表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/234

定員オーバー

 街道横に立っている子供は村の少女か。もう一人は村人というよりは、白い祭服の神官のような格好だ。村からも結構離れていそうだが、何でこんなところにいるんだ。


「おい、化け物が来るぞーっ。

 逃げろーっ」


 俺の横でロッホスが大声を出す。ちょっと耳が痛い。二人は、ロッホスの指す最後尾の馬車を見てギョッとしたようだ。うーん、荷馬車って意外と遅いから、わざわざ止めて二人を乗せるよりも自分で全力で走った方が速いんだよな。

 もう二人は真ん中の馬車の横まで来ている。二人が来ているというよりも、こちらが進んでいるんだが。さっさと逃げればいいのに、二人は立ち止まっている。だからと言って彼らの為に、俺達の中から死傷者を出す覚悟で馬車を止めてゾンビと戦うという義理も無い。


「悪いなボス」


 俺がそんな事を考えていると、突然ロッホスが馬車を飛び降りた。


「ボサっとすんな。

 さっさと逃げろつったろ」


 そう言って彼は少女を両脇を持って持ち上げると、荷馬車に彼女を乗せる。


「死したる者に二度目の生はない。

 あってはならない事だ」


「アンタもさっさと乗れ」


 神官がブツブツ言っていると、ロッホスがその腕を引っ張って走らせる。そうして真ん中の馬車まで追いつくと、神官を荷台に乗り上げさせた。


「ちっ、定員オーバーか

 ボス、俺はあっちに乗ってるわ。

 がーはっはっはっ」


 ロッホスは荷台に4人が乗っているのを見ると、一番前の馬車へ走って行く。この馬車は今、俺とヴァルブルガ、少女、神官が乗っており、そこに重い鎧を着た大柄なロッホスが乗るのは重量オーバーだろう。先頭の馬車はクルトとロッホスの重量級ばかりとはいえ、2人ならなんとかなるだろう。

 ロッホスが、勝手に村人を護衛対象(オレ)と同じ馬車に乗せたのはどうかと思わないでもない。ただ、後ろの馬車の邪魔にはならなかったし、俺の探知スキルに敵意の映らない相手だから黙認することにする。まあ、後ろはニクラスに任せて、俺は神官たちから何故あんなところにいたか聞く事にしよう。


「あの、村のお墓から死んだ人達が起き上がって、

 森に入っていったんです。


 私、また死んだ人達が戻って来るんじゃないかって怖くて。

 だから村を出たくて、行商が来るのを待っていたんです」


「異教徒を喜ばせるような事をしてはいけない。

 人類は団結して邪悪と立ち向かうのが使命」


 ゾンビの確保をこの震えている少女の村でしたのか。ちなみに村まで結構離れているように見えるが、村から街道を覗ける所があるらしく、そこから馬車を見て急いでこっちに来たらしい。あと神官の話はちょっと迂遠で分かり辛い。


「馬車を全力で走らせていない様だが、何故だね」


 話に一段落したと思ったのか、逆に神官が質問を投げかけてきた。仕方が無いので作戦を説明してやると、神官は街道の先を見つめてこう言いやがった。


「この先で街道は蛇行している。

 スピードを維持するのは難しいだろう」


 ふあっ、それってマズいじゃん。俺が前の馬車を見ると蛇行する街道に合わせて曲がり、そのせいでスピードが落ちて近づいて来る。こちらの馬車も速度を落とすのだが、そのせいで最後尾の馬車も速度を落とさざるをえない。

 逆に後ろの馬車を見ると、ゾンビとの距離が詰まり始める。また前を見るが、しばらく道が蛇行していて速度が出せそうもない。これまでの街道でもそういう道はたまにあったが、今度のは嫌がらせの様に長そうだ。辺境に行くほど人通りも減るから、こういう道も残っているのか。マズいぞ。

 馬車が普段よりも揺れるので、落ちないように荷台にしっかり掴まりながら後ろを見ていると、ゾンビと後ろの馬車の距離が縮んでいく。ニクラス達も弓を置いて再び槍に持ち替え、近付いて来たゾンビの頭に槍を振り下ろし始めた。


「ねぇ、だいじょうぶなの。

 ひょっとして私達も食べられちゃう?」


「大丈夫じゃないかも」


「ひっ」


 少女が聞いてきたので、俺は後ろを見ながら正直に答えた。ニクラス達はしばらくは上手く凌いでいたが、追い着いて来たゾンビが馬車の後ろだけでなく横にも広がり始め、全員で取り付かれるのを防ぎ始める。ここらで限界か。そう思っていると、前の馬車からロッホスが飛び降りて後ろの馬車へと向かう。


「ボス、あのデカい奴も出してくれ」


 俺達の横を通り過ぎ際にロッホスがそう言っていった。俺は横のヴァルブルガに降りるぞと目で合図して、馬車から降りる。俺達が降りても馬車は走り続ける。取り囲まれたら馬車があってもあまり時間稼ぎにならないし、御者には走り続けてゾンビが見えないところで待っててくれと言ってある。


「クルトぉ、降りて、ついて来い。」


「ブモォ? ブモォ」


 俺は前の馬車まで走ると、クルトに手振りも交えて呼び掛ける。ちょっと時間は掛かったが、クルトも呼び掛けに応じて降りて来た。手にはちゃんと金属補強された棍棒を持っている。電柱の様な太さ、というと言い過ぎだが野球バットの何倍も太い。


 さて、ここで総力戦か。何とかなると信じたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