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女形の姫様転生記  作者: 新島 隆治
49/49

遺されたもの


 夜明けと共に起き出して出発の準備を整え、同行する全員と騎獣に強化加速(キーヒトヴィース)の魔術をかける。峠道で接収した荷車と騎獣、ロヴァーニの牧場へ連れて行くレィマは後発組として、魔術の助けなしに出発する。

 到着は一日程度遅れることになるだろうが、身体や車体への負担は少ない。

 護衛と魔術師、御者を務める者が計二十五名もいるので、この付近からの帰還であれば心配もないだろう。


 同行することが決まった客車や荷車の半数には車軸と車輪、軸受などの部品にも強化の魔術をかけて、防風天蓋(トゥーリスオィヤ)で風の抵抗を減らして街道を駆け抜けることにしたのだ。

 空飛蛇(タイヴァスカルメ)のペテリウスはアスカが身支度を整えている間に手紙を筒に入れて天幕を飛び出し、ロヴァーニへ先行している。


 斥候兼先触れは、副長スヴェンの指示で団員六名が夜明けと同時に宿営地を出発した。強化加速の魔術を使える魔術師二名が一緒に向かうので、街道を歩く者たちに警鐘を鳴らしてくれるだろう。

 防風天蓋の魔術を使っても、角犀馬(サルヴィヘスト)や客車の突進による質量差や衝撃を防げるものではないのだから。どんなに気が(はや)り急いでいても、整備中の辺境街道に挽肉(ミンチ)をばらまいていく趣味はない。



 それらのおかげもあって、宿営地から先行した帰還組はその日の夕方遅く、ロヴァーニの砦門を潜ることになる。陽が沈みかけていたが、大門を閉める前に辿り着いたのは切れ目なく使われたアスカの魔術のおかげだ。


 一般的な魔術師であれば、術の再使用までに保有する魔力の余裕があれば数回は同じ魔術を使い回すことが出来る。

 けれどもアスカの場合は王宮魔術師クラスの最大魔力量で数万人分に匹敵する膨大な魔力量とリージュールの運用技術でごり押しして、複数の魔術を大人数に、しかもほぼ切れ目なく使い続けることが出来るのだ。


 商隊などであれば一日で最大二十五から三十ミール(キロ)程度の移動だろう。

 しかしアスカたちが昨晩泊まったのは、ロヴァーニから約三日の場所である。


 単純な速度に換算すればおよそ三倍。しかも護衛や御者、ライヒアラの使節一行も合わせて八十名程度と騎獣五十七頭、客車・荷車十二両を術の対象に含めているのに、術者であるアスカに疲労は一切見られない。

 素の性能(スペック)に大きな差があるとはいえ、魔術師たちには衝撃だ。


 だが同時に目指す(いただき)や効率的な運用の手本にはなる――学んでいく中で心が折れなければ、という言葉が語尾につくけれども。


 複数の術の並列使用と魔力運用は、簡単なものから順に教えている。

 既にハンネやアニエラ、シュルヴィなどアスカの側近や内弟子と(もく)されている魔術師の数人は中級程度の魔術の複数同時行使に取り組み始めているし、側仕えの中でもユリアナは初級魔術であれば同時使用に成功している。

 リージュールでは学院生でも習うことだが、他の大陸では王宮魔術師でも体得できる者は少ない。





「お帰りをお待ちしておりました、姫」


 砦門を抜けた先の広場で待っていたのは、騎獣から降りて膝を突いていた団長の姿だった。団内の仕事や協議会との調整で少し疲れているようだが、今朝ペテリウスに持たせた手紙を読んですぐに動いてくれたのはありがたい。


「南方街道は半分程度まで整地してきました。残りは秋頃になると思いますが、協議会と商工組合にも情報共有をお願いします。街道沿いの荒れ地にいたレィマの群れと出会い、牧場に引き受けましたので牧場の手配も。

 それから、ライヒアラより親善使節が来ています。お身内の方ですので、対応はお任せしてもよろしいですか?」


「承知しました。まずは団本部まで案内しましょう。例の物の件もそちらで」


「ええ。でも湯浴みと食事を先にしたいですね。報告は夜、ランヴァルド様の執務室で聞きましょう。旅の疲れを癒やして身形(みなり)を整える必要があるでしょうから、使節の方々の歓迎も日を改めて」


「御意に」


 静かに頭を下げたランヴァルドが音もなく立ち上がる。

 辺りは日が暮れかけて夜闇が迫っているけれども、広場と砦の管理棟前には煌々(こうこう)と輝く灯りがいくつも灯っている。


 飛鳥の生きた日本のLEDの街路灯よりは少々暗いが、この世界に存在する灯りとしては破格の明るさだ。アスカの故郷・リージュール魔法王国には軍用などでもっと明るいものもあったようだが、民生用なら十分である。

 ガラス製の鏡と錆びにくい金属の覆いを付けているため光を照らす効果範囲を限定できる上、耐久性・耐候性も高い。


 白い光を放つのは晶石を利用した照明用の魔術具で、製作には金貨十五枚ほどの資金と素材が必要になるけれど、夜間だけの使用であれば三十年ほどは部品交換も不要だ。大気から魔素を自動的に吸引して稼働するので、素材の劣化にさえ気をつけていれば照明としての効率は極めて良い。


 明るさで言えば一万ルーメン程もあるだろうか。

 篝火に比べたら高価ではあるが、日没前後から就寝の鐘までの間だけ使うので寿命も長く、耐用年数は計算上の三十年より少し短めの二十五年とされている。

 一晩中点けっぱなしでも二十年は持つだろうが。


 管理棟は昨秋よりも施設が増強され、移住者向けの対応や手続きを行う部署が協議会によって増設されている。一時的に移住者希望者が身を寄せる待機所――集合住宅のような三階建ての建物も、管理棟前の広場を挟んで作られていた。


 辺境街道と繋がる要地でもあるため傭兵団や自警団の団員が頻繁に行き交い、間者の動きも著しく制限される。対外的には安全で水場もあり、いくつかの商会の出張所や倉庫、直売所などもあるため不満は出にくい。


 そうした背景があるためか、広場の隅にはロヴァーニへの移住希望者らしい家族の姿も十数人見られた。王国の貴族領から逃げるようにやってきた者たちだろう。

 ほぼ着の身着のままだった者たちも、ここであれば古着や食料も比較的手に入りやすく、砦の内側ということもあって理不尽な収奪に怯えることもなく過ごせる。

 いずれ人数が増えれば砦の外側に待機させることもあるだろうが、数百人程度であればこの場所でも十分に収容できるのだ。


『ここまでお疲れさまでした。明後日までは今夜連れて行ってもらう寝床で休んでいてください。屋根があるので雨が降っても大丈夫ですし、朝晩のご飯の準備もしてもらいますから。

 受け入れ先の牧場には事前に話を通しておきましたので、長旅の疲れを癒やしてから皆で移動しますね。

 赤子がお腹にいる方もいますから、助けが欲しい時は鳴き声を上げて誰かを呼んでください。この砦には魔術師もいるので、癒やしが必要な時や私に連絡する必要があれば対応もできますから』


