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村の空き家で

「うん、それほど埃も積もっていないし、空き家にしては綺麗な物だよ。

 たぶん10日か2週間前には誰かがここに泊ったんだと思う」


 しばらくして、空き家からクヌート少年が出てきてそう告げた。これはそれ以外の異常、つまり旅人を襲う強盗や罠などもないと言う事だ。俺も空き家に入ってみたが、内壁の無い屋根が付いただけの木箱の様で、それでも10畳くらいはありそうだった。

 屋根があるとはいえ、ほぼ野営と同じ装備を空き家に持ち込んで休息の準備をする。それから食料は十分にあるが、村人と変なすれ違いで悪感情を持たれないよう、干しブドウの麻袋をクルトに持たせて穀物や野菜などの現物との交換の名目で、多少の交流を持っておこうと腰を上げる。

 それとは別にクヌートに先程騒いでいた男から話を聞いて来るように頼んだ。これには『疾風迅雷』の面々も気になっていたようで、否やも無く了承された。これで馬車の周りには御者とロッホス、ミリヤムが残る事になる。





 俺達が村人の何人かと話して干しブドウと食料を交換して空き家に帰って来ると、クヌートも帰って来ていた。俺も村人達に死んだのに歩いていたというマクダ婆さんについて軽く聞いてみたが、途端に不機嫌になるので聞くのを止めた。そりゃ、村の変な噂は立てられたくないだろう。

 クヌートが集めた情報に期待して、話は空き家でみんなで聞く事にした。みんなとはいえ従者組とクルトには外で見張ってもらう。馬車の荷物も大事だが、村人が嫌がる話を俺達がしていたと知られたくないからだ。


「それでクヌート…」


「それで面白い話は聞けたのか。ガッハッハッ」


 俺がクヌートに聞こうとすると、ロッホスに被せられた。ぐぬぬ。


「さあね。結局見たのはあのおっさん一人だけ。

 おっさん自身、何で夜中に外にいたのか分からないけど、他に見た人はいないみたい」


 まあ普通、こんな電灯も無い真っ暗な村で夜中に歩いたりしないだろう。そういう意味でも彼の話の信憑性は低いか。クヌートが聞いた話では、事件があったのは昨日。死んだはずの老婆は、村を出て森の中へと入っていたという。

 夜中ランタンに照らされた老婆は枯れ木の様にやせ細って皺くちゃで、服もボロボロ、とても生きている様には見えなかったという。老婆の入った森というのは、街道から見てオイゲンの方なので、そこは多少気にならないでもない。

 それでも他に気付いた事や、変わった物は見なかったらしい。死んだ老婆が出て行ったのなら、墓からは死体が消えているかというと、昨日の事でその確認まで至っていないらしい。そもそも他の村人は信じていないので、墓荒らしなんか許さないだろう。


 死んでいるハズの犬が動いているのを見た俺達からすれば関連が気になるところだが、何か切羽詰まった理由があるわけでもないし、あまり村人の反感も買いたくないのでこれ以上首を突っ込むのは止めるべきだろう。

 微妙な気分のままとはいえ、俺達はこれ以上首を突っ込まない事を確認してその場をお開きにした。ふと、みんなの顔を見回すと、『疾風迅雷』とニクラス、ヤスミーンはすっかり気にしていないようで、ヴァルブルガだけが青い顔をしている。いや、目付きが鋭いからこっちが怖いんだが。

 今夜の荷馬車の番には俺も加わって、俺とヴァルブルガの1組目、ヤスミーンの2組目、ニクラスの3組目とした。これはいつもの野営と同じ順で『疾風迅雷(テンペスト)』と御者組もそれぞれに1人づつ出して毎回3~4人で夜の荷物番をしている。


 荷馬車の前に火を焚いて、村で交換した野菜と馬車に積んでいた干し肉等を適当にぶち込んだスープを作り、固いパンをスープでふやかしながらみんなで夕食を済ませる。それから1組目の俺達を残してそれぞれ空き家に寝に入った。




「ご主人様、老婆の死体が動いたなんて本当だろうか」


「分からん。見間違いや、単に嘘をついている可能性もあるし」


 俺とヴァルが焚火の前に座っていると、『疾風迅雷』のミリヤムが近付いて来た。


「なんだい、お嬢ちゃんは怖いのかい。

 だったらレン様の護衛は私に任せて、小屋で毛布に包まっていてもいいんだよ。


 ねえ、レン様。私とお話ししましょうよ」


 ミリヤムはヴァルを見下した風な顔を向けた後、俺の方には目をパチパチしながら満面の笑顔を向ける。きっと可愛い顔を作っているつもりなのだろうが、黒服でとんがった雰囲気の20代半ばの女性には似合わない。気持ち胸元を広げているが、元々露出が極少ないのでそれでもほとんど中は見えない。


「ミリヤム殿、心配は無用だ。

 ご主人様の護衛は私の仕事、もし死人が襲って来てもこの身を盾にして守ってみせる」


 ヴァルは若干顔色が悪いが、ハッキリと断る。内容が倒すではなく、守りなのが微妙に後ろ向きだが。


「ミリヤムさん、お気持ちは嬉しいですが護衛は彼女の仕事なので、一緒によろしくお願いしますよ。

 あと、近いです。当たってマス」


 俺の目の前で屈みこんでいたミリヤムが俺の隣に座るが、腰を下ろす時にちょっと押し退けるように尻同士がぶつかる。メッチャ笑顔なのでイタズラのつもりでワザとやったのだろう。そして、お約束のように胸が俺の肘に当てられている。う~ん、ヴァルより若干薄いか。

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