ケーニッヒ・ド・シュニッツェル
「悪いが忙しい。他を当たってくれ。」
俺は素っ気なくそう言った。だが男は諦めなかった。
「おいおい、のんびり飯を食っててそれは無いだろう。
俺だって仕事でこっちに来てるんだぜ、あんさん。
分かるだろ。ちょっとは話しぐらい聞いてくれよ。」
「俺は今、休むのに忙しいんだ。午前中もずっと忙しくて、飯を食ったら午後も忙しいんだ。
分かるだろ。そういう時、赤の他人に食事を邪魔されたくないんだ。」
「ああ分かるぜ、よーく分かるぜ。
つまり、今が俺とあんさんが話すベストタイミングぅぅなわけだろ。
なあ、あんさん。」
「ニクラス、お帰り頂け。」
俺がそう言うとニクラスは黙って立ち上がり、男の肩に腕を回すとガッチリ掴んで回れ右をさせる。
「おい、あんさん。何しやがる。」
「ケツを固くしろ。」
「ひぃ。」
男は騒ぐがニクラスはぼそりと一言漏らすと、男を連れて店の外に出る。そしてすぐにニクラスだけが帰って来た。それから昼飯を食べ尽くすと、俺は店主に持ち帰りで頼んでおいたパン粉焼きサンドイッチを受け取り店を出た。ちなみに店の名前は”ケーニッヒ・ド・シュニッツェル(パン粉焼きの王様)”だ。
店に戻ってブリギッテにサンドイッチを渡して仕事に戻る。ちなみにレオナの代わりにハイモがブリギッテを手伝わされていた様だった。その日の午後、俺はじっくりとブリギッテの計画を聞かされ、頭がパンクしそうになる。
夕暮れになったので話を打ち切って、今度はランチのメンバーにブリギッテとハイモ、それにヴァルヒ商会とダーミッシュ商会からクラン『銀蟻群』に出向してきてくれている経理係二人も誘ってパブに繰り出した。
パブの方も俺があまり混んでいる店が好きではなかったので、ちょっと外れにある店を選ぶ。そこでも街の外の商人が話し掛けて来たが、こちらは昼間の男と違い、礼儀正しく酒を奢って来たので少し話を聞き、ミスリル以外のペルレの話は教えてやった。
どうも街の外から探りに来た連中も、最初に中心街のパブなどで情報収集を始め、そこで出ないとなると段々中心街から外れた店にも顔を出し始めた。そこで街を離れていたせいもあるが、中心街で見なかった護衛や女を連れた俺が目立ってしまい、今日のように寄って来たというわけだ。
俺は今日のようなのは面倒なので、しばらく食事は『銀蟻群』クランハウス兼『トルクヴァル商会』の事務所兼俺の家で取る事にした。ただ、事務所にいるとブリギッテさんにずっとせっつかれそうではあったので一計を案じた。
ブリギットさんにマニンガー公国と交易を、新プロジェクトとして人員開拓から計画してくれと頼んだら、頑張り出して俺の事は放っといてくれた。しめしめ、今のうちにのんびりしよう。
それから2日後、コースフェルト伯爵から食料を買う用意がある、つまり送ってちょうだいという手紙が来たのでブリギッテさんに丸投げした。本人は喜んでいた。変態か。
さらにその翌日、ヤン達魔族と交戦した村に残して来た人員が帰って来た。もちろん重傷者は伯爵の配下の人に任せて来たので、それ以外の人員という意味だ。俺は参加報酬1人当たり銀貨50~150枚、鼠人討伐の報酬として20匹分銀貨100枚を渡す。
ちなみに参加報酬は一人一人に手渡したが、鼠人の討伐報酬はまとめてヤンに渡した。わざわざ皆の前で渡して、皆にもヤンの分配で文句ないよねと確認したので、後から貰えなかったとか言って来ても無視しよう。
何気に交戦が1回だけだったし、不謹慎かもしれないが死者が多かったので兵の報酬が金貨10枚(100万円)しか掛からず、物資などの経費も金貨10枚程度だったので、バックハウス男爵から受け取った戦費金貨100枚からの差額が金貨80枚にもなった。
さて、実は最近俺の生活にも変化があった。この3日、昼、夜の外食を控えていたわけだが、この街の建物の中は蛍光灯でいつでも明るい日本の建物と違い常に暗い、ずっと建物の中にいるのは息がつまりそうなので朝の散歩の習慣を作った。
まあ、朝の散歩と言って護衛を4人も従えて歩くわけだが。そこである日、街角で一人の女性が飛び出して来た事があった。彼女は俺にぶつかる前にヴァルに突き飛ばされて倒れてしまった。俺も探知スキルで誰かが飛び出してくるのは分かったが、スキルの反応からしてスリぐらいだろうと思い、ヴァルに任せてしまったのだ。
彼女は持っていたバスケットに入っていた10個以上のバケットを道に撒いてしまった。どうやら彼女はバケットの配達中だったらしい。彼女は飛び出した事を謝りつつも、バケットを落としてしまい真っ青になっていた。
彼女はやや垂目の美人で、背中まで伸ばしたブラウンヘアを町人らしく質素に1本に結んでいた。あまり裕福そうでは無いが服はきちんと整えられていて、ちょっとおっぱいとおしりが大きかった。
別に美人とかおっぱいとかに関係なく、飛び出したのは彼女とは言え、ヴァルが突き飛ばしたせいでバケットが落ちたので、俺はその事を詫びてちょっと多めにバケット代を支払った。彼女は少し躊躇したものの、何度もお礼を言って帰っていった。