 きちんと言葉を理解しているのか、広場から近くの牧場へ連れて行ってもらうレィマたちに精霊たちの言葉で今夜の寝床と晩ご飯の説明をしたアスカは、群れのリーダーの鼻先に手を寄せて撫でる。

 宿場で何度か水浴びや湯浴みをさせたためか、泥土や草木の汁で汚れていた身体は薄茶色の毛並みを取り戻している。サラサラとした短めの毛並みが心地良い。


 雌のレィマは名残惜しいのか、頭を何度もアスカの腹や背に擦りつけていた。


(わたくし)も急いで済ませなければいけない用事がありますから、終わり次第こちらに来るようにしますね。あなたたちは赤ちゃんを守って旅の疲れを癒やし、身体を第一にしてください』


 ぽんぽんと頭を撫でたアスカが(きびす)を返して客車へ戻ると、すぐに護衛の隊列が動き始める。視界から消えていく砦門の方からは四度鐘が鳴らされていた。

 門を閉ざすための合図なのだろう。夜間と緊急用の通用口は開いているものの、荷車や客車が通るような門は日没と共に閉ざされる。



 坂を下る客車の窓から見える前方には、約半月ぶりに見た団本部の赤茶けた石積みの建物と、白い壁を見せる女子棟の建物が明かりに浮かんでいる。


 主だった部屋には高価な窓ガラスを使っているため、中央市場辺りまで行けば夜でも建物の中を行き来する人が見えるほどだ。もちろん傭兵団の本部として備えるために鎧戸が準備されているし、木製ではあるがブラインド状の目隠しや寒さを防ぐカーテンも存在している。

 木工職人たちが苦労していたけれど、その甲斐はあって冬の間も寒さからかなり守られていたらしい。


 辺境街道をひた走っていた時に比べれば速度を落としているものの、強化加速(キーヒトヴィース)は未だに効力を持っているし、同行していた団員と騎獣の大半は久しぶりの我が家に戻れるということで士気も高いままだ。

 峠道で鹵獲(ろかく)した荷車と騎獣は砦門の管理棟に預けてある。


 厩舎(きゅうしゃ)担当と調達班の団員が常駐している砦門ならば数日程度の世話も問題なくできるし、牧場への移送に困ることもない。

 受け入れ側の牧場への連絡と引き渡し、レィマたちの疲労を考えれば休息を与えてからの方が良いだろう。


 アスカ自身も約半月ぶり――現代日本の暦では二十日以上になる――に戻る団本部の建物に懐かしさを覚えつつ、膝の上で丸まって静かに眠る妖精猫(ルミ)の背を優しく撫でた。









 一行が団本部に着くと同時に、厩舎担当と調達班、受付も含む団員が慌ただしく動き出す。砦門まで迎えに出ていた団長のランヴァルドたちも合わせると七十名近い人間と四十頭ほどの騎獣が一斉に帰ってきたのだから、大騒ぎにもなろう。


 到着は事前に知らせてあるけれども、本部前の広い前庭は昼の中央市場にも似た混雑ぶりを見せている。

 帰還側と出迎え側、合わせて百五十名を超えるだろうか。


 夕闇が押し寄せているけれども、普段は使わない前庭外周の魔術灯も全て点けられているので、明るさは十分だ。

 騎獣たちはそれぞれ手綱や鞍、曳綱(ひきつな)を外されて厩舎へ向かっている。

 今夜は温かいお湯で身体を流してもらい、たっぷりの餌をもらって清潔な寝床で寝られるはずだ。


 窓の外で慌ただしく動く団員を見つつ客車内で待っていたアスカは、ノックの音に気づいてドアの方へと顔を向ける。

 外に返事を返したのはユリアナだが、外から扉を開けたのは護衛の隊長を務めるエルサだった。


「姫様、移動の準備が整いました。今最後の荷車を新館裏の倉庫へ誘導していますので、まもなくご案内します。女子棟には伝えましたので、まずは湯浴みを」


「ありがとう。ランヴァルド様との会談は確認が取れましたか?」


「湯浴みと食事の後になる予定です。食事は半刻後、女子棟の食堂で。団長は副長や駐留していた団員からの報告を先に聞くため、もう執務室に戻られました。

 王国の外交使節の方々は日勤の団員と文官が付き添って、部屋の案内と湯殿の使い方などを教える手筈(てはず)になっています」


 護衛や側仕えも合わせれば、使節一行だけで五十人弱になる。

 実際には全権特使待遇のシルヴェステルと外交参事のトルスティ、下級文官待遇のラウナ、レイラ、アネルマが今夜は泊まることになっている。


 彼らの護衛の一部と側仕え、下働きの一部も数名残るが、他は滞在用に用意された坂の下の屋敷へ向かって準備をするそうだ。修理や掃除は団員や直営商会の手が入ってほぼ終わっているらしいので、簡単な案内と魔術具の使用法を教え、明日以降の受け入れ準備をさせるだけらしい。

 取り壊し予定ではあるけれど、トイレだけは傭兵団と同等の設備を設けたと聞いている。風呂は市場側の公衆浴場が使えるので、四人程度が一緒に入って汗を流せる規模の小屋を併設した程度で済ませたそうだ。


「了解しました。クァトリは明日の朝から付いてもらいますので、湯浴み後はそのまま休んでください。レーアは夜番で大変ですけど、明朝から二日間お休みです。

 エルサは会談の終わりまで付き合ってください。女子棟に戻ったらヴィダ酒の小ボトルを一本と、一緒につまめるものを用意しましょう」


 客車の外ではエルサを呼びに来た団員が略礼を取って報告し、すぐに下がった。

 移動の準備が整ったようだ。


「お待たせしました、姫様。女子棟までご案内します」


 ユリアナと数名が先に降り、アスカが降りた後に片付けを済ませていく側仕えが二名ここに残る。彼女たちは客車を格納する倉庫まで行き、片付けを担当する。

 もっとも掃除自体は野営地で大体終わらせているので、座席のカバーを剥がして回収し、床の埃を風の魔術で外に吹き飛ばす程度だ。

 カーペットの交換や洗浄は客車担当の下働きが専属で行ってくれる。


 照明で明るくなった前庭に降りたユリアナに手を借りて石畳の上に立ったアスカは、少し離れた場所を厩舎に向かって歩くパウラの姿を見つけた。

 まだ色々と予定があるので、明日のご飯と湯浴みの世話を約束してある。

 今夜は厩舎担当が用意したご飯と、疲れを癒やす温泉が用意されているはずだ。暖かく清潔な寝床でゆっくり休んで欲しい。


 アスカは周囲の賑やかさに目を覚まして興奮した様子のルミを胸に抱え直すと、エルサの先導で女子棟へと向かう。

 男性の団員は残った仕事が多いのか、まだ半数ほどが前庭に残っている。

 彼らの邪魔にならないように先導するエルサについて、アスカたちは足早に前庭を後にした。






 湯殿で汚れと汗を流し、女子棟の食堂で夕食を()ってから身支度を整える。ゆっくりと疲れを取るために入るのは、団長との会談後――就寝前になるだろう。


 野営地でも毎日入浴していたし、洗濯や着替えもしているけれど、女子棟は設備が断然違う。現代日本の生活レベルまでは行かないが、アスカの知る数々の魔術具を提供することでかなり快適な環境に整えていた。


