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男爵への報告

 翌日、ペルレに戻って5日目、俺はバックハウス男爵の農園に向かった。俺は今回フルメンバーでヴァルブルガ、クルト、ニクラス、ヤスミーンを連れて行く事にした。ペルレから日帰りできるところなので大丈夫だとは思うが、昨日ユリウスさんからミスリルの情報を探る連中が増えていると聞いていたので、念のため守りをガッチリ固める形にした。




「いやいやレン君、よくやってくれた。

 それに無事帰って来てくれて嬉しいよ。」


「はっ。男爵閣下の名誉を守る為、粉骨砕身働いて参りました。」


「公の場でも無ければ、そんな堅苦しい言い方はよしてくれ。

 君はバックハウス農園の勇者なのだから。」


「恐れ入ります。」


 俺が顔を出すとバックハウス男爵が大喜びで出迎えてくれた。彼は小太りだがフットワーク軽く、自ら館の玄関まで出迎えてくれたのだ。俺を戦場に送った張本人でもあるが、それを心底申し訳なく思っている節もある。俺の心証的には臆病だが気のいいおじさんである。

 俺の話に何でも興味を持ってくれるし何でも褒めてくれるので、いつも気持ちよく話せて割と好ましく思っている。


「レンさん、さすがですね。

 魔族には遭ったんですか。怖くなかったんですか。」


「怖かったですよ。

 身長2mかそれ以上ある犬の頭の獣が、

 武器を持って立ち上がってリントナー男爵の兵に襲いかかったり、


 子供程の大きさの鼠が何百匹と集まって走って来たり。」


「きゃぁ~っ、それでどうなったんですの?」


 一緒に供応してくれた男爵令嬢のゲアリンデも、俺と話す時はいつもニコニコしていて気持ちがいい。彼女は顔にもそばかすが浮かび決して美人ではなく、体もふっくらした感じでスタイルがいいとはいえない、だかファンシーなぬいぐるみと話している様でほっこりする。

 勘違いかもしれないが、バックハウス男爵は俺をすごく気に入っている様だし、ゲアリンデもかなり好意的に感じる。ひょっとしてバックハウス男爵家に婿入りとかもあり得るのか。まあ、美人は3日で飽きると言うし、二人共感じのいい人間だ。しかも定期収入の入る農園付き。これはアリではないか。


「ヴァル! このカウマンスの肉も美味しいわ。」

「おい、ヤスミーン。ご主人様が男爵閣下とお話しされている。

 静かに食べろ。」

「この肉、ハンナとカイにも食べさせたいな。」


「ははっ、君達。食事は楽しくだ。

 こちらには気にせず、存分にやりたまえ。」


 男爵の言葉に振り返ると別のテーブルで、俺の奴隷達がムシャムシャとご馳走を食べていた。ヴァルは肉のパイの山からそれを取って食べているし、ヤスミーンは甘辛いソースを塗ってグリルで焼いたポークリブをパクついている。

 ニクラスが食べているのは小麦粉と卵で作ったパスタとはちょっと違った麺料理か。いまはランチなのだが山盛りのご馳走が出され、俺達のテーブルも彼ら奴隷のテーブルも同じ物が並んでいる。小麦菓子等もあるが、それを食べているのはこちらのテーブルのゲアリンデだけか。

 家屋の中には入れなかったが、クルトも玄関先で同じ物を食べているハズだ。これらは俺へのもてなしというだけでなく、魔族の討伐に同行したヴァル達への慰労でもあるようだ。男爵の農園では奴隷も自由人も関係なく働いているようなので、一般的な貴族とは違い身分へのこだわりは少ないのだろう。


 俺はポークリブのソースで汚れた口を拭いてから、男爵に声を掛ける。


「それで村に残したウチの兵の分の食料は既に送っているんですが、

 コースフェルト伯爵領東部の復興はまだ続くと思うんです。


 ですから早い時点で食料を東部に送れれば、

 伯爵閣下の男爵閣下に対する覚えも良くなると思うのですが。」


「なるほど。倉庫には小麦もハムもたっぷりあるから、

 先に伯爵領の東部に送って、不足分を周辺の街から買い集めれば支障は無さそうだね。

 ただその場合、君がもういちど向こうに行かなければならないんじゃないかね。」


「いえ、先程送った食料に伯爵閣下宛とウチの兵宛の手紙を付けております。

 数日のうちに必要量の回答が来るでしょう。」


 俺は昨日のカリーナの話を思い出した。


「食料と一緒にレンさんの名前でコースフェルト伯爵様とヤンという人に手紙を送っておきました。」


「手紙?」


「ええ、コースフェルト伯爵にも補給の計画はあるでしょうが、

 レンさんの行った村の被害は想定外だったようですから。


 ヴァルヒ商会も要求されれば追加で集めるでしょうが、

 レンさんがバックハウス男爵様にお願いして倉庫を開いてもらったほうが早いでしょう。

 金額がこれくらいで…。」


 カリーナ、できる女だ。まあヤン本人は字が読めないかもしれないが、食料が足りないなら何とか要求してくるだろう。俺は回答が着き次第、すぐにでも食料を送れるよう男爵と準備について話し合い、その日はペルレに帰ろうとしたところで声を掛けてくる者がいた。


「おい、レンさんよぉ。俺の事忘れてないか。」


 俺がマニンガー公国から連れて来て、バックハウス農園の裏で米の栽培実験をしてくれているハイモだった。うん、すっかり忘れてた。ごめんよ。

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