ノルデン山脈の麓
俺とジーベル男爵が揉めてる様子は注目を集めたようで、次第に視線が集まって来た。それを嫌ったのか、元々無理筋の話と分かっているからか、ジーベル男爵は罵声を浴びせた後、自分の兵の元に帰っていった。
その後に呼ばれた作戦会議では俺の他は貴族本人と少数の配下が集まり、コースフェルト伯爵の配下から今後の予定について説明を受けた。まず魔族に制圧された村は4つあるらしい。伯爵としては十分な兵数を揃えたと考えており、速やかに終わらせる為に兵を分けて同時攻撃するという。
兵の分割は、伯爵の領内中央北側の村にコースフェルト伯爵軍本隊350人、中央南側の村にコースフェルト伯爵軍別動隊150人とデーネケ男爵軍100人、北の村にビットマン子爵軍200人、そして南の村にリントナー男爵軍100人、ジーベル男爵軍50人、バックハウス男爵軍50人となった。
会議と言いつつ伯爵の前で伯爵の配下からの通達ばかりで、子爵がたまに質問するものの男爵達は頷くだけだった。これが貴族社会か。もちろん俺は黙して語らず、男爵達と一緒に頷くだけだった。いや、あの場でしゃべるのとか怖いし。
作戦会議から2日の間は全軍で東進し、やや広めの空き地に到着した。ノルデン山脈の麓は森で覆われているので、広めの空き地はあまりないらしい。ここを作戦完了後の合流ポイントとして全軍で確認し、その後に軍を4つに分けた。
俺達は、リントナー男爵軍を先頭にジーベル男爵軍、バックハウス男爵軍の順で列になって目的の村へと進んだ。格的には領地持ちのリントナー男爵、農場主のバックハウス男爵、無役のジーベル男爵の軍の順で進むのが慣例らしいが、ジーベル男爵がごねるので俺が譲った形だ。
バックハウス男爵の体面的には良くないかもしれないが、ジーベル男爵って面倒臭いし、平民の俺を代理人にして本人が来ないんだからこれぐらいサボっても文句は言わないだろう。あの人、あんまり怖くないし。
行軍の間は毎日午後3時~5時くらいに見つけた空き地に野営した。3つの軍は揉めない様に少しづつ距離を開けて野営したが、天幕に泊まるのは男爵本人と一部の士官だけで大半の兵は自分で持って来た毛布やマントに包まって寝ていた。
食料に関してはそれぞれの軍が荷馬車で持って来たパンや干し肉等で済ませていたが、他の軍は柴を集める傍ら時々鹿や猪など狩って足しにしていた。ウチの隊に関しては、ニクラスが捕まえた1~2匹の兎を剣呑な気配の赤・黒・緑の3隊にも切って渡す事になった。
赤・黒隊のゴロツキ共は食料集めもしないだけでなく、森の奥に入り過ぎてゴブリンに追い立てられたり、緑隊の子供の拾って来た柴を巻き上げたりしてるんだよな。まあ、俺が口を出すつもりは無いので、隊長達が自分で調整するといいだろう。
ちなみに赤・黒・緑隊にはそれぞれ自分達の糧食、石の様に焼き固めたパンと干し肉を1日分ずつ入れた麻袋30袋と2日分の水がめ、を積んだ1台の馬車を引かせており、足りなくなっても補充は無いからしっかり守れと言ってある。
誰から守るかと言えば、200人の軍団に突っ込む様な命知らずのゴブリンよりも、他の男爵家の兵士やウチの軍内の他の隊や、同じ隊の仲間からとなるだろう。
ペルレを出て5日後、合流ポイントから3日後に目的の村が見える所まで辿り着いた。その村は森に囲まれており、ぐるりと木の柵で囲まれた数軒の家屋が建っている部分とその周りを囲む畑に分かれている。
さて、久々に探知スキルに反応があった。家屋の中に人間大の反応が60、森の中に小さな反応が10、いや20か。森の外は数が少ないから伏兵という感じでも無いだろう。反応も弱いし魔族の中の非戦闘員が避難しているといったところか。
村の中の魔族は、リントナー男爵、ジーベル男爵の隊で十分対処できそうだから、ウチの隊は村の外の敵の相手をしてお茶を濁すぐらいで丁度いんじゃないだろうか。さて、話をどう持って行くか。
行軍は先頭が村まで約500mのところで停止した。リントナー男爵が偵察を出したが、村の外から見えるところには魔族の姿は無かったという。そこでリントナー男爵、ジーベル男爵と俺とで話し合いが持たれた。
ジーベル男爵は自分の隊を先頭に村に雪崩れ込めばいいと主張しているが、俺は森に潜んでいる敵の可能性を示唆した。
「で、どうしようというのだね。」
リントナー男爵が俺に対応策を聞く。
「例えば、
ジーベル男爵様と私の隊で森の中を左右から近付き伏兵を探すというのはどうでしょう。
伏兵がいなければそのまま村を包囲して攻撃を開始してもいいと思います。」
「ふむ。」
悩む様子のリントナー男爵に、ジーベル男爵が吠えた。
「却下だ。
そんなまどろっこしい事をしなくても村へと突撃し、中の魔族を殲滅!
伏兵がいても当たるそばから引き千切ってくれるわ。」
リントナー男爵はジーベル男爵の様子を見て口を開く。
「畑まで進んでそこで陣を張ろう。
レンの手勢は右手の森に潜んで取り逃がしに備え、伏兵の探索も行ってくれ。
ジーベル男爵は左から村の後ろに回り込み、我が軍は村の左と正面に陣取る。
準備が整ったら同時に攻める。」
リントナー男爵がうまく折衷案を出してくれたが、えっ、ウチが一番忙しくない?