 今は自室のドレッサーの前で髪を結ってもらいながら、ごく軽くメイクも整えてもらっている。アスカ姫の容姿はほぼ何も手を加えないでも通用するけれど、成人済みの女性が夜に素顔で異性と会うのはいけないらしい。

 仕事の延長であれば時間と場所の都合でメイクをしないか、側仕えに頼んで薄くルージュを引くだけでも良いらしいが、今は設備も品物も整った自室である。


 それにドレッサーといってもアスカが両手を広げたほどの幅がある鏡に、三段の引き出しと五段に分かれたアクセサリー類の棚、化粧水やクリームなどの瓶と乳液を置く六段の棚が備え付けられた豪華版だ。

 直営商会経由で各地から取り寄せてもらった口紅やリップクリーム、香水、整髪剤などを元に研究室で作った試作品も置いているため大きな隙間は空いていないけれど、実際に埋まっているスペースは三分の一程度である。


 アスカの作った試作品や製品が肌に合わなくても、万が一の場合は治癒の魔術で治せるのだから側仕えたちが喜び、張り切らない訳がない。

 冬の間に団の女性職員も合わせて四十名ほどでテストした結果、問題ないものは製品として採用され、直営商会の商品としても出荷されていた。


「姫様、今夜はこちらのティアラでよろしいですね?」


 ユリアナが長い白銀の髪を活かしてハーフアップに編み上げ、比較的装飾の大人しいティアラを飾って位置を確認する。

 平時なら工房で染められた刺繍入りのリボンやカチューシャで済ませるのだが、今回の会談はリージュールの王族として従者の遺品の確認と引き取りに向かうため、装飾品も重要な要素となるのだ。


「問題ありません。それと、首飾りは小さな紫水晶(アメディスティ)のものを。国章のペンダントでは大袈裟過ぎますので」


「承知しました――こちらでいかがでしょうか」


 ユリアナの言葉に視線を左へ向けると、被服を担当するティーナが小指の爪ほどの大きさをしたペンダントヘッドを見せてくれる。

 シンプルだが品の良い銀細工の枠に、若干角の取れた六角形の紫水晶。

 台座と接する部分に沿って宝石側の周囲に溝を彫って水晶を留め、地金(じがね)を錬金術で操作し固めていったものだ。元は練習台として作ったもので、精緻な彫刻を施されたペンダントや指輪も衣装部屋に保管されている。


 王族として従者の遺品を受け取るため、王族として最低限の装いは必要だ。

 ドレスは絹のような白地のジェルベリアで、装飾は控えめにしている。代わりに肩に掛けるショールの四隅にリージュール国章が小さくジェルベリアの糸で刺繍され、胸の前で合わせられピンで留めることになっている。


 ティアラは多少重いけれど、これでも他所(よそ)の工房に作ってもらうことを考えたらかなり軽量化出来ているはずだ。金属の厚みを減らした分、材質の靭性を数倍に強化しているので実質的な重さは半分以下のはず。

 王族の瞳と同じ色の宝石――紫水晶は小銀貨四枚分くらいの重さがあるけれど、装飾品に加工して頭に乗せてしまえば大したことはない。



 用意を整えたアスカは、側仕えと護衛の準備が出来たのを確認して部屋を出た。

 女子棟一階の談話室でお茶(テノ)を楽しんでいる者も多いが、下働きの数名は片付けに行っており、研究室を持っている魔術師は自分の部屋に戻ってもいる。


 魔術師や錬金術師は消灯の鐘が鳴るまでは実験を続けたり、二階の図書室で書物を読んだり、あるいは自分の研究結果をまとめている者が多いはずだ。

 団員や職員が成果を論文や書物としてまとめ、文官や魔術師、錬金術師、薬師が集まる審査会で認められれば「新しい書物」として発刊が認められる。


 そうなれば著作者としての権利と、少なくない金銭を手に入れられるのだ。団の内規では最低でも小金貨五枚。新規の発見や特に有益な研究・著作については実質上限が存在していない。


 アスカの名目上の個人資産が増えていく一方なのは、こうした内規が存在するからとも言える。魔術は元より錬金術、医学、薬学・料理のレシピ、教育に関する基本方針の覚え書き、戦略・戦術・諜報に関するメモ、服飾・装飾品のデザイン。

 ライヒアラ王国にも無いものを『自分の生活のため』というお題目で遠慮なく提供していくのだから、利権を整理する文官と会計長たちは大変だったに違いない。

 飛鳥としての知識や覚えていることのメモも含まれていたが、それらは全て今のアスカを守ることにも繋がっている。


 魔術や錬金術、薬学分野では過去に行われた類似の研究や文献の調査も行われるけれど、その審査を待ったとしても利益は大きい。

 傭兵団に所属する薬師や文官にとっては現場に出る団員よりも危険手当に相当する分だけ実入りが少ないけれど、著作活動により自分だけの研究室や研究費を確保できる足掛かりとなるのだから。


 ともあれ、団本部に勤務する者の就寝時間は決められているため、不寝番以外はかなり規則的な生活をしていると言える。

 新館一階にある本部受付も緊急事態に対応するため、不寝番がいる部署だ。


 夜は荒事(あらごと)や魔獣襲撃などに分類される事件や抗争への対処、緊急の護衛対応がほとんどで、用向きの面から比較的若い団員が数名と班長に当たる中堅団員一、二名が付けられている。

 大体五名一組で四班を編成し、三日ごとに勤務を交代しているらしい。


 ドレスの裾が乱れないよう側仕え四名と護衛二名に先導されながら、新館の受付と未だ賑やかな大食堂の前を通って団長執務室へ。

 階段を上がると、既に人払いが始まっているのか扉が開け放たれ、文官や部隊長クラスの人間が書類の束を抱えて自身の執務室や小会議室へ向かっている。


 扉の前にはロヴァーニに残っている部隊長が四名立っていて、新たに執務室へ書類を持って来ようとした文官をやんわりと追い返していた。

 団内への影響は大きそうだが、アスカとの会談のため確実に予定を空けるための処置だろう。


 あまりにも絶望したような表情を見せていたので、付き従っていたルースラに頼んで代わりに書類を受け取り、護衛をしていた者たちに声をかけて執務室に入る。

 ランヴァルドとスヴェンの執務机には書類が積み上がり、部屋付きの文官が優先度の高い書類だけを分別して署名や押印を貰っているようだ。


 入ってきたアスカに気づいたのか、ランヴァルドはすぐに立ち上がって黙礼をしながらも手元では団長の印璽(いんじ)を押している。

 副長のスヴェンはこちらを向く余裕もなく、ひたすら書類に署名していた。

 彼には専任の文官が三人付いて作業の進行を取り仕切っている。


「こんばんは、ランヴァルド様。そろそろお約束の時間でしたので伺いました」


「いえ、こちらこそ夕食後に先触れも頂いていたのに申し訳ありません。まもなく終わらせますので、ソファでお待ちいただけますでしょうか。申し訳ないがユリアナとティーナにはお茶(テノ)を頼みたい。

