留守中の変化
それから最後のアントナイトとミスリル銀の選別は、今はダーミッシュ商会の別の建物で行っているという。どうも他の商会もヴァルヒ商会、ダーミッシュ商会、『赤い守護熊』の関わる『銀蟻群』が、アントナイトを採掘するだけか怪しみだしているらしい。
そこで最後の選別をダーミッシュ商会の抱えている女奴隷にさせ、彼女達は基本的にその建物から出さない。こうする事で外の者には採掘したアントナイトに他の物が混じっている可能性を気づかれ難くしている。
また力の弱い女奴隷の方が採掘のできる男奴隷よりも安いので、迷宮の中での採掘は男奴隷に任せ、地上の軽作業は女奴隷にする事で補充コストを下げる狙いもある。これは俺にも理解できるので、否やは無い。
「それでペルレには魔族の影響は無いのですか。
マニンガー公国やペルレまでの道中でも色々と聞いているのですが。」
「ああ、それなんだけど。
ペルレ周辺には現れないものの、コースフェルト伯爵領の東、ノルデン山脈の麓では随分と村々が荒らされているらしくてね。
伯爵様は近々大規模な討伐隊を出すらしいよ。正直なところ、まだそこまでする必要はないというのが巷の見解なんだけね。」
そっかぁ。まあ、ペルレ周辺でなければ俺は関係ないけど、東には近づかないよう気を付けよう。コースフェルト伯爵領はペルレ周辺とペルレの南のライマン、そして東のノルデン山脈までとなっている。伯爵様が討伐してくれるなら、この辺は安全になるんだし。手も金も出さないけど、心の中では力の限り応援してますよ、伯爵様。
それからは、マニンガー公国へアントナイトの輸出をどうしていくかが話し合われ、今ユーバシャールでアントナイトの需要が高いなら、すぐにでも次の隊商を出そうと言う話になった。ユリウスさんの中では次の隊商のまとめ役にはカリーナを考えている様だ。
うん、本当にカリーナはユリウスさんの親族っぽいな。手を出さなくて良かったぜ。まあ、彼女の方も本気で俺に色仕掛けをしている感じじゃなかったから、あくまでユリウスさんに指示されてポーズでやっていただけなんだろうな。
「ところでレオナはどうだったでしょうか。
実は本人から、トルクヴァル商会で働きたいと言われてまして。
レンさんさえ良ければ、それもいいかと思っているのですが。
まあ、カリーナは残念がっていますが。」
おおっと、それは予想外だな。旅の間に俺を落とせなければ諦めると思っていたが。レオナもユリウスさんと血縁が無いと分かった後も、色仕掛けをして来たけど何が目的なんだ。俺に惚れたと言われても信じられないが。
「そうなんですか。
折角ダーミッシュ商会で働いているのに勿体無い気もしますが。
ユリウスさんが良ければですが、
後で本人と話させてもらえませんか。」
「分かったよ、後で君の事務所に行かせよう。
何なら嫁に貰ってくれてもいいんだよ。」
「ご冗談を。彼女はまだ結婚には早すぎますよ。」
まあ、彼女が12歳くらいに見えるものの、実際には18歳である合法ロリである事は既に知っているが。
ダーミッシュ商会では話の後半はお昼を食べながらになった。そして午後にはもう一つの『銀蟻群』の大出資者、ペルレを含む王都周辺で食品大手商会のヴァルヒ商会を訪れる。
マニンガー公国行の収益は、ダーミッシュ商会からヴァルヒ商会、『銀蟻群』の代表を出している冒険者クラン『赤い守護熊』に分配される事になっているが、変に軽く見ているとか誤解されても困るので順に挨拶だけはしておくつもりだ。
それにヴァルヒ商会にもユーバシャールから持ち帰った品について購入の希望を聞いておかなければならないだろうし、米の栽培もうちだけでやるよりヴァルヒ商会も巻き込んだ方が、リスクが減るので打診しておきたかった。
「ヘンリックさん、ご無沙汰しております。
ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」
「社交の挨拶はいい。
今回の交易の収支を端的に説明してくれ。」
ヴァルヒ商会では番頭のヘンリックさんが会ってくれたが、ユリウスさんに比べて塩対応な気がする。まあ、あちらは大商会、こちらは零細商会だから仕方ないともいえる。
ヘンリックさんは隊商の収支を聞き、教国の香辛料、茶の購入を決め、米を見て担当と交代した。ヘンリックさん自身と話したのは10分くらいだろうか。
教国の香辛料、茶については自家用分を除いて全量を売る事にし、担当者とほどほどの値段で取引が成立した。
米については別の担当者と共同栽培について話したが、あっさり断られた。ラノベ等では小麦から米への切り替えで食料増産が出来たりするが、この辺では大水田を作るほどの水が確保できないという。
うん、まあそうだよね。地球でも水の潤沢な日本を含む赤道に近い熱帯、亜熱帯の東南アジア諸国等では米が作られているが、気温が低く乾燥気味の西岸海洋性気候のヨーロッパでは栽培が難しい様だった。俺の趣味だし、小さくやっていくしかないか。俺はヴァルヒ商会を出た。
夜になって俺は『赤い守護熊』の拠点、『黄鱗の鮭』亭に帰還の挨拶に来ていた。熊の拠点が鮭かぁ。狙ってるのか北海道の木彫りを思い出すな。『ハチミツ狩り』亭とかファンシー過ぎる名前じゃなくて良かったぷぅ。




