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干しブドウ

 朝6時から市場を回って、7時には干し虫を売り切った。その後、空いた荷馬車のアントナイトの隙間に積むために干しブドウを買い、念のため自分達で食べる用の食料も買い足しておいた。街道を行くとは言え、辺境なのでいつもでも食料が手に入るとは限らないからだ。

 これから向かうザックス男爵領はあまり土地の良くない辺境なので、あらゆる物が不足している。特に耕作可能な土地では主食となる穀物を優先して栽培しているので、逆に手に入りづらい果物は高値で売れると期待できる。この干しブドウ300キログラム、金貨二枚と銀貨四十枚(二十四万円)がいくらに化けるか楽しみだ。


 そんなこんなで朝10時ぐらいまでに準備を整えた俺達は、王都を出発してザックス男爵領を目指す。予定では到着まであと13日、男爵領はオルフ大森林前の言うなればカウマンス王国のどん詰まりの辺境があるので、南の商人街道のような舗装された道は無い。

 街道上の街と言えば6日後に到着する予定のエスレーベン子爵が統治するオイゲンくらいで、他は村規模だけだ。距離的にペルレよりは俺がこの世界で最初に立ち寄った街に近いが、あちらはまだゴルドベルガー伯爵領やその先のラウエンシュタイン王国があるので、今回の方が田舎になるだろう。




 王都を出て3日目の夕方、俺達は街道近くに見えた村に立ち寄った。これまでも少し街道を外れれば村があったのだろうが、遠回りになるので立ち寄ってはいない。なのでここまでは空き地を見付けて野営となり、ゴブリンや狼が寄って来る事もあったが、雇った冒険者パーティ『疾風迅雷(テンペスト)』が追い払ったので特に被害も無かった。

 街道は丘の上を通っているのでそこより低い村を見渡せたが、十軒ほどの家屋が街道側に寄っており、逆に街道とは反対側に畑が広がり、そちらにもポツポツと家屋が見えた。そこで丘を下って行くと、家屋が集まっている辺り、村の中心と思われる井戸の付近に村人が集まっていた。

 こちらが丘を降りるのが見えたのか、村人達もこちらに注目しだす。ゆっくりと近付いて行くと、村人のうち一人が前へと出て来た。


「行商人かね」


「ええ。オイゲンに向かっているのですが、こちらの村で泊めてもらえないかと思いまして。」


「ここでも商売はするのかね」


「干しブドウでしたらお分け出来ますよ」


「あの荷物が全部干しブドウなのか」


「いえ、ほとんどはオイゲンの向こう。ザックス男爵様の荷物です」


 正確にはまだザックス男爵の物では無いが、貴族の持ち物と言っておけば下手に手出しはしないだろう。まあ盗賊が聞いていれば、逆に高価だと思って張り切って襲って来るかもしれないが。それを聞いた村人はブルリと身体を震わせた。


「歓迎は出来ないがここに泊まりたいなら、そこの空き家を使うといい。

 旅人はいつもそこを使うんだ。あまり村の中程には入って来ないでくれ」


「そうします。

 村の井戸を使っても良いでしょうか」


「ああ、他の者が使ってない時で、1泊分の食事や洗濯に使うくらいなら持って行っていい」


「ありがとうございます。助かります」


 村で一番街道近く、言い換えれば村の一番外側の家屋を示されたので、俺は礼を言った。街道を使う事を考えれば一番いい立地だが、逆に普段の村の生活が畑が中心であり街道を向いていないなら、空き家になっているのも不思議はないか。

 俺達の対応を村人の一人が始めたせいか、それとも俺達の積み荷に興味を失ったせいか、村人達は互いに顔を見合わせて元の会話に戻っていく。そして、そんな聞こえてくる会話の中に、耳を疑う内容があった。


「本当だって、マクダ婆さんが夜の森を歩いてたんだよ」


「いい加減にしろよ、あの婆さんは3か月前に死んだだろう。

 死人が生き返ったとでも言おうとしてるのか」


「言おうとしてるんじゃない、言ってるんだ。

 死人が生き返ったんだよ」


 俺がそちらを見ると、村の男二人がそんな話をしていた。一人が自分の話を信じてもらおうと必死に訴え、もう一人が全く信じる事なく適当にあしらおうとしているようだ。周囲の村人もそれを見て眉をしかめ、隣ヴァルブルガを始めとして俺の奴隷達や『疾風迅雷』や御者達もそれに気づいて視線を向けている。


「ああ、気にしないでくれ。あいつはきっと酔っ払ってたんだ」


 俺達の視線に気づいたらしい空き家を教えてくれた男が、何でも無いというように遮ろうとする。普通なら酔っ払いの戯言と気にしないだろうが、死んだはずの犬が動いているのを見た俺達にはかなり気になる話となる。

 しかし村側にしてみればおかしな噂を立てられて、たまにしか来ないであろう行商人に避けられたり、ここを治める貴族に兵隊を連れて調査に来られて、余計なトラブルを起こされたくは無いだろう。外の人間に変な話を聞かせたくは無いのも当然だろう。


「ああ、いいえ。気にしてませんよ。

 とにかく、あの空き家はお借りします」


 とりあえず村人との話は打ち切って、荷馬車を空き家に寄せるよう指示を出す。3台の馬車を空き家を取り囲む様に止めている間に、『疾風迅雷』のクヌート少年が空き家の中を調べに入るのだった。

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