 ヘンリク、この書類は会計長室へ戻してくれ。署名をして承認印も押した。渡し終えたら会計長をこちらに呼んで欲しい。

 オリヴェルとタイストは例の荷物をテーブルへ運んでくれ。運び込んだ後は護衛と共に人払いを頼む。あと急ぎの書類はないか?」


「ルースラ、執務室前で預かった書類をランヴァルド様に。急ぎのようでしたが部屋に入れず困っていましたので、僭越(せんえつ)ながら預かってきました」


 主の言葉に従って、ルースラが書類を団長の机の上に差し出す。

 ロヴァーニの協議会経由の報告資料だったようで、左手で表から数枚を(めく)りながら右手は算石(さんし)を動かし検算していた。

 町への半月毎の入出記録速報らしいが、付属する詳細の方が分量としては多い。


「まだ動きは鈍いが――今月末と来月の数字を見ないと何も言えないな。裏取りの資料は後で見るとして、内容は了解した。

 持ってきたのはソイニか? 手の空いている文官で手分けして写しを取ったら、すぐノルドマンの本部へ持って行ってやれ。どこで止まっていたか分からないが、最後に見ることになる彼らの方が可哀想だ。協議会への返却は明日の昼前だ」


 一番最後のページに手早く署名したランヴァルドは、机の前で待っていたルースラに書類を手渡している。普段は被服関連を中心に担当しているとはいえ、文官の仕事もできる彼女は軽く一礼し、廊下で待つ文官の元へ向かって行った。

 彼女が廊下へ姿を消すと、ちょうどスヴェンも最後の書類に印璽を押し終えたようで、半ば魂の抜けたような疲れ切った表情を見せている。


「お待たせいたしました」


「いいえ、遅くまでお仕事お疲れさまでした」


 疲れたのはランヴァルドも同じなのか、アスカの対面に腰を下ろして首と肩を数度回している。スヴェンの方は力尽きたようにどさりと腰を下ろし、ソファの背もたれにぐったりと寄りかかって天井を仰いでいた。


「間もなく荷物が来ると思います。それと会計長も。団の三役が揃ったら執務室の護衛と文官は一度人払いを。こちらから呼ぶまでは第二会議室で待機してくれ。

 ミカ、お前に護衛と文官たちの引率を頼む。酒は禁止だが、料理長のダニエに簡単な夜食を準備してもらっている」


「文官は先に上がらせますか? 俺たち護衛はともかく、文官は副長の相手で疲れてると思いますが……」


「見極めは任せる。確認があるので就寝の鐘を越えるかも知れないが、なるべく早く終わらせるつもりだ」


 細身の護衛の一人に指示を出したランヴァルドは、この瞬間から執務室内の護衛をエルサとレーアに交代させるらしい。

 団内の不祥事も絡むだけに知る者を限定し、情報が広がらないよう配慮しているようだ。リージュール王族にごく近い関係者の遺品と思われるだけに、慎重を期したいのだろう。


 テノを待つ数分の間に、黒塗りの盆が三つ運ばれてくる。

 慌てた様子の会計長が執務室に駆け込んで来たのはその数秒後だ。


 彼の入室と入れ替わりに執務室の文官と護衛が退出する。アスカの護衛もエルサを近くに残し、レーアは廊下への扉前で待機することになった。魔術師はアニエラとハンネの二人が残っている。

 扉が閉まると同時に、室内に遮音(アニェリスティス)の魔術が使われて会談内容が外に漏れないよう配慮された。もっとも執務室に詰めている護衛の団員や文官、調査に当たった者たちの口を完全に塞ぐことは無理だろう。

 それでも会談内容の秘匿は必要なことである。



 運び込まれた三つの黒い盆には、形も大きさも別々の品が載っていた。

 アスカの視線がテーブルに置かれた順に追いかける。



 一つ目は長辺がA3サイズほどの白味がかった薄茶色の革製鞄で、箱型のボストンバックのような形をしていた。上部は(ふた)に当たる長い被せが覆っており、縁には金糸と緑系統の糸を使った刺繍が施されている。

 ボタンのように縫い留められた水晶は開封者を判別し限定する魔術具だ。

 元はリージュール王家の象徴である鮮やかな紫水晶だったのだが、太陽の光を長く浴びたせいか、薄黄色に退色している。


 そして、被せとマチの部分には別々の幻獣が刺繍されていた。

 リージュール魔法王国の国章にも使われている、グリフォンのような猛禽の翼を持つ幻獣とドラゴンのような幻獣である。

 この二体は王家から直接下賜された品か、王族直系でなければ使うことが許されない特別なものとされている。


 被せの隅には引っ掻いたような傷が複数あり、それを見つけてしまったアスカの表情がわずかに曇った。その場所にあったはずの『あるべきもの』が消えて無くなっていたからでもある。

 わずかに痕跡こそ残っているが、アスカにとっては大事な思い出の一部だ。無くなってしまったことは単純に悲しい。



 二つ目の盆はかなり小さめで、短い糸の切れ端が数十本載っている。

 風や息で吹き飛ばないようガラスの器が上にしっかり被せられていたが、そちらもアスカの記憶に合致する。まだ母王妃が生きていた頃、爺や――教育係を務めていたセヴェルへのお礼のために刺繍した糸だ。


 当時滞在していた大陸で、物語に出てくるエルフのように数百年の寿命を持つ山森人から譲られた銀嶺の精霊楓ホペア・カイヴォス・ヴァーテラの若木から採れる特殊な糸だ。繊維としても、錬金術の素材としても優秀で極めて希少なものである。

 品物としては『精霊楓の糸(ヴァーテラ・ランカ)』と呼ばれている。織られた布も同様だ。


 以前はリージュールにも毎年納められていたらしいが、アスカたちが旅の途中で三月ほど集落に滞在していた時、仲良くなった少女に譲って貰った品である。

 山森人の間だけに伝わる特殊な染料で染められていて、流通自体も限られているので、ロヴァーニ近辺には流通すること自体がないはずだ。


 ロヴァーニで探そうとすれば交易の確立までに人の一生を四度ほど費やし、購入価格も輸送費を除いて、糸と同じ重さの金剛石(ティマンティ)の数倍に達するだろう。

 盆の上に載った少量の糸だけでも、貨幣に換算すれば大金貨三十枚にはなる。

 単純な距離と時間だけならば、リージュールの浮船があれば最短距離で行けるため、ロヴァーニから片道一月ほどだろうか。


 そして何より、魔力を通すことで柔らかい繊維の性質を保ちながらも極めて硬い繊維となる。リージュールの王族は精霊楓で織られた防刃用の衣服を持たされていたし、近衛の兵には鎧下の代わりに下賜されていたこともあった。


