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何か来た

 あれ、これヤバイんじゃない。王都への街道を3台の馬車で進める俺だが、探知スキルで先の森の中に20人が隠れているのに気付く。こちらの戦力は俺と御者達を除き、ヤスミーンを入れても7人だから実力差があっても数的に分が悪い。

 まだこちらから400mは離れているが、現代日本ほど平らじゃないとはいえ舗装された街道だ。馬車なら4分もあれば着いてしまう。大迷宮なら徒歩の上、足場が悪いから400mも前に気付けば十分対応できる距離があるが、街道で馬車の速度だとほとんど余裕がない。

 俺が傍らに置いてあった青銅の鐘を鳴らすと、先頭の馬車が停まった。先頭の馬車に釣られる様に、俺達の乗る馬車と最後尾の馬車も止まる。この鐘は古びて少しひしゃげており、低い音を出すがあまり響きは良くない。あまり遠くまで聞こえないが、他の馬車への合図にはそれが良かった。


 道中、俺が他の馬車に停止を知らせる時に、何かいい方法はないかと、護衛の冒険者パーティ『疾風迅雷(テンペスト)』の少年シーフ・クヌートと相談して準備した物だ。馬車の音に紛れて聞き逃さないかと心配したが、クヌートは自信満々に聞き逃す事はないと断言した。

 今回それが証明された形になったが、こんなに早くその機会を得た事は全然嬉しくない。前の馬車からクヌートが身軽に飛び降りると、俺の馬車に飛び乗って来た。


「どうしたんだい、レンさん。」


「前方に人影が見えた気がするんだ。ひょっとして盗賊ではないかと思ってね。」


「ええっ、僕もずっと見てたけど全然見えなかったけどな。」


 顔を顰めるクヌート。まあ、専門家が気付かない物に、素人が気付いたと言えば疑うだろう。


「ご主人様はこういう時、危険に気付くのが早いんだ。

 本当に何かいるのだと思う。」


「う~ん、まあ皆を呼んで来るよ。」


 ヴァルブルガが横から口を挟むと、クヌートは不承不承パーティメンバを呼びに行った。『疾風迅雷』がこちらの馬車に来たところで、対応について話し合う。

 俺としては引き返すのも止む無し、むしろすぐに反転したいが、『疾風迅雷』はまずクヌートを偵察に行かせるという。そして馬車はそのまま路上待機となった。まあ、引き返せば敵も慌てて飛び出してきそうだが、止まっただけなら向こうも様子見を続けて近寄って来ないかもしれない。


 クヌートが街道脇の森に飛び込んで10分後、戻って来て20人のゴロツキが待ち伏せしていたと報告する。そこで『疾風迅雷』とニクラスで立てた作戦はこうだ。『空撃(スカイショット)ち』のミリヤムとクヌートが街道脇の森に隠れた後、馬車を反転させて引き返す。

 馬車はクルトのを先頭に、俺の馬車、最後尾の『疾風迅雷』となる。敵が飛び出して来れば、最後尾の馬車に移動したニクラスが矢を射かけながら引きつける。ヤスミーンも何発撃てるか分からないが、ニクラスと一緒にクロスボウを撃つ。敵がミリヤム達のいるポイントを通り過ぎたところで、ミリヤムとクヌートは後ろから弓とスリングで攻撃。

 敵が混乱して立ち止まれば、可能な限り数を減らす。馬車に突撃するなら、引き寄せながら後退。クヌートの偵察で馬がいないのは分かっているから、馬車に追い着くのは難しいだろう。これで数を減らして数的劣勢を覆せれば撃退は可能だろうが、時間はかかりそうだ。


 とにかく作戦が決まると、ミリヤム達が予定地点に移動するまでの時間をその場で待機し、その後に俺達は馬車を反転させる。それを見たゴロツキ達は、慌てて森から飛び出して迫って来たのだ。


「おい、商人を逃がすんじゃねぇぞ」

「てめら、逃げんじゃねぇ~よ」

「待てコラ」


 馬車の反転に時間が掛かるので、その間にゴロツキが近づいて来る。ゴロツキが隠れていたのが400m先だったが、馬車の回転をするうちにミリヤム達の隠れたであろう200メートルまで近づいて来る。ここまでで約2分。

 洋弓の射程距離は300メートルと言われているが、その距離では精度が低いのでニクラスは200メートルまで近づけて一射目を放ち、ゴロツキの1人が倒れる。

 さらに100メートルまで近付いて来たところで最後尾のクルトの馬車は反転が終わったが、まだ他の馬車は終わっていない。この辺りで2射目をニクラス、ヤスミーン、ミリヤム、クヌートが放つ。前後からの射撃に3人のゴロツキが倒れる。


「う、後ろに誰かいるぞ」

「くそ、いてぇ」


「このミリヤムさんの弓、ありがたく受けるんだね」


後ろからの矢に動揺するゴロツキ達だが、ボスと思われる男が手下達に檄を飛ばす。


「お前ら、後ろは無視しろ。さっさと馬車に取り付きゃ撃てねぇぞ」


 それでゴロツキの半数はさらに馬車へ駆け出す。残りのゴロツキは立ち止まったり、森に逃げ込もうとしたりしていた。馬車の反転に予想より時間が掛かっているが、馬車まで辿り着きそうな奴はこれで8人にまで減っている。

 これなら何とかなるかと思っていた俺の探知スキルに、ペルレ側からの接近者が感知された。馬っぽい反応が1つと犬っぽいのが5つ。馬っぽいのは他よりも森の奥にいて、上に誰か乗っている。そして犬っぽいのが街道沿いの森の中をこっちに向かって疾走してくるのだった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


本作が『探知できなきゃ死んでいた ~異世界商人の冒険は危険でいっぱい~』として、BKブックス様より8/4(金)に発売されました。ご興味があれば、活動報告もご覧下さい。


よろしくお願い致します。

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