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王都に行く

 レオナに留守番を任せた俺達は、ダーミッシュ商会に行った翌日にペルレを出ようとしていた。今回は馬車一台に帝国製生地などの手元に残ったマニンガー公国から持ち帰った品、ペルレで仕入れた迷宮産の物資を載せ、ヴァルブルガとクルト、ニクラス、ヤスミーンを連れて来ている。

 その声が聞こえたのは、そんな俺達がペルレの外門を出ようとした時だった。


「あっ、レンさん。お久しぶりですね。

 ひょっとして王都に行くんですか。」


 マントのフードを跳ね上げたのは、黒髪のポニーテールを背中まで伸ばした少女。前で合わされた膝下までのマントの隙間からは、膝上丈の(ひだ)のプリーツスカートとそこから伸びる生足が見える。チラリとしか見えないからこそ、生唾を飲み込むが、こんなスカートを穿(はく)()は一人しかいないだろう。


「アリスさん、お久しぶりですね。

 はい、商用で王都まで行くところです。」


 俺はマントの隙間から生足を(のぞ)いた事を億尾(おくび)にも出さず、落ち着いた声を(よそお)って返事を返した。たぶん、バレてはいないだろう。


「わ~あ、偶然ですね。私もなんです。

 あの、私も一緒に行っていいですか。」


 この時、俺とヴァルだけが馬車の御者台に座っていて目線が高い。必然的にアリスは下から見上げる形になっているが、上目遣いに見られている様な形にもなっていて可愛いてグッと来る。俺は気付くと了承し、御者台の後ろの荷台に彼女を乗せていた。

 道中、お互いの近況を話しながら行ったが、彼女の所属する冒険者パーティ『財宝犬(トレジャードッグ)』は、一人が負傷して休業中らしかった。もっとも魔法で治療したので1週間もすれば復帰できるらしい。その間、アリスは物見遊山に王都に行くという。

 うん、物見遊山に3日も掛けて魔物の出る隣街まで単身で行こうというのは、現地の人々とは違う感性なのだろう。それが可能なのは、彼女の異常な戦闘力故か。やっぱり彼女はラノベ主人公みたいだ。いまだにマントの下はセーラー服で通しているらしいし。


 俺がチラリと振り返って彼女を見ていると、それに彼女が気付いて声を掛けてくる。


「あ~~~っ、レンさん、パンツ覗いてますねぇ~~~。

 もう、えっちなんだからぁ~~~。」


 そう言って、パンツの辺りを両手で隠す。彼女は荷台の木箱の上で、所謂(いわゆる)体育座りをしていたのだが、立てられた膝のせいで少し吊り上げられたマントに隙間が出来て、揃えられた足首の向こうに生太ももが見えていた。


「いえ、木箱の上は座り(づら)くないかと心配していただけですよ。

 問題無いならいいんです。」


 俺はそう言って、慌てて前を見る。俺は決して足首の向こうにパンツが見えないかと、必死に首を巡らして隠れ見たりはしていないぞ。勘違いしてもらっては困る。


「そっか~~~。

 だったら、いいんです。」


 セーフ、セーフだよね。何かアリスがちょっと怒った様な、笑っている様な気がするが、気のせいだろう。そんな事を考えていると、横を歩いていたヤスミーンがぐるりと回り込んで、露骨にアリスのマントの中を覗き込んだ。


「アリスさん。

 下着を穿いていない様に見えるけど、その紐のような物が下着なの?

 何だか裸よりも卑猥ね。」


「おい、ヤスミーン、止めろ。

 部下に代わってお詫びします、アリスさん。」


 ヤスミーン、お前ほんと止めろよな。そりゃ、この世界の短パンみたいな下着とは違うが、アリスのだってTバックというわけじゃ無い。アレぐらいの股上の浅さは現代日本では普通だし。だいたい、競技場で裸ん坊万歳だったお前が言うなよ。


「ご、ごめんなさい。どうしても気になって。」


「えぇ~~~。

 こっちの方が可愛いと思うんですけど~~~。」


 言い訳をするヤスミーンだが、アリスは気にしていない様だ。ガールズトークのノリか、男(俺)がいるんだけど。


「本当にすいません、アリスさん。」


 とにかく、俺は話を広げないよう謝り倒した。俺の横でヴァルがうんうん、と頷いているのがムカつく。ぐるりと見回すと、クルトは何にも考えていない様に歩き続けているし、ニクラスは巻き込まれない様にか微妙に距離を開けている。




 それからも俺は王都までの間に話し続け、マニンガー公国行きの話をしたり、アリスの大迷宮探索について聞いたりした。また、コースフェルト伯爵の魔族討伐軍について聞いてみたが、アリスの『財宝犬』はそれには参加せずに、仲間の傷が治ったら迷宮探索に戻るという。

 うん、アリスは転生する際に魔族を倒せとか言われてないんだな。それにペルレで十分な収入が見込める冒険者パーティは遠方の魔族討伐にはあまり興味が無いようだ。まあ、収入が安定?していれば、自分の仕事と関係ない厄介事には関わりたくないだろうな。

 そうなると魔族討伐に加わる冒険者は碌な奴がいなさそうだし、戦力の本命は当たり前だが各貴族が抱える職業軍人なのだろう。だとすると、今回の討伐軍に職業軍人がどれくらいいるかが討伐のキーになる。レオナが各貴族家の常時保有戦力を調べてくれればいいが。




 俺が最初に王都からペルレに行った時にはトロールと遭遇して死にそうになったが、今回の王都への間には何とも遭遇しなかった。思えば俺がこの世界に来たのがだいたい1年前、王都を出たのが10ヶ月くらい前だろうか。王都の門を久しぶりに見て、俺は良く1年もこの世界で生き残れたと思うのだった。

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