 つまり生産者である山森人の血統か、献上されるリージュールの関係者の持ち物からしか基本的に得る手段がないと言っても良い。

 山森人があまり同種族の部族以外との交流を持ちたがらないこともあり、貴族や王族であっても「欲しい」と思えど入手が極めて困難な品である。


 王城の中にある研究機関やリージュールの王立学園上層部には端切れや糸の一部が触媒として譲られることもあったため、専門の研究書に記載されてはいる。

 ただし、実際の品を見たことのある者が少ないため知られていないのが現状だ。



 三つ目の盆にはボロボロに刃が(こぼ)れた細身の短刀が一本と、同じく刃が欠けて折れた短刀が二本載っている。

 よほど力を込めて硬いものを切ろうとしたのか、刃の表面も細かな傷がびっしりと刻まれていた。その傷の溝は糸の太さと大体一致する。


 刃毀れは短刀の刃の先端から半ばまで、ほぼ全体で起きていた。折れた刃は何度も()ぎ直されたのか金属の厚みが無くなって、力負けしたようになっている。

 薄いカッターの刃で親指の太さほどもある金属ケーブルを切断しようとした状態、とでも言えば分かりやすいだろうか。


 ともあれ、そうして役に立たなくなった短刀が目の前に置かれていた。短刀が糸を切るために使われたのは明白である。



「まずは冒頭、姫に謝罪を。この度は我らの団員の中にいた不心得者が犯した罪により、長く御心を悩ませ続けてしまったこと、伏してお詫びいたします」


 品物を確認していると、アスカの目の前でランヴァルド以下傭兵団の三役が床に膝を突き、深々と頭を下げた。

 こちらの世界に土下座のような習慣はないが、最大限の謝意を示したいということなのだろう。


「――謝罪は受け取りました。従者の持ち物が見つかった詳しい経緯をお聞きしたいので、顔を上げて説明いただけますか?」


 思うところはある。アスカ姫の大事な思い出の一部が傷つけられたことも。

 それでも「今の」アスカとして事の次第を知っておかなければならないし、取り戻してくれたランヴァルド以下の働きを知るためにも話をしなければならない。


 顔を上げさせソファに座るように促して、心を落ち着けるために茶を一口含む。

 紡いだ思い出の品は失われても、アスカの現在の力を振るえば刺繍程度なら元に戻すことだってできる。けれどもそれは「幼き日のアスカ」が思いを込めたものとイコールではない。


 本来であれば王女であるアスカが感情を見せるのは良くないことなのだろう。

 しかし思わず零れ落ちて頬を伝う熱い涙を、傍に控えていたユリアナがハンカチで拭ってくれている。


「失礼しました。既に団の内規で処分したということなので、誰が、とまでは聞きません。まずは見つかった経緯を報告してください」


「承知しました。私に報告が上がって把握している限りのことをお話します」


 座ったまま一礼したランヴァルドが、アスカが南方街道に向かってロヴァーニを離れた後のことを教えてくれた。



 発覚した発端は、団員の一人が鍛冶工房へ短期間に何度も短刀の研ぎ直しを依頼していたことらしい。

 護衛任務で町の外に出る団員や、資材・食材を手配する調達班に所属する団員であれば、仕事柄頻繁にナイフや短刀を使うため不思議はない。

 前者であれば野営や戦闘で使うものだし、定期的に手入れをする。

 後者も資材の運搬、狩りの獲物の解体などで毎日のように使うため、最低でも週に一度は団の専属工房に研ぎを依頼している。


 しかしこの短刀の研ぎ直しを依頼してきたのは、昨年の秋に調達班から外れて直営商会との連絡を担当するようになった者で、その頻度も冬の終わり頃から週に二度から三度と多かったようだ。

 アスカがロヴァーニを発った頃からは町中の工房も使って一日おきに研ぐこともあったらしく、依頼された工房の親方から専属工房の親方に「団内の作業が追いついていないのか?」と心配と確認の連絡が来たらしい。


 もちろん団の専属鍛冶工房は忙しいけれど、団員の武器・道具のメンテナンスは必須の作業である。親方から会計長、団長に即日報告が上がり、同時に三役の指示で名前と人相の確認が行われ、依頼した者を特定した。

 同時にアスカが組織を依頼したカッレ以下の暗部が動く。


 ロヴァーニに敵意を抱く外部との繋がり、アスカ姫個人に対する敵意の有無、団に対する敵意の有無をそれぞれ確認し、さらに個人の借金や家庭の事情の調査、傭兵団と直営商会内部の協力者の有無、親しい者への聞き取りが行われる。

 借金はあったが、若い団員がする程度のもの。賭け事にも特に興味はなく、文官経由でキャリアを積み、魔術具の取引などを担当したかったようだ。


 団長の指示で文官がまとめた過去の取引記録の調査も行われている。

 団から支払われた給料は酒や女に注ぎ込まなかった分、魔術具の購入や個人的な素材の仕入れに使っていたと判明していた。

 借金の総額は小金貨一枚と大銀貨四枚といったところか。


 可能な限りの証拠を固めた結果、四日前に特定した者の部屋に踏み込んで捜索が行われ、団員の拘束と鞄、証拠の確保が実行された。

 その場で証拠となる折れたり傷ついた短刀数本と、見慣れぬ繊維で出来た糸の切れ端も部屋から押収され、ここに証拠として持ち込まれたという。


 証言では短刀を何本も犠牲にして革鞄の被せから外した『精霊楓の糸(ヴァーテラ・ランカ)』を証拠隠滅のため繰り返し燃やそうとしたらしいが、強い魔力が込められていて表面に焦げ跡を作ることすら出来なかったらしい。


 (くだん)の団員は現在団の新館地下にある独房に魔術阻害の拘束具を付けて収監されている。鞄自体は従者の持ち物とはいえ、リージュール魔法王国の品物だ。少なく見積もって死罪、鞄に収められた品によっては家族や一族にまで罪が及びかねない。

 今は暗部の者と団員が共同で見張りに立ち、監視中とのことだ。


「昨年の救出から約一年、お返しするのが遅れた上に傷を付けてしまったこと誠に申し訳ございません。我ら団三役、来年四月まで月毎の報酬を三割減額して姫への補償に()てたく存じます」


 ランヴァルドと金銭勘定にうるさいマイニオが揃って頭を下げ、繁華街への出歩きが減ることに決定したスヴェンも悲しそうな表情で頭を下げる。


 団員の不祥事で責任を取る立場とはいえ、ここまで大きな問題になってしまったのは、ひとえに「リージュール魔法王国のものに手を付けた」という一点だ。

 しかもそれが王女の教育係の持っていた魔術具の鞄で、王家の紋章の一部が刺繍されている品物である。対処した者次第では叛逆罪として捕らえられ、即日処刑されてもおかしくない状況だった。


