表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/234

疾風迅雷

「行ってらっしゃいませ、会長。

 どーんと売って来て下さい。どーんと。」


「会長、お気をつけて行ってらっしゃいませ。

 ご無事の帰還をお祈りしております。」


 ブリギッテさんとレオナが事務所の前で見送りに来てくれた。レオナは商会に入ってから普通に丁寧語で話すようになって、なんというか平坦な喋り方になった。まあ、商会で働くにはいいのだが、何と言うか面白みが無くなった気がする。時々、前の話し方と混ざるが。


「レンさん、ザックス男爵閣下にはダーミッシュ商会からもよろしくお伝え下さい。

 それとご承知かもしれませんが、男爵領はオルフ大森林に近い事もあって土地が荒れ、

 そのせいで王都周辺に比べて治安が悪くなっています。お気をつけ下さい。」


 ダーミッシュ商会からはカリーナが来てくれた。何というか、卒ない対応をしてくれるが、淡々としていて俺に好意があるのかないのかが全然分からない。いや、何も無いと言う事は好意が無いと考えていいのだろうな。畜生。


「ブリギッテさんも、レオナもお見送りありがとう。

 俺が不在の間はよろしく頼むよ。


 カリーナさんもわざわざありがとうございます。

 ユリウスさんにもよろしくお伝えください。


 では、行ってきます。」


 ブリギッテさんが本当に2日で準備をしたので、3日目の朝には俺はザックス男爵領に向けて旅立っていた。前回、アントナイトをマニンガー公国に運んだ時は、正直金を掛けたくなかったので、護衛達は歩かせていた。だが、今回ブリギッテさんは護衛まで馬車に乗れるよう手配していた。

 馬車は前回より1台増えて3台、しかしアントナイトの量は前回の半分以下の金貨100枚分程度だった。それにここから王都までは迷宮産の昆虫の干物を運ぶ。俺的にはキモいし嵩の割に安いが、集め易く捌き易い。これは王都で売ってしまって、王都から男爵領の間は価格を見てりんごか干しぶどうを運ぶつもりだ。

 それぞれの馬車はブリギッテさんの雇った御者が手綱を取っている。そして、一番後ろの馬車の荷台にはクルト、先頭の馬車にはブリギッテさんの雇った冒険者パーティ『疾風迅雷(テンペスト)』の3人、真ん中に俺とヴァル、ニクラス、ヤスミーンだ。


「なあ。見たか、あの色っぽいねぇーちゃん。褐色でお前と違っておっぱいがこぉ~んなに大きくて。

 すげーなー、がーはっはっは。」


「このオールデースケベオヤジィーっ、ぶん殴られたいようだねぇ。

 私まで下品だと思われて、レン様の妻の座を逃がしたらどうしてくれるのよぉ。」


「うわーっ、また始まっちゃったよぉ。

 妻の座とかの前に、お姉さんに謝った方がいいんじゃないの。」


 『疾風迅雷』のメンバは中年の重戦士『鉄の心臓(スチールハート)』ロッホス、厨二的黒衣のレンジャー女『空撃(スカイショット)ち』ミリヤム、少年軽戦士/シーフ?『狐憑(ナイトウィスパー)き』クヌートと名乗った。自分で二つ名を平然と言うとは、面の皮が厚いな。しかも二つ名が微妙に弱そう。

 ブリギッテさんは、有名冒険者パーティが格安で雇えたんですよ、と言っていたが、後から御者に悪い評判を聞いた。なんでも主要メンバが抜けて落ち目となり、『脱兎(ランナウェイ)』と揶揄されているとか。進撃が速そうな『疾風迅雷』に対し、『脱兎』だと逃走が早いという意味か。


 ミリヤムは初対面でいきなり年商を聞いて来たが、男性側が医師・経営者・外資系会社員限定の婚活パーティーに群がる女性はこんな感じなんだろう、行った事ないケド。

 年齢も20を越えたくらいだろうから、日本では早い人なら結婚しているくらいだろう。ただ、ここでは行き遅れに片足を突っ込みそうなところか。まさに婚活パーティーの主要顧客層か。

 日本にいた時の俺なら歳の差を感じる若い子といったところだが、今の俺はたぶん18くらいだろうから少し年上のお姉さんだ。まあ体も全体的にスリムで、痛い感じの黒装束の女なんてノーサンキューだが。


 何にしろこれでしばらく旅の空か。ちなみにブリギッテさんの言っていたザックス男爵の領地まで16日というのは、徒歩の者がいない馬車の場合の様だ。まあ、どうせ行くんだから、いろいろ見ながら楽しんで行こう。




 その頃、街中での誘拐に失敗したヴェンデルは、レンに先行してペルレと王都との中間地点で隠れていた。待ち伏せしてまたレンを誘拐するつもりだが、今回はペルレの貧民街からも人を集めて20人の手勢を率いている。


「おい、フーゴ。どこに行きやがった。

 全くあのウスノロめ。戻って来たら折檻してやる。」


「ヴェンデルの(かしら)ぁ、アイツ殴り過ぎてもう死んだんじゃねぇですかい。」


「はあ?アイツ、ヘラヘラしやがって余裕そうだったぞ。

 全く、俺をこんなに苛立たせるなんて、折檻はいつもの2倍にしてやる。」




 ヴェンデルが悪態をついている頃、昨日も殴られたのか体のあちこちに痣を作ったフーゴは、森の中の倒木の上に座っていた。彼は両手で大事そうに一本の棒の様な物を持っている。よく見るとそれは、人の指のミイラの様だった。ただし、それは人の指にしては長く、15センチほどもある。


「ぐふぅ、ぐふふふっ。商人を捕まえて金を貰うのは俺だ。

 ヴェンデルの奴は犬のエサにでもなるがいい。ぐふふふっ。」


 彼の近くには貧民街を徘徊しているような、痩せて毛皮も汚らしい野良犬の様な何かがいた。

ここまでお読み頂きありがとうございました。


活動報告にて書籍化準備状況を公開中です。

ご覧頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