサメの様な牙が生えていた。だがそれはヤスミーン、レン、そしてヴァルブルガの頭上を通り過ぎ、その先の太い幹にぶつかって割れた。


「うおぉぉぉん、よけられるハズが、分かるはずが、

 通り抜けられるハズが、絶対にねぇ~」


「俺達は、すでにお前の包囲網の中を通り抜けている!

 そう、ご存知、探知スキルだ」


 俺達はゾンビの包囲網を抜けて、オルフ大森林へと走っていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ここまで一般商業のネームを丸ごと使っていて出版して商業化するのは駄目でしょ、プロの作品として作ってるつもりならこういうことは二度としないでほしい
[一言] ジョジョ、好きっすね。
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