「幼い頃に(わたくし)がセヴェルのために刺繍した部分が壊されてしまったのは悲しいですが、こうして無事に取り戻してくれたことにまずは感謝します。

 切られた糸も全部は揃っていないようですが、中身が無事でしたら心当たりもありますので、まずは開けて確かめてみましょうか」


 アスカ姫の記憶力はかなり良い。一度覚えたことは忘れることが少ないし、幼少期からの記憶や生前の飛鳥としての記憶まで、かなりの部分を覚えている。

 物語によくある完全記憶とまではいかないが、飛鳥にとって未知の『魔術』分野や『薬学』『錬金術』といった分野に関する指導が違和感も遅滞もなく行えたのもそのおかげだ。


 そして過去にアスカがどう行動したか、何を言われたかについても記憶がある。

 二重写しのようなものもあれば映像を見ているようなもの、音声だけを再生しているようなものもあるけれど、その一つとしてこの鞄の開け方も記憶していた。



 今は薄黄色に変色したボタン状の飾りに指先を触れ、魔素を少量流し込む。

 色自体は紫水晶に太陽光が長時間当たって、退色してしまったものだろう。飛鳥だった当時、(ゆかり)や妹の皐月、葉月から装飾品に使われる宝石の色褪せ原因を聞かされたことがある。

 確か紫外線によって内部のイオンか何かが変質したことが原因だったはずだ。


 水晶に魔素が満ちると淡く輝きが灯り、指先から吸われる魔素の量が増える。

 慌てて心配されても困るので、驚きを隠して魔素をそのまま流し込む。


 王族としてアスカが保有する魔力量は膨大だ。

 ライヒアラ王国の支配階級がどの程度の規模かは詳しく知らないが、ランヴァルドやユリアナから聞いた限りでは、全貴族・王族を合わせた魔力量と比べても数万人分以上はあるはずである。


 毎日魔力循環させたり様々な魔術・錬金術で消費しているものの、回復速度の方が早くて使い切れていない。

 取り寄せた晶石にも貯めているけれど全体からすれば微々たるもので、安値で買い取った石英や宝石類を錬金術で変換・加工し、拳大の晶石を日々量産している状態だ。

 保管場所に困って女子棟の地下室の一角に幅二テメルで十五段の棚を作り、限界付近まで魔力を込めた晶石が棚二つ半を占めている。


 いずれ使うにしても、早くしないと置き場に困る。



 魔力が吸われるに従い、被せの革に付いていた傷がじわじわと修復されていく。

 魔術具にはよくあることだが、魔素を充填したり魔力を流すことで多少の傷程度なら修復してしまう機能を持たせることもできるのだ。

 刺繍跡は残っているものの、短刀の刃で傷ついた部分が消えたことで本来の役目としての鍵が開封される。


 開封者の脳裏に『カチッ』と短い音が伝わり、柔らかな革を持ち上げて見せる。

 団員の誰もが開けられなかった鞄の蓋が簡単に開けられたことで、テーブルの周囲からは短く感嘆の声が上がった。


「間違いなく爺や……セヴェルの持っていた鞄です。根拠は蓋の刺繍と魔術開封、被せの裏に縫い込まれている王家のプレートですね」


 蓋の裏の小さな金属プレートには、リージュールの古語で細かな文字が刻まれている。簡単に現代の言葉に訳せば『王族本人、もしくは王族の許可を得て所有することを認める』という許可証だ。

 王族の教養として古語を習ったアスカも読むことはできる。


「鞄を開ける時に結構な魔素を持っていかれましたけれど、あと半年も見つからなかったら封が解けて中身を奪われていたかも知れませんね。

 内部を保存・維持する機能は問題なく動いていましたので大丈夫でしょう」


 以前セヴェルが教えてくれた鞄の機能は今も活きているようだ。

 ファンタジー作品で読んだことがあるような、内部の時間を停止して劣化しやすいようなものも保存できたり、見た目の容量以上の品を詰め込める魔術具である。

 王家が貸与していたこの革鞄は、容量だけでいえば女子棟の地上部分を丸々収めることができる程度だ。アスカの持ち物も一部は保管されている。


「中身をここで全部確認するなら、場所も時間も足りませんね。新たに整理用の倉庫を建ててしまうか、訓練場を半月ほど借りてしまった方が早そうです」


「こんな小さな鞄でですか――?!」


「ええ。見た目は小さいのですが、この鞄一つで女子棟一つ分くらいの容量があります。書籍だけで新館と女子棟二階にある図書館の書棚の倍くらいでしょうか?

 素材や個人所有の荷物でさらに倍、私が預けていた荷物や幼かった時のドレス、アクセサリーもあります。爺やに習っていた魔術具の試作品もありますので、全部ここに出したら身動きが取れなくなってしまいます」


 驚く会計長の横で、ランヴァルドが目を見張っている。

 ロセリアドの貴族学院に在籍していた当時でも聞いたことがない技術だろうから当然とも言える。この鞄が複数あれば流通が一変することは間違いない。


 同時にかかる費用は天文学的なものになる。複数作るために教えを請うにしても材料を揃えるにしても、リージュールの魔術師・錬金術師以外には素材や原理すら分かっていないのだ。


 教授の対価、材料の費用、技術を習得し作るまでの時間――全て不明である。

 何より、彼らには末端の団員が姫の従者の遺品を隠匿し所有していたという負い目があるのだ。謝罪を受け入れてもらえても、関係としてはマイナスからのスタートになる。


「素材は沼地の牙水牛スォンプヴェリ・ハンパァトと呼ばれる大型の魔獣から採れるお腹の革です。実際に棲んでいるのは湖の近くと聞いていますけど、猟期は夏の間だけだそうです。子育ての期間は気性が荒いので避けると聞いています。

 鞄の縫製に使われているのは翡翠角熊鹿(ヤーデ・カルフペウラ)の革から作った細紐ですね。被せの縁の刺繍は『紅玉大蜂の幼虫プナイネン・メヒライセン』が蛹になる時に作る糸で、染料は砂漠に生える多肉植物の花や茎から採った色素で染めたものです。部位によって違う色が採れるので、専門に育てている集落もあると聞きました」


「……全部初耳の生き物ですね。それはリージュールの本国周辺に生息が限られているものでしょうか?」


「ここの大陸から二つ隣の大陸では見ています。こちらの大陸にも近い種類の生き物がいるかも知れません。食べ物にしても、(わたくし)が知っているものと似ている種類もあれば初めて見る種類のものもありますから。

 希少種もあれば量産品もあります。この鞄に使っているのは珍しいものかも知れませんが、大事なのは魔術の方でしょうね」


 仕切りで区切られた内側の、一番手前にアスカが手を入れる。

 (てのひら)の半ばくらいまで差し込むと、指先に革らしいしっとりとした感触が伝わってきた。厚みはそれほどないが、以前使っていた書物だと分かる。


 とりあえず順番に掴み、カップが置かれていたテーブルを片付けてもらって数冊を並べ、表題を確認していく。

 最初に取り出したのは『アルペルッティの算術考察』で、アスカ姫が十歳くらいまで習っていた算術の本だ。日本では義務教育に当たる中学までの算数・数学と、高校で学ぶ内容の一部が書かれている。

