怖い話
変な物を見つけたが、戦闘中だし俺が大声を出しても他の奴に伝わりそうもない。俺は隣のヴァルブルガにだけ注意を促し、二人で森に向けてクロスボウを構える。だが探知スキルの反応で様子を見ていると、犬達は森の中で俺達の馬車を追い越す。
その頃までに最後の馬車も反転を完了したが6人ほどのゴロツキ、というかもう盗賊でいいだろ、が辿り着いたので、『疾風迅雷』の重戦士『鉄の心臓』ロッホスとニクラスが馬車を降りてそれを止める。そこで4匹の犬達が横から飛び出してゴロツキを襲うのだった。
「うぉ、なんだコイツら」
「犬か、何で急に襲って来やがった」
「痛ぇ、噛み付きやがった」
直接見えるわけではないが、どうやら盗賊達の足に噛み付いたりしている様だ。噛み殺す様なパワーは無いが、邪魔くらいにはなっている。
ゴッ
「うわぁ」
「ガーハッハッハッ。
なんか分かんねぇが、運がねえな。
まさに泣きっ面にダメ押しって奴だぜ」
犬に動揺した盗賊の一人をロッホスが大斧の一振りで吹き飛ばした。人を2メートルも跳ね飛ばす力だけでなく、その巨躯を分厚い鎧で覆った威圧感はそれだけでゴロツキを怯ませる。
ゴギ
「舐めるなよ。
お前ら野良犬なんかサッサと潰せ」
盗賊のボスはまとわりつく犬の様な生き物を踏み潰して、ロッホスに向かう。手の空いた盗賊をニクラスが相手をするが、残りの盗賊達は順次犬に止めを刺して行く。だが、ニクラスが順当に盗賊達に手傷を負わせ、ボルトを再装填したヤスミーンが一人の足を射抜くと形勢は逆転した。
「おい誰か、商人を押さえろ。どうせこの鎧男以外大した事ないぞ。
商人を拉致れば金貨五十枚(約五百万円)だ。お前ら気張れよ」
その声は、2台目の馬車にいる俺にも聞こえた。え~、俺、裏社会で金貨五十枚の賞金首なの? ヤだな~。頭の悪い盗賊達がそれでも前に出ると、ボスとその取り巻きはそれに紛れて逃げようとしてる。あれ、あのボスの後姿最近見たような。誰だっけ。
逃げて行くボス達を見ていると、突然森から最後の1匹の犬が飛び出しボスの首に噛み付いた。
「ヴァンデルの頭ぁ。」
「ぐはぁ」
おお、それだ。街で絡んで来た奴。説明ありがとう、忘れてたよ。ヴァンデルは首に取り付く犬に曲刀が届かないと思ったのか、それを手放して短剣でザクザク犬の腹を刺す。だが、首から犬が落ちると同時に本人も地面に倒れた。
「うわ~、もうダメだ~」
盗賊7~8人が森に逃げたが、まあいいか。
それにしてもヴァンデル達は俺の誘拐が目的として、犬の方はなぜ助けてくれたんだろう。俺がそんな事を考えている内に、『疾風迅雷』の面々と共に後処理をしていたニクラスが不審げな声を上げた。
「ご主人、ちょっと来てもらえないですか。」
何だろう。見ているのは犬の死体の方か。そういえば探知スキルの反応も、ただの犬とは違った様な。俺はニクラスの所まで行ってみる事にした。
「ニクラス、何かあったのか。」
「この犬、変なんですよ。腹に深い傷が2つあるでしょう。」
「ああそうだね。そんな傷が2つもあったら間違いなく死んでるね。」
「いえ、1つでも死んでいますよ。それに片方の傷は乾いているんです。
まるで何日も前から開いている傷の様に。」
え、なんか怖い話になってませんか。っていうか、ニクラスのその両手で1本指を立てる動き、最近見た様な。まあ、関係は無いか。
「残り3匹はそう不審な点は無かったんですが。」
「残り4匹だろう。」
「いえ、最後の1匹はもっと厄介でして、腹が裂けていて内臓が無いんですよ。
一応言っておきますが、この近くにそこからこぼれただろう内臓は落ちていません。」
やだなー、怖い話になってるじゃないですか。
「死んでも走ろうとする精神に敬意を。
私も王都まで走ろうかしら」
ヤスミーン、そうじゃないと思うよ。あと、一人で走んないでね。
「ご、ご主人様。
きっと馬鹿な犬達で、その辺の藪で死に掛けていたのに、
馬車に驚いて飛び出して来たとか、なんて。
け、決して死体が生き返ったとかじゃない、と思うぞ」
ヴァル、動揺し過ぎ、とは言えないか。死体が動いたら普通にビビるもんな。まあ、ファンタジー世界だからゾンビとかいるんだろうけど、森の中の奴がネクロマンサーとかゾンビ使いだったのかね。
『疾風迅雷』の面々も、地面に転がる生き残りの盗賊に聞いても、ゾンビ犬の事は何も分からなかった。
それにしても今、地面に転がってる奴ら奴隷商に売れるかな。いや、隷属魔術なんて無いっぽいし、盗賊なんか衛兵が引き取って処刑するだけかな。まあ、歩けそうな奴だけ縛って馬車の後ろを走らせて、それ以外は地元の狼さんに献上かな。
とにかく俺達は、街道のゴミを端に寄せてから王都へ向かうのだった。
その頃、森の中では小男フーゴが怒り狂って地団駄を踏んでいた。
「くぅそぉ~っ、ヴァンデルのド低脳を殺ったのはいいが、
あのウスノロども、商人を捕まえる前にじぇんぶぅくたばっちまいやがって。
もっともっとウスノロども作らなければぁ。ラリホォ~っ」
その後、フーゴは散々ひっくり返ってゴロゴロと転げ回って暴れた後、半白骨化した馬の背にしがみ付いて王都の方へと駆け出すのだった。
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