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団子

 実はクルトを出すのはちょっと怖かった。ロッホスは分厚い金属鎧を着ているが、クルトは革鎧を着ているとはいえ布や肌が露出している部分も多い。地球の映画の、ゾンビに噛まれたらゾンビになる、という法則が成り立つとクルトがゾンビ化しないか心配だ。

 だがもう、そうも言っていられない状況なので、後ろの馬車まで行ってクルトにゾンビを薙ぎ払う様に指示を出す。クルトは一番近いところで棍棒を振り、その一振りで5体は吹っ飛んだ。ロッホスは上手くクルトと被らないところに陣取り、馬車に取り付いたゾンビを引き剥がしている。

 やはりというか、馬車を追うゾンビよりもクルトやロッホスに群がるゾンビの方が多い。ロッホスは上手く鎧で防いでいるのだろうが、クルトの方は明らかにガブガブ噛まれて血を流している。それでクルトがゾンビ化しないのが、唯一の救いか。


 馬車がゾンビの一団から十分離れたところでニクラス達も降りてくる。ニクラス達はクルト、ロッホス達を取り囲むゾンビに、距離を取りながらも外側から槍で攻撃し始めた。俺とヴァルブルガが10メートルは離れて見ていると、外側のゾンビが1体、また1体と倒れていく。

 とはいえ、クルトとロッホスを取り囲むゾンビの層は、一団の後方にいたゾンビが加わって段々厚くなっていく。考えたくは無いが2人が倒れれば、次は順次取り囲まれて殺されるかもしれない。そんな事を考えていると、ふらりと歩いて来た神官がゾンビ団子に近付いて行く。

 神官が、槍でゾンビを突いているニクラスやヤスミーンの間を通ってゾンビに近付こうとすると、ヤスミーンは戸惑い、ニクラスが制止する。しかし、それでもどんどん近付いていって。


「たとえ季節を変える力があっても誰がやろうとする?

 この状況が私の直感を苛立たせる。

 私を狂わせ、心は怒りに燃える。

 死者は生き返らない、それが全てだ」


 どん


 大きな破裂音、自転車や車のタイヤのパンクの音のようだが、その何倍も何十倍も大きな音がした。それと同時にクルトとロッホスを取り囲むゾンビ達のうち、10体前後が弾けて灰に変わった。






 30体近くいた時は、なかなか数を減らせなかったゾンビだが、20体以下になると急速に殲滅速度が上がって日が暮れるまでに倒す事ができた。まあ、倒れていなかっただけで、最初の矢等も含めてダメージ自体は累積していたのだろうが。

 馬車で村から逃げようとした少女は、街道にいたゾンビを見た事と、そのゾンビが倒された事で村に戻る事にしたようだ。また、神官は村から逃げ出そうとしている少女を見掛けて、連れ戻しに来ただけのようで、少女と一緒に村に戻るという。ちなみに神官さんは、ゾンビの爆破は1回しかしてくれなかった。


「ええと、村でお化けになった人達は4人くらいだったと思います。

 それと鶏の骨も無くなっていたとか誰かが言っていて、それにキャベツも」


 村の被害を少女に聞いたところ、そんな答えが返って来た。4人の遺体はゾンビ達に混じっていたかもしれないが、少女に見せるのもなんだし、街道に転がるゾンビを見た神官さんは村の人間が混じっているかは分からないと言っていた。

 鳥はゾンビ化されて森に潜んでいたのかもしれないし、関係ないかもしれない。キャベツは絶対別件だろう。まあ、ゾンビがどこから来たか調べるのは俺達の仕事じゃないだろう。ゾンビの残骸は街道から避けた方がいいかもしれないが、日も暮れそうでみんな疲れていたので放置する事にした。

 きっと、森に()む掃除屋たちが何とかするだろう。


「私からのメッセージを聞いてほしい。

 君の知らないことを今伝えよう。

 何があってもためらっちゃいけない」


 最後に神官さんが、忠告なのか電波なのか分からない事を言って別れた。俺達は村で一泊する事も考えたが止めた。村が街道から意外と遠く、もともとあまり広くない辺境の街道よりも村への支道がさらに狭く、3台の馬車を乗り入れようとすると結構手間が掛かりそうだったからだ。

 ちなみに俺とヴァルブルガ以外は全員疲労困憊で、肩や指が動かないだの、全身の筋肉がパンパンだのと言っていたが、ゾンビに噛まれたり怪我を負ったのはクルトだけだった。そして当のクルトは全身引掻き傷や噛み傷が付いていたが、気にする風もなくヴァルの手当てを受けていた。




 それからゾンビと戦った現場から1キロメートルほど離れた街道脇に広場を見つけ、そこで野営を始めた。野営地を見つけた時は既に日が暮れ始めていたが、普段薪拾いの主戦力だった面々には休んでもらって、俺とヴァルブルガと御者ズで野営の準備をした。


「あっ、ああっ、いい、いいわぅ、レンさまぁ~、あっ」


「あの、無理にえっちぃ声を出すの止めてもらっていいですか。

 結構よゆうありますよね」


 今、俺は1巡目の夜番をしている。起きているのは御者の一人と、俺、ヴァルブルガ、ミリヤムさんだ。ミリヤムさんはゾンビ戦で頑張ってもらったので、今回は寝てもらおうと言ったのだが断られた。戦闘があったからと言って、夜番をサボって隙を作るのは違うと言われた。プロだ。

 で、俺は少しでも疲れをとってもらいたいと思って、弓で酷使した腕のマッサージを申し出たのだが、マッサージをしていただけであの声を出されたのだ。いや、俺の俺が声だけで元気になってしまう。くそ、俺はどうすればいいのだ。

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