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タラ、ディア

 リントナー男爵、ジーベル男爵の軍が村を包囲する前に、ウチの隊は村の右手の森に隠れなくてはならない。俺はウチの隊のところに戻ると作戦を説明した。


「ウチの隊は直接魔族と戦うのではなく、取り逃がしを防ぐ為に森の中に潜む役を勝ち取った。

 戦わずに済ませられるのは、君らも望むところだろう。」


「そりゃあ、ありがたいぜ。」「旦那、分かってるぅ。」「そんな、俺の伝説が。」


 戦う可能性が低いと話すと安心した様だ。さらに俺は村から見えない程度ではなく、近くにいても分からないくらいしっかり隠れて、通りかかったところを襲えと言った。コイツ等の戦闘力は全く当てにならないが、複数で死角から不意打ちすれば何とかなるだろう。

 さらに俺は魔族を倒した者には追加報酬を払うと約束した。報酬は犬頭の魔族1匹銀貨50枚(5万円)、鼠頭の魔族1匹銀貨5枚とした。おそらく犬頭は10匹も抜けて来ないだろう。来た時はまあ、仕方ない。鼠頭はゴブリン並みに弱いというから銀貨5枚でいいだろう。

 追加報酬でやる気を出してくれればいいが。報酬は魔族の死体を持って来る事を条件とした。証拠が無いと水増し請求され放題だろうし、魔族だと言って犬の首や人の手でも持ってこられたら判別できるか分からないからな。


 


 そうして俺は道沿いに森の中を隊を進めさせ、村の右手側奥から赤隊、黒隊、緑隊の順に隠れさせた。探知スキルによると森の中の反応はここよりもっと奥にいて、少し動いてはいるがこっちに来る様子はない。村の中の反応は家屋の中等に隠れているのだろう、こちらも出て来る様子はない。

 俺とヴァルブルガ、クルト、ニクラス、ヤスミーンは緑隊よりもやや村より離れた森の中、狭い空き地に馬車を停めただけのところをウチの隊の基地としてそこにいる。ここから緑隊の子供を伝令に使って各隊が隠れ終わった事を確認し、再び子供を使ってリントナー男爵に準備が終わった事を伝えた。


 しばらくすると、ジーベル男爵の兵から順に村へと近付いて行く。ジーベル男爵を含めて5人程度が馬に乗っているが、残りは全部徒歩である。ジーベル男爵本人とその周囲10人くらいが彼の取り巻きなのか、装備の質が良く、革鎧の上に部分的に金属の覆いがある。

 残りは装備の質は下がり、一部が革の鎧を付けているものの、ほとんどはただの服の様に見える。ただ、武器に関しては槍や剣などちゃんとした武器を持っている者も多く、元々戦場で名を上げようとしていた者達が自前の武器を持って集まったのだろう。

 ちなみにウチの隊ではまともな武器を持っている者は少なく、基本は棍棒というか、どこかで拾った様な太めの木の枝から細い枝を払った様な物が多い。この時点でまだ、魔族に動きは無い様だ。


 ジーベル男爵の兵士が全て通り過ぎると、リントナー男爵の兵士が通る。リントナー男爵も含めて騎乗している者は、ジーベル男爵軍よりもやや多いものの10人に満たない。しかし、半部以上の50人程度が揃いの革の鎧で武装しているし、7割以上が同じ様な槍を装備している。

 やっぱり領地持ちの財力の差なのだろう、配下の武装の質がジーベル男爵とは違う。そうしてリントナー男爵軍の移動を待っていると村の中で動きがあった。探知スキルによると、村に潜んでいた魔族と思われる反応の内、20体程度が村の正面に飛び出して来た。

 俺のいるところからはやや距離があるが、人影が村から飛び出し、移動している最中のリントナー男爵の後列の兵へと襲い掛かっている様だ。陣が整う前に攻めかかって来たので多少混乱はしているが、一番練度の高そうなリントナー男爵の兵だ、すぐに対応するだろう。


 しかし、その喧騒が聞こえたのだろう、村の後ろ側に配置されていたジーベル男爵の軍が村の中へと進行を始める。ここで、村の左に展開したリントナー男爵の本体50人は停止したまま、リントナー男爵の後部部隊50人は飛び出した人影を押し包もうとしている。

 連携は崩れてしまったが、相手は小勢だ。大勢に影響は無いだろう。村に残った反応も、森の中の反応もそのままだ。ひょっとすると村の中で迎え撃つつもりが、魔族側でも一部が暴走して飛び出してしまったのかもしれない。

 俺は魔族を見ようと緑隊の子供2人を伝令役として連れ、もう2人を留守番役に俺達の基地に残して移動を始めた。俺達の配下の3隊にはその場で動かず、敵が来たら攻撃する様に命じているので、俺達が少し基地を離れても問題無いだろう。


 だが再び飛び出した奴がいた。今度は魔族ではない。しかも他の男爵の隊ではなく、ウチの緑隊のアヒム達若者7人だ。なお、緑隊でも他の者は続かない様だ。アヒム達が雄叫びを上げてリントナー男爵の後部部隊に合流しようとする。


「タラ、ディアッ!」「タラ、ディィィーーーアッ!」


 ちなみにこのカウマンス王国で昔から戦士層に信仰されている戦神がタランディンというが、彼らの叫びは"戦神タランディンよ、照覧あれ"という意味らしい。叙事詩的な言い方なのでリアルで聞いたのは初めてだが。

 それにしても馬鹿が、無駄に危険に飛び込みやがって。ウチは怪我せず、討伐に参加した実績を作って帰るだけでいいのに。

 俺がそう思っていると、探知スキルが新たな敵性反応を知らせて来た。嘘だろ。森の中の反応が20、50、100、200、…と増え始めている。


 これってピンチじゃね。

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