 同じ著者の『算術精解』は高校の微分・積分や幾何、大学レベルの数学だったはずで、当時のアスカ姫にはまだ難しく、習っていない内容だった。


 続いて二百年ほど前の魔術教授でインマヌエル・エテラヴオリ侯爵の著書『精霊魔術体系詳解』やエサイアス・シーカサーリの著書『エサイアスの天文学』が重ねられ、さらに王都の魔術学院で学長も務めたというアイラ・アハマニエミ女史の『占星術概説』と『双月歳差と月相変化の解説』が並ぶ。


 その隣にはカレルヴォ・パロカンナスとエリーナ・パロカンナス父娘が共同で著した『第一大陸博物記』の初版が置かれ、夫と共に宮廷料理人を務めていたというマリアンネ・クンナス子爵夫人の『リージュール王宮の宮廷料理、そのレシピとマナー』が赤い表紙を見せる。


 他にも旅行家タウノ・キュルマネンの『三大陸見聞録』、ヴァイナモ・ライティネンの最晩年の詩集『月乙女への祈り』、薬師として有名だと教えられたマルヤーナ・サルメンハーラの『第一・第二大陸の薬草・薬効詳註』などが並んだ。


 四十年前にイーリス・リハヴァイネンが著した『魔術具構成詳解大全』は、過去四千年ほどの間に研究・製作された魔術具と現在の魔術具を比較し、動作理論と構造に関する考察、応用理論を書いた全二十巻の大著である。

 魔術具に関してはこれより詳しい書物はないとされていて、王城の図書舘と貴族学院の図書室にのみ置かれていたらしい。平民でも閲覧申請を出して審査に通れば読めたらしいので、基本的には研究者向けだったのだろう。


 二十年ほど前に来たという浮船が持ち込んでいなければ、まだこの大陸には存在していないだろう稀覯(きこう)書ばかりである。

 スペースの都合で出していない医学や音楽、小説、ファッションや被服に関する書物、楽譜集などは鞄の中に仕舞われたままだ。


 題名を読んで理解したアニエラとハンネがテーブルに手を伸ばしかけては戻し、互いに牽制し合うように視線を交わしている。


 リージュールには印刷工房などもあって平民向けに流通もしていたのだが、学院で発表した論文に属する著書や研究発表の本は流通自体が少ない。

 読む人間も限られるため、学院の図書館と王宮図書館だけに収められている著作も多いのだ。魔術関連の研究書もそれに当たる。


 基本的な魔術は教本も定まっていて平民にも教えられていたけれど、学術書まで読み込む必要がある者は限られてしまうからだ。


「ごく一部ですが、こんな感じですね。私の生まれた離宮に爺やが将来の教育用として持ち込んだ書籍が収められていて、別の大陸で購入した本も数百冊あります。

 魔術具は色々ですね。素材でいうとこちらに置かれている『精霊楓の糸(ヴァーテラ・ランカ)』の布と糸もあります。産地であるカリオッサーリの集落で仲良くなった娘に餞別(せんべつ)で頂いたものですが」


 糸は当時は刺繍に使ったくらいで、布も従者たち含め全員が四着ずつ作れるほど貰っている。乳母のレーゼがアスカ用の服を一着作ってくれたが、子供服であればそれほど布も使わない。

 そのため、布は大量に鞄の肥やしとなっている。しかも色が染料別に五種類も。

 売るところに売れば、国が大陸ごと買えてしまう。


「書物に関しては四割ほどがリージュールの古語で書かれているので、教材に使うには現代語への翻訳が必要ですね。私が魔術師たちに教えているものはセヴェルに教わったものを現代語に直したものですから、そのまま通用しますけど。

 アニエラもハンネも、本が気になるなら手に取って大丈夫ですよ。ティーナ、ネリア、彼女たちのカップも片付けてくれるかしら」


「承知しました、姫様」


「ユリアナも気になるのでしたら私の隣に座りなさい。いずれ目録を作らなければいけないし、翻訳の手も足りなくなるのは目に見えているから貴女たちには作業を手伝ってもらいます。学院で古語は習ったのでしょう?」


 ソファの隣をぽんぽんと叩き、彼女の目が吸い寄せられている『月乙女の祈り』を席の前に置く。

 著者のヴァイナモは四百年ほど前に亡くなった詩人で、その著書は古典に分類されるのだが、有名な詩篇『流星雨の夜に』以外は各国に広まっていなかった。


 これは浮船の随行員個々人の嗜好と優先度に左右されているため、どうしても実用ベースの技術や知識を伝えることが優先されてしまうという理由がある。伝える書籍も技術書が中心になってしまい、文学は全体から見ると軽視されているのだ。

 音楽や絵画、芸術などは実用に分類され、逆に魔術や錬金術の最先端研究は安全保障上、使節団が留学させる者を厳選して伝えることになっていた。


 この体制はリージュールの治世が完全に安定した七百年ほど前から維持されているもので、他大陸の国家承認を行い始めた二千三百年前よりずっと後のこと。

 現王家はアスカ姫にとっての父、アレクサンテリ十七世から遡ること四千二百年もの歴史がある。統一王朝として成立する前段階も含めれば、およそ七千年ほど。

 それこそ星の精霊との『契約』を結んだ時代にまで遡るのだ。


「ランヴァルド様や副長はあまり書物にご興味がなさそうなので、こちらをご覧になってみてください。メダルに加工していますけど、材質が分かりますか?」


 そう言ってアスカが革鞄の別区画から取り出したのは、淡いオレンジ色の光沢を帯びた硬貨のようなもの。

 厚さは一テミセ(ミリ)ほどで直径は二テセ(センチ)半。片側には夏の代表的な花でガーベラに似たジェルベジオと、反対の面にハイビスカスに似たマルヴァックが大きく刻印されている。


 光の反射で淡い青を纏うこともあるこの金属は、現在知られている限りではリージュールの技術者と鉱芸の民(カーピェオ)だけが作れるとされる『土妖精の銅(ケイユ・プロンシア)』と呼ばれる合金だ。

 アスカ姫が教わった記憶によると、銅とおそらくニッケルと思われる白銀色の金属に、アルミニウムと思われる金属をごく少量混ぜて、魔素を構造の中に織り込む特殊金属――だったはず。


 知っている限りではリージュール魔法王国で流通する硬貨にも使われていて、鞄の中には現物の硬貨も三千枚ほど保管されている。

 もっともリージュールでの流通価値と他大陸の各国家での価値に差がありすぎるため、簡単には使えないというデメリットもあるのだが。


「この光沢と軽さ……貴族学院の教授が一度見せてくれたものに似ているような気もしますが、妖精鋼でしょうか?」


 惜しい。『妖精の鋼(ケイユ・テラス)』と呼ばれる金属は同体積でももう少し重いのだ。

 別の金属であることを示すため、アスカはセヴェルの指導を受けた際に作った妖精の鋼を鞄から取り出し、その隣に並べてみせる。

 金属のサンプルはコイン型と、普段使いのペンの半分ほどの長さの棒の二種類がある。今回取り出したのはコイン型のものだ。


 さすがに武器などを作れる量のインゴッドを見せるわけにもいかない。

 対価を払うにしても、おそらくこちらの大陸では都市国家の年間予算に匹敵してしまうはずである。


「妖精の鋼と呼ばれるものはこちらです。今ランヴァルド様がお持ちのものは土妖精の銅ですね。リージュールの貨幣と混同しないよう、両面にコインを作った季節の花の絵を刻んだだけのものですが。

