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倉庫はいっぱい

 ペルレを出て3日、盗賊や謎の犬と遭遇した翌日の夕方に俺達は王都に到着した。


「王都の近くに盗賊なんて、ほとんど出る事は無いんだがなぁ」


「俺らは盗賊なんかじゃないぜ。コイツらに攫われたんだ」


 逃げ遅れた盗賊のうち、自分で歩ける者3人の手を縛って連れて来て、王都の兵士に引き渡したが、その時に盗賊達が騒ぎ出す。まあ、ここで捕まれば一生鉱山で使い潰されるのだから、最後のチャンスとも言えるので当然か。


「私はペルレのトルクヴァル商会のレン。王都では布問屋のヴィルマーさんと懇意にしており、食品卸大手のヴァルヒ商会、金属卸大手のダーミッシュ商会とはペルレで共同の採掘クランを運営しております。

 このゴロツキ共に街道で襲われた事は、私が保証します」


「出鱈目だーっ」


「まあ、商人さんを信じるよ。

 実際のところ、鉱山で働く奴隷はいつも不足気味だから、国家の為になるしな」


 こういう場合、日本の様に警察による事実確認は行われない。互いの主張を聞いて、大抵は身分や身元がハッキリしている等の信用のある方の主張が認められる。逆に真実が逆でも、信用の無い側が主張を認めさせるのは至難の業である。

 彼らが攫われたと信用のある人間からの訴えがない限り、兵士にしてもゴロツキの人生なんかに興味が無いので、僅かな可能性を確認する為にわざわざ時間を掛けて調査をするよりも、いつものルーチンワークで右から左に処理をして時短を図る。

 そこで騒ぐゴロツキ達は無視され、俺は僅かな状況証言だけで証書を貰って解放される。ちなみにこの証書を後日兵士の詰め所に持って行けば、鉱山奴隷となった彼らの売値の半額が盗賊捕縛の報酬として貰える。




 城門で盗賊を兵士に引き渡した後、俺達はいつもの“王都の出口亭”の前に馬車を着けた。


「ロミーちゃん、部屋と荷馬車の倉庫は空いてるかい」


「あ、レンさん。お久しブリブリでぇす。

 馬車は一台ですよね、部屋も空いてますよぉ」


 ブリブリが、うぜぇ。宿のカウンターで応対したのは明るい茶色の髪を両肩の所で結んだ16歳、普段は給仕をしているちょっと可愛い系の元気娘だ。まあこの雑になった口調も、最初に1ヶ月泊って、ここに泊まるのも3回目だから、親密レベルが上がっているせいかもしれない。


「いや、今回は馬車は3台なんだ。部屋は2人部屋を3つで」


 部屋割は俺、ヴァルブルガ、ヤスミーンで1部屋、疾風迅雷(テンペスト)で1部屋、御者達で1部屋のつもりだ。疾風迅雷と御者は1人ずつ馬車の夜番してもらうので、2人部屋でいいだろう。クルトは申し訳ないが、体重過多で板床の上には上がれないのでいつも馬小屋に泊ってもらっている。

 ニクラスは奴隷だが、奴隷でない妻子が王都で暮らしているので今日もそこに泊る予定だ。そしてヴァルは護衛として同じ部屋に泊るし、ヤスミーンは同じベッドで寝る予定なので、2人部屋3つで間に合う。


「えっ、先月来た時は1台だったのに、もう3台に増やしたんですか」


「ああ、今回は貴族が相手だってウチの新しい副会長が奮発したんだ」


「従業員が増えたんですね、おめでとうございます!

 でも困ったわ。馬車は1台分しか空いて無いのよね」


 どうやら宿の倉庫は埋まっているらしい。仕方なく俺は市場近くの空き地を探し、そこに泊める事にした。当然、空き地に泊めるからと言って城壁の中はタダではなく、広場を管理する商人組合に場所代を払う事になる。

 宿から離れた空き地に馬車を泊める事には、夜番をする疾風迅雷や御者達に不平を言われたが、これに一々穴埋め的な報酬を与えていてはキリがないので黙殺した。まあ、馬車を面倒なところに置いて、自分は女二人と同室というのは面白くないだろう。

 うち一人とは体の関係があるので、あながち言いがかりとも言えないが、街道で野営している時には遠慮しているのだから、街中くらい許して欲しい。その日の夕食は、街での1食分の食費を支給してどこで食べるかは各自に任せた。




 馬車を置いて来ると、もう日が暮れてしまった。街中は街道よりも治安がいいので、疾風迅雷には馬車の夜番だけお願いし、俺はヴァル、クルト、ヤスミーンを連れてヴィルマーさんを訪ねた。もう店は閉めているだろうが、夕食がまだなら誘って話が出来るかもしれない。

 俺が店の戸を叩くと、不機嫌そうな顔のヴィルマーさんが出て来てジロリと睨む。


「レンか。もう店は閉めたんだがね。

 商談なら明日にして欲しいもんだ」


「すいません、ヴィルマーさん。

 少し話を聞いてほしくて、夕食に付き合って貰えませんか」


 俺がそう言うと、彼は俺の連れを見回してからまた口を開いた。


「お前も随分、偉くなったもんだな。

 まあいい、ついて来い」


 俺達はヴィルマーさんの後について行って、酒場へと入った。彼は鶏肉の塩焼きと大麦粥、蒸したキャベツとニンジン、タマネギの野菜料理、それにブドウ入りのパンプティング、パンや卵、牛乳、砂糖で作ったデザート、を注文していってドッカリと座る。


「それでレン、何を相談したいんだ」


「それが自分の仕事を減らしたくて副会長を雇ったんですが、彼女が頑張り過ぎて余計に仕事が増えるんですよ」

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


本作が『探知できなきゃ死んでいた ~異世界商人の冒険は危険でいっぱい~』として、BKブックス様より8/4(金)に発売されました。ご興味があれば、活動報告もご覧下さい。


よろしくお願い致します。

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