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短パンはいいものだ

 俺はヴィルマーさんにブリギッテさんの愚痴を吐き出した。さすがに彼に言うのはお門違いだが、他に言う相手がいなかったのでついつい愚痴が長くなってしまった。エールに酔って、つい口が緩んだせいかもしれない。しかし、その間ヴィルマーさんは黙って俺の話を聞く。

 そして俺の話が終わった所で彼は口を開いた。


「俺の知り合いに皮革製品を扱う店がある」


 そこの店主はヴィルマーさんと同じ世代で、3人の息子がいるという。店主とその上の息子二人は職人とギリギリの銅貨一枚まで負けさせるような粘り強い交渉で儲けるのを良しとする気質だそうだ。しかし下の弟は争いが苦手で、交渉後の契約書作りとか経理処理なんかをやっている。

 上二人の息子は弟を気概の無い奴だと見下し、店主も商売のスタイルが兄達と同じなので彼らをうまく止められずヴィルマーさんに相談して来たらしい。ヴィルマーさんはその弟をその商店から出した方がいいと思っているというのだ。

 ヴィルマーさんはブリギッテには営業をさせて、俺が期待していたバックヤード業務はその三男、ベルントに任せてみてはどうだと言う。ナンバースリー、といっても他に商会従業員はレオナしかいないが、の採用は俺も考えていたし、そのベルントさんが使えるなら雇ってもいいだろう。


 結局、ザックス男爵領からの帰りにまた王都に立ち寄って、ベルントを紹介してもらう事になった。今回は明日には王都を立ってさっさとザックス男爵領まで行って用事を済ませたいので、あまりゆっくりはできないのだ。

 その夜はお土産がてらにペルレで銀貨数枚分だけ買って来たシルキースパイダーの糸、重さの割に高価な上、買い手が決まっているせいで市場には出にくい、を市場価格で譲渡し、その後ヴァルがブドウ入りのパンプティングを全部食べた後に解散となった。




 さて、宿の部屋に戻った俺達だが、部屋の中ではベッドの上でヤスミーンがその長い足を組んで座っている。彼女は袖なしのシャツだけを着て、紐で腰に結んだ短パンの様な物を穿いている。彼女の着ている物は現代日本ほどの露出度は無いが、どちらもこの世界では下着に当たる。

 これから事に及ぶわけだが、彼女はその為にこの格好でいるわけではない。マニンガー公国で全裸で徒競走のチャンピオンをしていたヤスミーンは、護衛として昼間着ている厚手のシャツやズボンが体の動きを阻害するとして好きではないらしい。

 そこで彼女は、いつも宿の部屋等に入ると下着以外は脱いでしまうのだ。全く、困ったものだ。短パンの様に見えてもアレは下着なので、その下には何も穿いていない。つまり短パンの隙間から見えるのは、ゴホン、ゴホン。つまり、そんな恰好でベッドに乗られると俺が元気になってしまう。


「コーチ、私を好きにして」


 少し前にヤスミーンが俺を間違ってコーチと呼んだのがきっかけで、以降そう呼んでもらう事にした。小学生が先生を間違っておかあさんと呼んでしまうようなものだろう。なんか、呼び方を変えただけで新手のプレイのようにも思えるから不思議だ。




 俺は翌朝6時頃から、虫の干物の入った麻袋をクルトに担がせ、ヴァルとヤスミーン、ニクラスを連れて市場を回った。市場での売値は麻袋1袋、50キログラムでおよそ銀貨10~17枚。ただし、銀貨10枚の物は色が黒く変色していて、見る者が見れば古びて劣化しているのが分かる。

 では、銀貨17枚の店の物が特別高品質かと言うと、俺の目にはそこまでの違いがあるようには見えない。これらはペルレ大迷宮の浅い層で低級の冒険者が集める事が多いが、普通に野外で集める事も出来るので、ボッタクリでなければ経費の掛かるルートで仕入れたのかもしれない。

 この虫の干物は、大抵が形も大きさも地球のバッタに近い物だが、麻の袋には干からびた甲虫も入っており、虫なら何でもブレンドされている。ペルレでも拳大くらいのやや大きな虫の串焼きを見たが、この土地では虫が安価なタンパク源として屋台のスープの具や野菜炒めに混じって食べられている。


「麻袋1つで銀貨10枚なら買いますよ」


 俺はざっと市場を見て回った後、ある店舗の主人に声を掛けた。クルトに麻袋を下ろさせて、口を開いて現物をそこの主人に見せるとそう言われた。だが、それではペルレの仕入れ値なので、利益は0だ。


「いやいや、ほんの3日前にペルレで仕入れた新物なんだ。取ってから半年も経ったカビの生えた物と一緒にしないでくれよ。銀貨20枚」


「そうは言ってもこれから冬になる前に、豚を締めてハムを作る時期だから、虫なんか買う人間はあまりいないんだ。銀貨11枚」


「ハムを作り始めても、食べるのはもっと先だろ。だいたい王都には豚なんか食べれない人間も多いんだ。虫はそんな正直者の強い味方さ。銀貨18枚」


「うちでも在庫はダブついててね。銀貨12枚」


「市場を見て回ってけど、古くなった物が多いね。そんなんじゃ、風味も落ちて露店でも悪い評判が立ちそうだ。銀貨16枚」


「うーん、あんたペルレから来たのか。私も昔ペルレで商売をしていてね。そのよしみだよ、銀貨13枚」


 結局、俺は銀貨80枚でその男に麻袋6袋分の虫の干物を売った。粗利はたったの銀貨20枚(2万円)だが、まあアントナイトの隙間を空のまま運ぶより良かったと考えるか。やれやれ。

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