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秘密兵器

 俺が緑隊と共に後方の食料置き場に戻ってみると、そこではウドの黒隊とヤンの赤隊が食料に群がる鼠人と戦っていた。黒隊は半数が鼠人に囲まれて戦い、明らかに危ない状況だが残りの半数はそれを遠巻きに見ている。ウドが囲みの中から外の連中に怒鳴っているが、ビビっているのか動く様子が無い。

 ヤンの赤隊は、数人の囮が鼠人の一番外側にちょっかいを掛けては仲間のところへ逃げ出し、追いかけて来た鼠人を取り囲んで叩いている。俺好みの戦い方ではあるが、今は時間が無いし黒隊の救援に行く気は無いのだろう。

 ちなみに鼠人の8割は、こちらを無視してひたすら食料を(あさ)ってその場で食べていた。いっぺんにこちらに掛かって来ないだけマシか。


「ニクラス、黒隊の取り囲まれている連中を緑隊を使って助け出せるか。」


「ご主人。練度が低いから突入すれば(はぐ)れて取り残される者と、

 助けられる者とどちらが多いか分からない。


 そもそも指示通り突っ込む者がどれだけいるか。」


 黒隊、赤隊はゴロツキといえども30前後の奴が多いのに対して、緑隊はアヒム達若者を除けば10代前半以下の子供と40を過ぎたロートル、老人が多い。一応言っておくと、現代日本の40代、50代と違いこっちの世界の40代以上、特に貧しい層は疲弊して老人に片足突っ込んだ感じになっている。

 ふっふっふっ、こうなったら秘密兵器を出すしかないか。


「ヴァル、緑隊と黒隊の近くにいる奴から数人連れて、

 荷馬車からアレを取って来い。


 ニクラスはヴァルが戻るまで、俺の護衛をしながら残りの緑隊を指揮しろ。」


「承知した、ご主人様。


 オイッ、そこのお前とお前、それにそこのお前達だ。

 私について来い。駆け足だ。」


「あぁ、ねえちゃん、ふざけたこと言ってッと。」

「女が俺達に。」


 ギロッ。ヴァルの命令に不平を言い掛けるゴロツキ達。それを聞いた瞬間、ヴァルが恐ろしい殺気を放ちながら、人を殺せそうな視線を向ける。


「ヒィッ、すいましぇん。」

「すぐイキます、姉ごぉ。」


 ビビった黒隊の腰抜け2人と、緑隊の体の大きい少年3人がヴァルに着いて駆け出す。


「ご主人、了解した。


 緑隊は拳大の石を探して拾って来い。急げ。

 黒隊は石を投げてウド達を援護しろ。当てるなよ。」


「へいへい、わーったよ。」

「当てるなって言ってもよ。」

「朝飯はまだかのぉ。」


 一人ボケ老人がいるが、残った黒隊と緑隊もニクラスの指示に動き出す。俺とクルトはそれをボケっと見ている。緑隊の集めて来た石を黒隊のゴロツキ達が投げ始めるが、ウド達に当てない様にしているせいか、なかなか当たらない。

 数的に鼠人が圧倒的に多いから、適当に投げても鼠人に当たりそうなんだがなぁ。そうこうしている内にヴァルの連れて行った連中が、俺が馬車に積んで来た秘密兵器を持って来た。タララッタッタラァ~、さんめ~とる~ぼ~、と、にめ~とる~ぼ~。

 そう。俺が持って来た秘密兵器とは木製の3m棒x3本と2m棒x5本だ。えっ、ショボい?最初は槍にしようと思ったけど、どうせ技術が無いと刃を立てて刺したり出来ないし、ただの丈夫な木の棒なら安いし、予備の武器にもなるし、使い勝手もいいんだよ。安いし。


「ニクラス、分かっているな。ヴァルは俺の護衛に戻れ。

 ニクラスは上手く使って、出来れるだけ黒隊を救い出せ。」


「ご主人様、承知した。」

「任せて下さい、ご主人。」


 実は秘密兵器の選定はニクラスと相談して決めていた。当然、使い方も分かっている。見ているとニクラスの指示の元、緑隊の少年や老人が2人1組で3m棒を持ち、比較的力のありそうな者達が2m棒を構えた。黒隊はそれぞれ自分の武器を構える。

 3m棒持ちは前に出て取り囲まれている黒隊の周囲の鼠人を、距離を開けて叩き始める。もちろん、そんなにポコポコ叩くわけではなく、真上まで持ち上げては振り下ろし、またその動作を繰り返す。

 実際に2mを越える長槍は刺すよりもこういう使い方が多い。長い槍ほどその重量は重く、上から振り下ろされればその威力は頭蓋骨さえカチ割る威力があるからだ。石を投げるよりウド達に当てない様にするコントロールもつき易いし、鼠人が沢山いるところに振り下ろすから意外と当たる。


 距離感はニクラスがそれぞれに一歩進め、とか一歩下がれとかいいながら調整する。鼠人がこちらに来ようとすると、まず2m棒持ちが今度は水平にした棒で距離を詰めさせないよう振り払い、それでも近寄れば黒隊が自分の武器で対処する。

 ヤンの赤隊はこちらの動きに同調して、黒隊に加わり陣形がより安定した。とはいえ石を投げるよりは多少マシ程度で、それでもウドを始めとする黒隊の数人が囲みを破って逃げる事が出来た。逆に残った者達は、遂に倒れて生死が分からなくなった。

 そこにアヒムと共に犬人に向かって行った若者のうち、2人がこちらに戻って来た。犬人と村の前のリントナー男爵の兵の戦いはまだ終わっていないので、逃げ出して来たのだろう。


「おい、アヒムはどうした。」


「はぁ、はぁ、ダメだ。魔族に殺されちまった。ちきしょう。」


 ニクラスの問いに、戻って来た若者は端的に答えた。こちらの戦いも膠着しているので微妙な間が空く。だが、戻って来た若者達は半パニック状態だったのかもしれない。うち1人が挙動不審な動きを見せた後、「おい、それを貸せ」と3m棒を奪い取り、止める間も無く鼠人の所へ行って振り下ろした。


 ギッ。


 その棒はたまたま鼠人の中に1匹だけいた白い鼠人の近くに振り下ろされた。それがひと鳴きすると、ガサガサと動き回っていた全ての鼠人が動きを止めてコチラを見ている。ヤバイ。

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