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あ、やっぱり来た

「一応、籾から幾つかは芽が出て来てるがよぉ。

 ここはマニンガーより寒いしよぉ。

 これから冬になって寒くなって行くから、今から植えても絶対に全滅すっぞ。」


 ハイモにそう言われた。俺達はバックハウス男爵と別れ、米の栽培実験用に借りた農園の裏の沼地に来ている。二期作とか出来ないかなぁ。言葉は知っているが日本でどうだったかよく覚えていない。しかし、経験者が言ってるんだから無理なんだろうな。

 さてどうしたもんか。


「それで、田植えは春か?

 だいたい1ヶ月くらいここにいたと思うが、何か不足は無かったか。」


「ああ、農具は一式欲しいな。男爵様の農夫から毎回借りるのは面倒だし。

 それに道具を別に用意するなら、男爵様の農具と分けるためにも小屋くらいは欲しいな。


 あと田んぼだったら水量を調節する為の用水路なんかを作るんだが、この沼でやるんだろ。

 一年を通して水量が十分かは分からんぞ。」


 う~ん、確かにここはとりあえずで選んだ場所だから、本当に適当かは分からないんだよな。ただ、それは他のところも同じだし。あまり金も掛けたくないから、来年はここでやる事を前提に1年掛けて他の候補地を探して水量を記録して行くか。

 ならハイモには体半分で稲作、半分で候補地探しとその場所の水量などの継続調査かな。あとは冬の間のハイモの処遇か。


「なあハイモ。お前、稲作以外の仕事はしないんだよな。」


「ああ、そういう約束だろ。」


「そうか。稲作関連の仕事と言えば、冬の間はここで小屋を建てて、

 稲作に適した様に沼を改造してもらうしかないな。

 荷物運びとか他の商会の仕事をしてくれるなら、街に戻ってもらうが。」


「おいおい、俺一人でやらせるのかよ。

 こんなしけた場所で冬を過ごすなんて溜まんねぇよ。




 …しかたねぇ、ちょっとくらいは街での仕事もしてやるよ。」


 口の利き方がなってないが、だから家族とも上手くいかなくてこんなところに来るハメになったんだろうな。まあ、そんな事は彼にはもとめてないからいいけどね。俺はバックハウス男爵に挨拶をしてからハイモを連れてペルレに帰った。




「レン会長。昨日、会長達がバックハウス男爵とお会いになっている間にレオナと一緒に調べたのですが、会長はマニンガー公国内でもコネが多いようですから交易を続けるべきだと思います。マニンガー公国に集まるインカンデラ帝国の織物に美術品、ザイード教国の香辛料、宝石に絨毯など、利幅の高いものは多いですから。私の計算に拠ると1回の往復で2ヶ月、年に6往復はイケます。投資に対する年利は6000%も狙えますから。それと…。」


「いやいや、ちょっと待ってよ。マニンガーとの往復はこの間も3ヶ月は掛かったし、紛争地域越えとか現地商人とのトラブルとかリスクも大きいし、しかも6往復って引っ切り無しに行き来するって事だよね。それはチョット…。」


 バックハウス農園から帰って翌日、俺は我がトルクヴァル商会の誇る新副会長ブリギッテの襲撃を受けて、キュウキュウにされていた。いや、やる気あるのはいいんだけどさ。それ、俺もメッチャ働かされて休む暇無くなるよね。

 俺は午前中いっぱいブリギッテの猛攻を凌いでヘトヘトになり、昼食の名目で外に出た。副会長とはいえブリギッテは新人だから、ここは新しい職場の上司が昼を奢って親睦を深める場面かもしれないが、彼女は俺の要望を元に計画を練り直すと言っていたので置いて来た。

 俺は事務所からは少し離れるが、中心街から少し離れた豚のパン粉焼きの美味い食堂までやって来た。ここは美味いわりに近所の住人しか来ないせいで、いつもそれほど混んでいない俺の隠れ家的な店だ。一緒に来たのはヴァルブルガにクルト、ニクラス、ヤスミーンとレオナだ。


 護衛がフルメンバなのはユリウスさんにミスリルを嗅ぎ回る連中が増えたと忠告されたからであり、レオナは雇ってから放置気味なので置いていくとむくれそうだし、ブリギッテさんと残すと昼も食べれずに仕事をさせられそうだったから連れて来た。

 店に入ると奥のテーブルを全員で囲む。クルトは狭そうだが、前に店に入れずに店の前で食べさせようとしたら、他の客が入らなくなるからと店の主人に店の奥へと詰め込まれた。俺は子豚とウサギのパン粉焼きと茹で野菜にフライドポテトを注文する。

 ちなみに俺の席は店の奥側で両隣はヴァルとレオナ、正面がヤスミーンだ。レオナの正面がクルトで、ヴァルとニクラスは入口に近い側となる。うん、完璧なフォーメーション。そんな感じでみんなでパン粉焼きを食べていると、目の下に隈のある痩せぎすの男が店に入って来た。


 男の服装は多少上等な感じもするが、行商人といったところだろう。その男は店を見回して俺に気付くと営業スマイルを浮かべて近付いて来た。


「なあ、あんさん。美女に護衛と随分羽振りがいいようだが、この街の商人だろう。

 ちょっと聞きたいことがあるんだが、同席させちゃあくれないかい。」


 男は顔の向きを微妙に正面からずらしながら俺を見て、両手の人差し指を立てると変に腰だけ引くような立ち方でそう言った。キメポーズなんだろうか。馬鹿っぽくしか見えないが。

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