出陣の後始末
ペルレに戻った俺は、魔族と戦った村に食料を送らなければならないが、熱を出してベッドから起き上がる事が出来なかった。多少話はできるが、そういった手配はヴァルやニクラスには出来ない。かなり困った。そんな時、助けてくれたのがダーミッシュ商会のカリーナだった。
「レンさん、分かりますか。
食料はどこに送ればいいんですか。聞こえていますか。」
「あ、あ、魔族のいた、…、村」
枕もとで話すカリーナに俺は、熱で浮かされながら答える。
「何人分ですか。」
「あ、…、う。」
「村に今残っているご主人様の兵は10人だ。
だが、リントナー男爵やジーベル男爵も糧食をだいぶ失っている。
ご主人様がどれくらい送るつもりだったかは分からないが。」
頭痛でうまく答えられない俺に、ニクラスが補足を加える。
「そうですか。
では10人の7日分の食料の、さらに3倍を送っても無駄にはなりませんね。
コースフェルト伯爵はペルレからも糧食を送っています。
そこに人を付けて同行させてもらいましょう。
これくらいの額ならユリウス様が貸し渋る事も無ありません。」
俺の状態を見たトルクヴァル商会の従業員第一号レオナが、ダーミッシュ商会のユリウスさんに泣き付いて、カリーナを派遣してもらったのだ。カリーナは、熱を出してたどたどしく話す俺から要点を聞き、俺の代わりに食料の手配をしてくれた。
それから熱は3日で引いたので、カリーナにはお礼を言ってお帰り頂いた。やっぱり俺のいない時に商会を回せる人員が必要だよな。足元を見られる事にはなるが、ユリウスさんに人を回して貰えないか相談に行こう。
俺はレオナにアポを取ってもらって、ペルレに戻ってから4日目にユリウスさんに会いに行った。応接室に通された俺は、まずは食料を送ってもらったお礼を言った。これには食料の代金と送料で金貨3枚+カリーナの派遣料金貨2枚の合計金貨5枚(50万円)を請求された。ぐふぅ、カリーナが高い。
でも現代日本でもマネージャークラスの派遣なら月200万円くらいする事もあるから、ボッタクリとも言えないか。俺はしぶしぶと言い値で払った。
それから、トルクヴァル商会の副会長を任せられる人員を相談した。すると、ユリウスさんはそう言うと思った、と言ってその人をこの部屋に呼んでくれるという。
しばらくすると、この部屋にカリーナが入って来た。そうだよね、ここは顔馴染みで昨日までも親身になって助けてくれたカリーナが来てくれる流れだよね。カリーナって美人だし。やっぱり主人公は美女・美少女に囲まれるものだよね。
そう思っているとカリーナの後ろから中年の女性が入って来た。美人ではないが、凄くエネルギッシュな感じで目がギラギラしている様に見える。身なりはキッチリと整えられて、ヒラ商会職員よりも多少上等な服を着ていた。体はずんどう、と言っては悪いが、まあ太ましい中年体型だ。
「こちらは私の叔母のブリギッテ。ダーミッシュ商会で30年のキャリアを持っています。
男性であればどこかの街の支店長も任せられるのですが、女性だとなかなか難しく。
トルクヴァル商会の話を聞いて是非にと言う事でご紹介します。」
淡々とそう言うカリーナ。あれ?カリーナじゃないの。そう思っている俺にユリウスさんが声を掛けて来た。
「ブリギッテはミスリルの話も知っているから、何でも相談するといいよ。
僕も彼女の才能は惜しいと思っていたんだけど、こう言ってはなんだけど大きな商会では、
有能な男性職員が列を成して待っているから、女性の幹部登用は難しくてね。」
まあ、現代日本よりもだいぶ文化レベルが低いから男尊女卑はあるよね。ユリウスさんの言葉が終わると、遂にご本人が口を開く。
「ブリギッテです。
これでも金貨1000枚(一億円)の金属卸の取引を纏めた実績もあります。
新規店舗の副店長として5軒の立ち上げも経験しております。
王都、ライマンへも取引に行ったことがあります。
金属以外の物資や人の手配も得意です。」
ぐふぅ。やり手の保険のオバちゃんの様でグイグイ来るな。俺の苦手なタイプだ。でも、ユリウスさんの推薦でもあるし、経験も十分と言うか、むしろ能力が高すぎて商会を乗っ取られそうだ。取り合えず外敵からの防衛には頼もしい感じだ。彼女自身からはノーガードになるが。
俺は彼女と幾つか確認をしたが、グイグイと来られて断れなくなり、ブリギッテさんにはトルクヴァル商会に来てもらう事になった。ちなみにブリギッテさんは仕事一筋で来たので、独身だそうだ。本気かどうか分からないが、愛人もOKと言っていた。ブルブル。
なお彼女の月給は金貨4枚(40万円)だ。副会長としては安いと思うが、零細商会なので勘弁して欲しい。彼女はペルレに持ち家があるので、トルクヴァル商会の店舗、兼銀蟻群のクランハウスへは通いとなる。俺の執務室の横に彼女の執務室も作らなきゃな。
「それとレン君。ペルレでのミスリルの情報を聞き回る連中が増えているんだ。
君も身辺には気を付けてくれ。」
最後にユリウスさんが、そう付け加えたのだった。マジか。




