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魔族討伐軍の集合

 兵士の面接から4日後、俺達はペルレ郊外に兵を集めてさらにコースフェルト伯爵の軍に合流した。なんか兵士の中に面接の時にはいなかった、真上に穴の開いた帽子をかぶった汚い(じじい)がいる。一部の兵士は先日と入れ替わっているが、まあ問題ないか。


 コースフェルト伯爵の元に集まった軍は概算で以下の通りである。コースフェルト伯爵軍500人。ビットマン子爵軍200人。ここまでは完全に常勤の兵士ばかりである。

 続いてリントナー男爵軍100人。デーネケ男爵軍100人、ジーベル男爵軍50人、そしてバックハウス男爵軍50人。これらは先に挙げた軍ほど常勤の兵士が多く、後に挙げた軍ほど傭兵の割合が増える。まあ、バックハウス男爵軍は指揮官(俺)も含めて100%外注だが。

 これで魔族討伐軍の合計は凡そ1000人、レオナがペルレで調べた予測の中でも多い方だ。これで魔族の力が人と変わらないくらいで、数が予測通り300匹くらいなら十分討伐出来るだろう。


 合流時にはバックハウス男爵も立ち合い、コースフェルト伯爵に代理として俺を紹介した。コースフェルト伯爵は40代くらいの長身の男で、戦士の様な筋肉は無いが偉い人間というか、いかにも貴族然とした厳しい風格と威圧感のあるオーラを持っている。

 伯爵は俺に大した興味も示さず、そうかと言って作戦会議への参加を認めて面会を終えた。でもかなり怖かった。俺とバックハウス男爵が伯爵の前を辞した後、俺はバックハウス男爵が農園に戻って行くのを見送った。

 そして俺が自分の兵の元に戻ってみると、緑隊(グリーンチーム)の隊長アヒムが見知らぬ戦士達と話していた。きっと他の貴族家の兵士だろう。ひょっとしたら平民ではなく、貴族の子弟かもしれない。楽しそうに談笑しているが、何だか不穏な感じがする。


「お話し中、申し訳ない。

 私はバックハウス男爵の代理として今回の行軍に参加しているレンと申します。


 そちらのお名前は。」


「ふむ、お前がか。

 俺はジーベル男爵だ。」


「これは失礼を。

 ところで我が方の兵と何のお話をされていたので。」


「何、この者達は俺の軍への参陣を希望していたのだが、

 俺の方にも都合があって断ったのだ。


 それで俺が断った後にお前の軍に参加したというわけだが、

 コイツ等はなかなか意欲があってな。


 俺の兵と手柄を立てれば認めてやってもいいと言っていたのだ。」


 何言ってんだコイツ、アヒムをくれって言ってるのが。冗談じゃないぞ。コイツ等が抜けるとうちの兵が50人を切って面目が潰れちまう。そんな事を考えていると、アヒムが満面の笑みでしゃべり始めた。


「レンさん、俺はジーベル男爵様と一緒に戦いたいです。

 そしてバッタバッタと魔族を切り倒し英雄としての賞賛を受けるのです。」


「うむ、その意気や良し。」


 呆れている俺を置き去りにジーベル男爵とアヒムがペラペラと話し続ける。


「レンさん、いいですよね。」


「いいわけあるか。」


 俺はアヒムに怒鳴るとそのままジーベル男爵に向き直る。


「ジーベル男爵様、アヒムを引き抜くとおっしゃっているのですか。


 それはバックハウス男爵様の代理として決して承諾できません。

 それでは我が軍の兵が減り、男爵家として面目が立ちません。」


「レンよ、何もお前の兵を取り上げようというわけではない。

 ただ、お前は商人で用兵の経験もないのだろう。


 だから、お前の兵も俺の命令に従った方が効率が良いだろう。

 その方が戦果が期待できる。」


「そうですよレンさん。

 俺が一番活躍してみせます。」


 おいおい、引き抜きどころかウチの金で雇ったまま、自分の兵として使おうと言うのか。きっとアヒムが手柄を立てればその功績は自分の物、そうでなくても煽って自分の兵の盾にしかねない。

 このジーベル男爵は代官職を取り上げられて立場が微妙と言っていたか。それで戦功を上げたくて本当はもっと兵が欲しいが、金が足りなかったのだろう。そう言えば、ジーベル男爵の兵は公称50人と言っていたが、ちょっと少ない様にも見える。

 これは相手が貴族でも流されちゃダメな奴だ。そうだな、コイツがアヒムを使うなら俺はアヒムに金は払わない。それに引き抜くならコースフェルト伯爵にチクると言えば、引き下がるかもしれない。


「ジーベル男爵様、どうしてもとおっしゃるのであれば彼を解雇します。

 その後はご自由になさって下さい。


 ただし、我が軍の人員が交戦前に減った理由に関しては、

 コースフェルト伯爵様にご報告します。」


「おいおい、ケチくさい事を言いやがって。

 そんな些事で伯爵様の手を煩わせるな。


 俺が上手くやってやるから信用しろ。

 お前は平民なのだろう、貴族の俺が信用できないって言うのか。」


 当たり前だろ、何で初対面の横柄な奴を信用できるんだ。まあ、本人の前で言いはしないが。


「ジーベル男爵様、もちろん私は貴方(あなた)を信用しています。


 ですが、私はバックハウス男爵様の代理ですから、

 バックハウス男爵様に命令された事以外は勝手に出来ないんです。


 ご要望に沿えず申し訳ありません。」


「ふん、生意気な平民め。」

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