俺は商人です、傭兵隊長じゃないんです
魔族討伐軍への代理参加を了承しちゃった俺だが、それはそれとしてこちらの要件も頼んでみる。
「ところで男爵様、私からも相談があるのですが。」
「ふむ、何だね。話してごらん。」
めっちゃ機嫌がいい。コースフェルト伯爵から参陣を要請されたのが、すげぇプレッシャーだったのだろう。それが解決(?)して一気に気が抜けたか。まあ、その重みは今度は俺に乗っかって来たんだが。だったら、その分こちらもお願いを通したい。
「実はこの穀物なんですが。
先日、マニンガー公国を訪れた際に手に入れまして。」
そうして稲作について俺は相談する。ヴァルヒ商会に相談したが、水が確保できなくて難しいと言われたこと。小規模な実験農場を造りたいが、場所に当てが無いこと。ハイモを紹介し、この男がマニンガー公国で米を作った経験がある事など。
それを聞いたバックハウス男爵は農園の端に沼があるから、そこでやったらどうかと持ち掛けられた。そこは農園の柵の外ではあり、魔物や盗賊に襲われる危険はあるものの、ある程度遠くまで見渡せるので、何かあれば柵の中に逃げ込めるだろうと言う。
俺はそこをハイモと一緒に見に行った。ハイモは柵の外でもあるし、一人で作業をする事に抵抗を示していたが、男爵の言う通り敵がいても近付かれる前に柵の中に逃げ込めると判断した。俺はとりあえず一年間、沼を借りる事とハイモを農園に寝泊まりさせてもらえるよう頼んで、了承された。
「おいおい、レンさんよ。
アンタは雇い主だからなるべく言う通りにやるけどよ。
これから冬になるのに、稲を植えたって育つわけないだろ。」
「俺の故郷には二期作というのがあってな、年に二回取れれば生産効率が上がるだろう。
まあ、春の本番前の予行練習としてダメもとでやってみてくれよ。」
ハイモは何やかやと抵抗したが、俺は冬の間も10~20株くらいでいいから栽培を試してみて、足りない物をリストアップするよう命じた。ペルレ周辺では稲作なんてやっていないから、ちょっとした物でも入手に時間が掛かる事もあるのだ。
二期作が出来れば最上、出来なくても不足品が分かればそれだけでも価値はあるだろう。俺はまだ文句を言い続けるハイモをおいて、男爵の元を辞した。ハイモの奴、バックハウス農園で問題を起こさないと良いな。
あ、一応男爵にはマニンガー公国のお土産として、帝国製の銀食器セットとゲアリンデに真鍮の小鳥の置物を渡しておいた。これには今後ともよろしくという意味といい仕事を回して欲しいと言う意図があったのに、飛んでもない仕事を回されてしまったが。まあ、稲作の話もあったし、いいか。
バックハウス農園からペルレに帰ると、まだ夕方というには早い時間だった。もう一仕事いけると考えた俺は、ヴァルブルガとクルトを連れて久しぶりの冒険者ギルドに行った。ちなみに、ニクラスにはヤスミーンに戦闘訓練をさせている。あれ、夕方なにか用事があったっけ。
「ん~~~、魔族討伐の兵士の募集ですか。
バックハウス男爵様の代理と。
ん~~~、リントナー男爵様、ジーベル男爵様からも同じ募集が掛かっていますね。」
俺は冒険者ギルドに行くと、ペルレに来た時に最初に話した職員、ベティーナさんに兵士の募集が可能か相談してみた。うん、相変わらずゲルルフさんは寝てるし、フロレンツ君はイライラしてるし、イルメラさんは近付くなオーラを出している。隙があるのがベティーナさんだけなんだよな。
彼女によるとリントナー男爵は食事は男爵持ちで武器は自分持ち、報酬は最大1ヶ月の行軍全体で1人金貨4枚(40万円)、募集人数は50人。ジーベル男爵は食事も武器も自分持ちで、報酬は交戦1日当たりで1人金貨1枚(10万円)、募集は20人。どちらも途中逃亡は無報酬な上に違約金が課せられる。
う~ん、逃亡した相手から違約金が取れるか分からないが、こちらはどんな募集にしたものか。リントナー男爵型の報酬では半額くらいしか出せないし、ジーベル男爵型でも交戦が2日以上になると赤字だ。うん、食事はこちら持ちで1人銀貨50枚+戦場での出来高、隊長格は報酬UPとするか。
両男爵の余り者しか来ないだろうが、それは最初からか。俺はコースフェルト伯爵との合流5日前にペルレ郊外で審査するとして、ギルドに募集依頼を出した。これは両男爵の審査予定日より少し後、今から9日後だ。
募集の開始が遅かったし、どうせ両男爵の募集より前に決めても、流れる者が出るだろう。問題はそれで50人集まらない場合だが、その場合はその辺の酔っ払いでも攫って行くか。あ、両男爵の年齢制限が15歳から40歳になっているから、俺は13歳から45歳にするか。
とにかく俺は冒険者ギルドで兵の募集を出してから、クラン『銀蟻群』の事務所に戻る事にする。そうして事務所の前まで戻って来た俺だが、その入口に一人のロリが涙目で立っているのが見えた。いや偽装ロリか。
「レンお兄ちゃん、私が来るって知ってたよね。
レンお兄ちゃんが話したいって言ったんだよね。」
既にお分かりとは思うが、マニンガー公国まで一緒に行った少女レオナだ。ごめん。忘れてたよ。




