棒を持った男達
そう言ったのは一番大柄な男だ。
「俺に何か用事か。」
え、トラブル? 俺、何かした?
「オラ達はバックハウス農園で働いている者だ。
男爵様がアンタを呼んでるだ。」
バックハウス男爵が俺を呼んでる。それはいいが、5人もの男達が武装して詰めかけているんだ。すぐに襲って来るとか、掴みかかって来るという雰囲気でもない。というか絵面的には武力衝突寸前だが、男達には敵意とか警戒とか緊張とかはなく、まるでただ立ち話をしているだけの様だ。
棒を持った男達に取り囲まれた事で動揺していたが、よく見るとコイツ等武闘派という風体ではない。街の人間でもなく、どちらかというと農夫だ。いや、本当に農園の農夫なんだろう。でも、何でこの人数で棒なんか持って俺のところに来たんだ。
俺が戸惑っていると、男達は身を返して帰ろうとする。
「じゃ、伝えたかんな。」
「おい、どこに行くんだ。
それに男爵様は俺に何の用だって言うんだ。」
不意を突かれた俺は、咄嗟に男達の背中にそう声を掛けた。
「せっかく久しぶりに街に来たかんな。
買い物をして行くっペ。」
この男達から話を聞くと、彼らはバックハウス農園の労働者で男爵の命令で俺を呼びに来たらしい。人数が多かったのは、農園とペルレの間で出る盗賊避けだったとか。彼らはこれから農村の生活物資を色々買って帰るという。
因みに彼らも男爵が俺を呼び出す理由は知らなかった。あ~あ、まだペルレに帰って2日なのに、また面倒事じゃないだろうな。俺が事務所の前でそんな風に落ち込んでいると、一人の男が通りかかった。長身で長剣を持った男だ。
「よう、いい事あった様じゃねぇか。
ちょっと、酒代が足りなくなったんでくれよ。」
ユーバシャールから来た面倒事はそう言った。
「…はい。」
俺はそう言うしかなった。
「よく来てくれたね、レン君。
実は折り入って相談があってね。」
そう言ったのは俺の前に座るバックハウス男爵だった。ふくよかなで平和的な笑顔を浮かべているが、目の奥には真剣な光がある。その隣には娘のゲアリンデもいるが、笑顔が固い。
俺は男爵からの使者が帰った後、ヴァルブルガとクルト、ニクラス、ヤスミーン、それにハイモのフルメンバを連れてバックハウス農園に向かった。バックハウス農園に着いた俺は、すぐに屋敷の応接室に通され男爵と面会する。
男爵の相談とは、コースフェルト伯爵に要請された兵士の派遣についてだった。そう、伯爵の領内に出た魔族討伐の派兵だ。男爵は農業についてはよく知っているが、武力はさっぱり。それに農夫を多く抱えているが、兵士は0だと言う。
そこで大迷宮での経験を買って商人の俺に兵を集めて、男爵の代理で魔族の討伐に行ってくれというのだ。そういうのは傭兵でも雇えよと思ったが、貴族の癖にコネが少なく傭兵を雇う伝手が無い、むしろその伝手が俺だと言うのだ。
一応、期間を聞いてみると曖昧な答えしか返って来ないが、コースフェルト伯爵領の魔族に襲われた村までがペルレから最短4日。2週間後にコースフェルト軍とペルレの近隣で合流、行軍して魔族を討伐、帰って来て1ヶ月くらいを見ておくか。
報酬についても聞いてみたが、経費込みで金貨100枚(1000万円)で何とか出来ないかと言われた。兵士については家格から最低50人以上は欲しいと言うので、単純計算で金貨2枚(20万円)/人・月だろうか。う~ん、微妙だ。
確かペルレを探索する冒険者が荷物運びを雇う場合、6区までなら1日銀貨10~20枚、7区以降なら1日銀貨30~40枚が相場だったか。うん、拘束時間を日割りで渡すのは無理だから、移動は食事の支給ぐらいで戦闘の実働日で払うくらいか。
確か戦国時代の足軽は、移住食が主人負担だったものの給与はほぼ無かったとか。その代わり戦場では略奪の許可が出てそれが報酬になっていたと聞いた事がある。今回の場合、コースフェルト伯爵の村の奪還だから略奪はダメだろう。魔族が宝でも持ってたらいいが、期待は出来ないよな。
そうなると、うん。常識的に考えてほとんど戦えない、もしくは信用の出来ない人間を数だけ揃えてお茶を濁すくらいしか出来ないだろう。それぐらいしか出来ませんが、と男爵に言ったところそれでいいと言われてしまった。大事なのは男爵家として50人出したと言う事実だと言う。
それでも戦場に行く前に逃げてしまうとマズいので、敵とちゃんと交戦する事と、真っ先に逃げない事が求められる。う~ん、こうなると報酬は逃げずに戦ったものだけに渡すと言って、半数が逃げる計算で雇う傭兵?の報酬を決めて人を集めるか。
半分、兵を騙す様にして戦場に連れて行かなければいけないが、どこもそんな物かもしれない。どっちにしろ、貴族に頼まれれば断るわけにはいかないか。しかも以前の会食で口約束とはいえ、男爵の依頼があれば出来るだけ努力すると言ってしまっている。
「承知しました。微力を尽くします。」
すご~く嫌々ながら俺が依頼を受けると、男爵は大喜びして俺に頼むと言っていた。娘のゲアリンデもめっちゃニコニコだ。俺はガックリだが。