 爺やに錬金術を習った時、練習で作ったものです」


「これが妖精鋼ですか! ペン一本分もの塊があれば決して折ることが出来ない剣が作れるという……!」


 新たに置かれた赤味がかったコインを前に会計長のマイニオが叫び、ランヴァルドとスヴェンも興奮を隠せないようだ。

 だがそんなはずはない。確かにただの鉄よりも硬い金属ではあるけれど、これも結晶構造に魔素を織り込んで変質させているものでしかない。


 それに量的にもペン一本程度では刃を覆うメッキ程度にしかならないので、合金としての役割に大した意味がなくなってしまう。


「武器として使うのはあまり意味がないのですよ。素材だけなら精霊王の鋼や妖精銀など、もっと武器に適した金属がありますから。土妖精の銅は見た目も綺麗で錆びにくいので、リージュールでは通貨や楽器、食器に使われていたそうです。

 どちらも精錬にはかなりの高温に耐えられる炉が必要になるので、現在使われている団の専属工房の炉では耐えきれないでしょうね」


 アスカの言葉で喜びが一気に消沈したのか、残念そうなランヴァルドの表情を見ると申し訳なく思う。


 かつての従者であった騎士アクセリとルケイズの剣、それに御者のアルベルテが持っていた短剣には『妖精銀』が使われていた。

 レニエたちが持っていた懐剣は普通の鋼に見せかけていたけれど、実は刃の部分だけ精霊王の鋼が使われている。

 生母である王妃リューディアが離宮で直々に下賜したもので、生まれたばかりのアスカの従者として主を守る力を与えたそうだ。

 その経緯は母王妃が亡くなった後、乳母のレーゼが教えてくれた。


 けれど精錬には王族の許可が必要で、リージュールでも許可の降りた専属工房にのみ製造が許されている。

 王族という点では一人娘だったアスカも十分要件を満たすのだが、それをわざわざ教えてロヴァーニ周辺の軍事バランスを壊す気もない。


 セヴェルの鞄にしても、錬金術の触媒や素材の調査などが進まなければ劣化品の製造も難しいし、アスカ姫が大好きだった爺やの遺品を譲る気は毛頭ない。

 庇護してくれる人たちではあるが、そこまで助力をしなくても――という気持ちの方がまだ勝っている。


 自身の乗る客車の貨物スペースを改良するくらいなら、錬金術の教本と鞄に収められた素材・触媒を少量使うだけでおそらく可能だ。

 拡張される容積は、調達班が普段使う荷車で五台から七台分くらい。

 当面はそれで良いだろう。生前の日本人的な考えで動いては、アスカ姫として生きる方針が揺らいでしまう。


「素材の話はいずれまた。所蔵されている本や知識の一部は、王家の禁じた部分を除いて内弟子を始めとした者たちに教えていくつもりです。セヴェルの遺品を取り戻していただいた対価として、それはお約束しましょう」


「――ありがとうございます。図らずも団内から不届き者を出してしまいましたこと、今一度深くお詫びすると共に、姫のご寛恕に御礼申し上げます」


 ランヴァルドが座ったまま深く頭を下げる。隣ではスヴェンとマイニオも頭を下げており、マイニオなどはテーブルに勢いよく額がぶつかっていた。

 何とか彼らの頭を上げさせ、名残惜しそうに本を見つめるハンネたちをなだめて鞄の中に戻す。ライヒアラ王国にも伝わっていないだろう内容だけにゆっくり読ませてあげたいが、既に食事も終わって就寝時間が迫っている。


 最後にランヴァルドとマイニオから「遺品全体の評価額概算だけ教えて欲しい」と頼まれたが、簡単に答えるのは難しい内容だ。


 何しろ王家の図書館の収蔵品に匹敵する書籍が数千冊、こちらの大陸では希少な鉱物・素材のストックが荷車で数台分ずつ。

 成長してもう着られなくなったアスカのドレスやアクセサリー、宝飾品、騎士たちの予備武器、魔術具、工芸品、酒類なども小さめの二階建ての家一軒分くらいの容量で詰まっている。

 全体であれば女子棟の地上部分で一棟分だ。鞄自体の価値も相当に高い。


 概算で構わないと言われたので、リージュール小金貨に換算した数字をユリアナのノートの隅に書いてみせる。もし流通に乗せたらという仮定で断りを入れたが、その数字は予想外に大きかったようだ。


 会計長が持ち込んでいた算石(さんし)で金貨の交換レートを計算している。

 そして大まかに把握した直後、マイニオは泡を吹いてソファに崩れ落ちた。





「――元々処分するしか無かったが、一族ごと犯罪奴隷に落としても足りないな」


 アスカ姫がユリアナの先導で部屋を辞した直後、スヴェンが呟いた言葉が執務室に静かに響く。重苦しそうに頷いたランヴァルドの隣で気を失ったマイニオは、当分復帰できそうになかった。


 ライヒアラ王国と近隣の国々で流通している小金貨に換算しておよそ八億枚。


 細かく中身を確認したわけではないし、それ以上に希少なものが含まれている可能性もある。それでも、現状流通していると推定される金貨百四十万枚の約五百七十倍だ。

 大小の銀貨、銅貨までの流通貨幣を足し合わせても全く足りない。


「死罪にするのは簡単だが、これはなぁ……」


 比較的命の扱いが軽い世界であっても、償いの差が大きすぎる。

 奴隷に落として生涯支払わせると仮定しても、どれだけかかるのか。

 不死者(クォレマトン)であっても、一人で休みなく働き続けて賠償が叶うのは数千年先だ。一族総出でも数百年。とても現実的な対応とは思えない。



 この後数ヶ月、団長と副長のスヴェン、夜半に意識を取り戻した会計長マイニオの三人は犯人の処分を巡って頭を悩ませることになる。

 犯人の奴隷落ちと財産没収が決まり、直営商会からの上納金が一割ほど増えたのと、二十年ほど先まで幹部手当が年に金貨二枚ほど減るようになったのは、全幹部への説明が終わった夏の終わり頃だった。


紫水晶の変色はイオンの影響で、長時間紫外線・放射線を当てたり加熱していると内部イオンが正常状態に戻って黄色っぽくなり、シトリン(黄水晶)という名前に変わります。天然物は少なく、紫外線処理や熱処理したものが多いようですが。



先月入院した父は二度ほど危篤寸前(主治医に「全力を尽くしますが覚悟してください」と言われました)まで行きましたが、腹膜・腎臓の炎症等も何とか収まって無事退院し、現在リハビリ中です。


22/04/20 02:00 一部加筆・修正

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― 新着の感想 ―
[一言] リージュール完全攻略本ですねこれは、博物館にも匹敵する。 そしてお父様の一日も早いご回復をお祈り申し上げます。
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