討伐の終焉
さっきの魔法で怪我をした者も多い。魔法を使ったのがこのジジィだと分かれば、他のヤツらが黙っていないだろう。下手をすれば刃傷沙汰になるかもしれない。それに今は落ち着いた様だったが、周りに中てられて魔法でもぶっ放されたら、今度こそ全滅しかねない。
その時、俺の鞄の中でカチャリと音がした。銃だ。俺はそっと鞄に手を入れた。冷たい鉄の感触が伝わって来る。どうする。ヤルか。魔法戦力は貴重だが、不安定過ぎて行動を制御出来ないのは返って危険すぎる。気の抜けている今なら、後ろから狙えば俺でも。
俺はゆっくりとジジィの後ろへと回る。ジジィに動きは無い。1歩、2歩、3歩。緊張に額から汗が流れる。その時、村の前にいたリントナー男爵の兵がこちらに向かって来るのが分かった。援軍が来るのが分かったせいか、俺の緊張が解けていく。
「ご主人様、無事か。」
ヴァルブルガが俺の隣まで来て声を掛けてきた。そうだ、何をテンパっているんだ。こんなの俺のキャラじゃないだろう。それに今はこのジジィから危険な感じは無い。なら、とりあえず現状維持だ。先延ばし?いいじゃないか。俺はそんな果断に実行していくタイプじゃない。
「ああ、大丈夫だ。
ニクラス、生き残りを指揮して立て直せ。ヤスミーンはニクラスの補助。
索敵と被害状況確認、負傷者の手当てに班を分けて当たらせろ。
それから、さっきの暴風の原因は白い鼠人かもしれない。
全員に通達して情報が集まる様にしてくれ。」
「白い鼠人?そんなのが。
了解した、ご主人。」
どうせ原因の分かる者なんかいないだろうから、白い鼠人のせいだと言っておけばジジィから気を反らせるだろう。下手に刺激を与えないよう、街まで連れ帰って穏便に契約満了として金を渡してハイチャラバイしよう。
村での戦闘が終わってみると、アヒムの緑隊はアヒムを含め13人が死亡、ウドの黒隊が10人死亡、ヤンの赤隊が7人死亡で生き残りは15人+俺達5人、最後の魔法のせいで死亡率は6割に及んだ。続いて村に突っ込んで犬人と鼠人に挟撃されたジーベル男爵の隊が死者23人で5割の死亡率、生き残り24人。最大の兵員数を持ち練度も高いリントナー男爵は死者数13人で87人が生き残るという結果だった。
翌日、俺はリントナー男爵の配下と共にコースフェルト伯爵へと報告に行く事にした。俺はヴァル達4人と、ジジィ、そして軽傷の4人を連れて行く事にする。村には負傷者と共に警備の為に残りの兵が待機しているが、鼠人と魔法の暴風のせいで糧食の7割が失われてしまっている。
そこで俺はコースフェルト伯爵から糧食を購入するか、出来なければどこかで調達するとリントナー男爵を説得して村を離れるのに成功した。ちなみにジジィの他に軽傷者を連れてきたのは、このまま街に返しちゃえば自分の隊の負担が減るという算段である。ちなみにアヒムが死亡し、ウドが負傷していたので、村でのウチの隊の取りまとめは要領のよさそうなヤンに頼んで、リントナー男爵の下に残して来た。
村を出て3日後、合流地点まで戻ってみると他の村に行った隊は順調に魔族を撃退したようで、ウチの隊が行った村だけが激戦だった事を知る。くそ。ただ、他の村では弓を使う山猫人や人語を話し、魔法まで使う山羊人まで出たらしい。
魔法を使う山羊人は厄介そうだが、運よく一番強力なコースフェルト伯爵本隊のところに出た様で、割合あっさり討伐された様だ。人語を話すなら生け捕りにして魔族の情報を聞き出せれば、と思ったが残念ながら生け捕りには出来ずに殺してしまったという。
糧食に関してはコースフェルト伯爵から市価の1割増しで譲ると言ってもらえた。こんな僻地までの輸送を考えればだいぶ便宜を図ってくれたといえるが、これには自分でペルレまで行って調達すると言って丁寧に断った。
コースフェルト伯爵も魔族に荒らされた村を復興するのに食料は必要だろうから、バックハウス男爵やヴァルヒ商会とも相談してむしろ食料を送れば喜ばれるだろうし、こちらの利益にもなるだろう。まあ、ヴァルヒ商会は既にコースフェルト伯爵と話をしていそうだけど。
とにかく、俺はこのままペルレに帰る事になり、逆にコースフェルト伯爵はあの村に兵士を派遣して復興を引き継ぐ事になった。ウチの隊にも動かせない重症者が3人いたが、伯爵の配下に銀貨150枚(約15万円)で面倒をお願いした。
殺せって意味じゃないよ、他の重症者と一緒によろしくお願いします、って意味だよ。ちなみにここで支払ったお礼は可哀そうだが、本人の報酬と相殺となる。正規の自分の部下や家臣ならともかく、傭兵に障害補償はないのがこの辺の国の慣例なのだ。
村に残した人員はそのうち帰って来るだろう。そういば報酬はいくらになるだろうか。生き残った人間が15人、うち15人隊長が2人、5人隊長は3人ぐらいか。基本報酬が銀貨840枚(84万円)としてジジィ以外の鼠人の討伐は20匹も見積もれば十分、犬人の討伐は無いはずだ。
となると追加報酬銀貨100枚、ジジィは味方への被害もあるし本人がボケているようだから銀貨50枚も追加してやればいいか。合計金貨で10枚(100万円)といったところ、バックハウス男爵にもらった依頼料が金貨100枚だから物資の購入をいれても赤字にはならないか。
そんな事を考えながら帰途に就いた俺だが、ペルレに到着したところで熱を出してしまった。




