表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/234

どうする魔族

 村の周囲を囲む様に森の中に現れた魔族は、そのまま森を出て村へと向かう動きを見せる。その数、おおよそ300、村の反応と合わせて360で人間側200に対して数的有利は逆転された。今、村の中にはジーベル男爵の兵、村の外にリントナー男爵の兵、そして森の中にはウチの兵がいる。つまり、真っ先に魔族と接敵するのはウチだ。

 森の中の魔族は俺達よりもウチの兵に近い。今から伝令を出しても間に合わないだろうし、俺にも何とかする策も無く、策があっても未熟な兵では急な対応は無理だろう。無駄死になるので、俺は伝令の子供を出すのを止める。

 まあ、今のまま森に隠れていた方が生き残る可能性が高いだろうし、魔族に手を出す者もいるだろうがそれは自己責任で生き残ればしっかり報酬を出してやろう。


 次に俺は目の前で行われているリントナー男爵別動隊と魔族の戦いにも注意を向ける。予想通り犬頭の魔族達だったが、その姿は同一の生物には見えなかった。

 先頭の魔族が全高2m近い犬そのものが立ち上がった様な姿であるのに対して、大半の魔族は全身を毛で覆われた大柄な人間の体に犬の頭を持つ様な姿で、さらに少数はほぼ人間の姿に犬耳と尻尾を付けた様な者もいる。

 先頭の赤茶毛の犬率90%に率いられた魔族達は、最初の衝突でリントナー男爵配下に被害を与えた後、約20体で50人近い残りのリントナー男爵の兵と互角に組み合っている。そこにアヒム達が突入して行ったが、どちらの邪魔になっているかは分からなかった。


 それを眺めている内に、森の魔族がまずウチの隊と接触した様だ。どうやら大半の者は隠れたままやり過ごしたものの、手を出した者がいた様で森の魔族の一部が残って交戦を始めた様だ。

 そこから少しして村の左手でもリントナー男爵本体の戦闘が始まり、さらに村の中でジーベル男爵の兵と村の中の魔族、そして森からそこに合流した魔族との戦闘が始まった。


 俺は探知スキルで戦場全体の形勢に注意を払いつつ、目の前で行われているリントナー男爵別動隊と犬頭の魔族との戦闘を注視する。最初の衝突で押されたとはいえ、所詮20体程度。態勢を立て直したリントナー男爵兵50が盛り返している。

 その中でも男爵兵が手を焼いているのは、先頭のほとんど立ち上がった犬の様な個体だろうか。それに続く犬の頭と人に近い体の魔族達が前面に出て奮戦しているが、犬耳としっぽだけで人に近い魔族達は左右に広がった男爵兵に側面を取られて押し込まれて行っている。

 少なくとも目の前の魔族達に関しては、獣度が高い程強力な個体の様だ。このままなら男爵兵が有利に進めるのだろうが、反応は小さいが数の多い敵が村の左右から合流しようとしている。


「ご主人様、味方に加勢しよう。」


「待て、村の中でも村の向こうでも戦いが始まった様だ。

 それに見ろ。」


 俺はリントナー男爵の兵に加勢したくてウズウズしているヴァルブルガを引き留めて、村の右手の森を指さす。そこには無数の獣の様な生き物が飛び出してくるのが見えた。大きさは10歳の子供程度だろうか。全身毛に覆われた狸か鼠の様な姿だが、よく見ると時折二足で走っている。


「うぁわ~~~っ、何だコイツら。」

「どっから沸いた。」

「落ち着け、隊列を乱すな。」


 鼠人に気付いた目の前のリントナー男爵別動隊が声を上げる。鼠人達は村の手前で犬人と交戦していた兵士達のところに雪崩れ込んだ。あっ、アヒムが鼠人に取り付かれて倒れた。犬人を半包囲していた男爵兵は、今度は逆に半円陣を組んで守りに入る。さすが職業軍人は対応が早い。

 そこにさらに村の左手のリントナー男爵本隊、村にいるジーベル男爵隊を抜けた敵が合流しようとしている。この数に襲われれば、さすがの職業軍人も終わったか。だが、そこで俺は鼠人の動きに疑問を感じた。

 最初に村の手前のリントナー男爵兵に雪崩れ込んでいった鼠人の大半が、横を抜けて林道を進もうとしている。もともとウチの隊の所に10体程度が留まり、さらに約20体が村の前に留まったが、残りは別動隊の横をすり抜けた。そして村の左手、村の奥の森から出て来た敵が同じ動きをするなら、200を超える敵が別動隊の後ろを目指している事になる。


 鼠は捕食者からは迅速に逃げ出すが、安易に近づけば時に人間に襲い掛かる凶暴さも持つ。また、数匹から数十匹の群れでテリトリーを作り同族を排除する性質があり、ハダカデバネズミ等はアリの様な完全な社会性を持って女王、王、兵隊、そして労働者の階級社会を形成する。そして、1日に自分の体重の1/4~1/3の量の餌を食べる。

 鼠人が鼠に近い性質を持つなら、そして村を襲った魔族が村の食料を食い尽くしているなら、人間と無駄に戦うよりも食料の確保を優先するかもしれない。村の入り口に陣取ったリントナー男爵の兵の後ろには何があるか。

 それはリントナー男爵、そしてジーベル男爵が持って来た物資、特に食料を置いた拠点である。その食料が失われれば、ここに来た軍全体が立ち行かなくなる。つまり、局所的な戦いの結果に寄らず撤退、場合によっては食料不足で壊滅する。


 やべぇ、どうする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