表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/234

鼠人

 当たり前だが、俺にリントナー男爵やジーベル男爵の兵は動かせない。それにとにかく早く対応しないと食料を鼠人に奪われて、武器を持って殺気立った腹ペコの荒くれ者共の出来上がりだ。そんな所にいればこっちの食料も奪われて、ウチのゴロツキ達も野盗に早変わりするだろう。

 まずはウチの隊を引き戻して、上手い事言って両男爵軍の食料の防衛をさせる。同時に両男爵軍にも食料が狙われている事を知らせて、呼び戻さねば。


「ヤスミーン、全力でウチの隊まで戻ってここに連れて来い。

 食料が魔族に狙われてて、このままじゃ飢え死にだぞと言うんだ。」


「分かったわ。」


 そう言って上着をめくって首までひっぱり上げるヤスミーン。え、何やってんの。そんな事するから大きなおっぱいが飛び出してプルンって揺れてるじゃないか。


「おい、何で脱ぐんだ。」


「全部脱いだ方が速く走れるからよ。」


 うん、そうだね。って、そこまで全力で走る必要ないわ。


「馬鹿。競技場の砂地じゃないんだ。

 裸足で走れば足を怪我するし、服を着てないと森の枝や藪で体を切るぞ。


 そこまで全力じゃなくていいから、怪我しないよう敵に見つからないよう、

 森を抜けてなるべく早くウチの隊を連れてくるんだ。」


「そうなの? じゃあこのまま行くわね。」


 あ、プルンが仕舞われて行く。じゃねえわ、急いでるのにこんなコントみたいな1コマいらんわ。


「ニクラス、お前は鼠人の流れに巻き込まれないよう注意しながら、

 目の前のリントナー男爵の兵に近付いて大声を出せ。


 鼠人が後方の食料を狙ってる、バックハウス男爵軍はそちらに向かうと。

 それから、敵の数が多いから救援を求むとも。


 できれば村の反対側の男爵の兵まで声が届くとなお良い。」


「分かったぜ、ご主人。行って来る。」


 俺は二人を見送るとそこに伝令役の少年を残し、クルト、ヴァルブルガと共にウチの荷馬車をもう少し森の奥へと隠す。しばらくすると、森を出たニクラスの怒鳴り声が聞こえて来た。とはいえ、すぐにはリントナー男爵兵も動かない。

 村の奥、および左手の森から飛び出したおよそ200の敵は、それぞれリントナー男爵本隊、ジーベル男爵の兵のところで少数が留まったものの、大半が村の手前のリントナー男爵別動隊の方へと流れて行く。その姿が見えてくるとやはり、鼠人か。

 およそ200の鼠人が俺の目の前を通って、村の前のリントナー男爵兵のさらに後ろへと向かって行った後、やっとウチの隊がここまでやって来た。何人かは鼠人を倒したのか、肩に担いでいる。


「レンさんよぉ、鼠頭の魔族を倒したぜ。報酬をくれや。」

「アルバンが鼠野郎に引っ掛かれて怪我しやがった。」

「おいおい、あの犬頭は何だ。」


 口々に(わめ)くゴロツキ共を無視して、俺は現状を話す事にした。


「報酬は戦いが終わってからだ。

 それより他の男爵が後ろに置いて来た食料が狙われている。


 無くなればウチのを寄越せと言ってきかねない。

 あいつらは向こうで別の魔族と戦っていて、仕方ないからウチで守る事にする。


 (さいわ)い食料を狙っているのは、弱そうな鼠頭の魔族だけだ。

 倒せば1頭銀貨5枚、ボーナスが欲しい者は稼ぎ時だぞ。」


「犬頭は強そうだが、鼠ならイケるか。」

「1匹銀貨5枚(5千円)だろ。俺、100匹倒してやるぜ。そしたら金貨50枚(500万円)か。」

「馬鹿、金貨10枚だろ。お前、頭悪いな。げひゃひゃひゃ。」


 俺が話し始めてもガヤガヤと騒ぐゴロツキ共。お前ら小学生か。くそ、コイツ等。どうでもいいが100匹で金貨5枚(50万円)だぞ。両方違うじゃねぇか。


「ヤン隊長、ウド隊長、そこの犬頭を迂回して、後方の食料置き場に行ってくれ。

 人間同士で食い物の奪い合いなんてしたくないから頼むぞ。」


「へっへっへっ。分かりやしたよ、旦那。

 お前ら、しぃっかりと働けよ。」


「ああ、アレだ。お前ら赤隊に負けんじゃねぇぞ。

 負けたらブッ飛ばしてやんぞ。」


 少しはその気になったのか、赤隊、黒隊のゴロツキ共がいそいそと鼠人を追って行く。問題はアヒムが犬人との戦いに突っ込んで行ったせいで隊長のいない緑隊か。


「ニクラス。緑隊はお前が率いろ。

 無理はさせなくていいから、遠くから石でも投げさせて赤隊と黒隊の援護をさせるんだ。」


「了解だ、ご主人。」


 俺はヴァル達を引き連れて、緑隊の後ろからついて行く。とはいえウチの隊だけで鼠人撃退は無理だろう。村の前のリントナー男爵の兵が早く犬人を討伐してコチラに来てくれればいいが。

 村の中の敵とジーベル男爵の戦いは男爵が不利だが、村の左手のリントナー男爵本隊は鼠人の混乱からすぐに立ち直るだろう。元々、各隊は村を包囲して乗り込むハズだったから、リントナー男爵本隊はジーベル男爵の加勢に行く可能性が高い。

 とにかく援軍が来るまでに食料をどれだけ守れるかがポイントか。俺がそんな事を考えていると、浮浪者の様なジジィが来て、俺の裾を引いた。臭い、ってコイツ、面接の時にいなかった穴の開いた帽子のジジィか。何なんだよ。


「朝飯はまだかのぉ。」


 村に来る前に食っただろう。ダメだコイツ、ボケてやがる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